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[小瓶に詰められた匂いを身体に纏わせ部屋を出る。そのまま静かに広間へと足を向ければ、部屋へ戻るネリーとすれ違う。しかし彼女は自身の存在を認識できないようで──]
…彼らにも、通用するわね。
[確認するように呟く。そのまま広間へと入れば残ったものがまだ問答していて。その成り行きをじっと見つめる。途中ガラスを破り外に出るナサニエルが目に付いたが…そちらに近付いて様子を見ようとすることはせず。どうせ、結果は目に見えているから]
死なない程度に痛めつけられ…屋敷に戻される。
外へ逃げることは、許されない。
[戻ってきたナサニエルを見つめ、一人ごち。アーヴァインが本気であることを否が応でも実感する。
否。
自身の存在が、既にそれを証明していたが]
[一歩、踏みとどまり、双眸を眇め、女を見]
私が…殺す、の…は、気の、毒な…人狼…だけ、で、充分…
無差…別…に、殺し……たり…
……パン、ドラの…箱…に…金、持ちの…気紛……れ…
何処………か…
[とさりと軽い音を立てて床に倒れ込む]
[ゆらり震えるか細い腕を床に着き半身を持ち上げ]
「私も、シャーロットを、殺さない
傷つけたり、しない」
[泣きながら後姿に叫ぶも声は無くて届かなくて]
………
[周囲を見回し女の様子に紫水晶は揺れ]
「ローズマリー、殺し、合わなく、ても、笑い、合えば、世界は、温かいよ」
[扉の開く音に女に一礼して震える身をなんとか立ち上がらせ其方へ向かえば、傷だらけの男の姿だけが其処に残されていて瞳を見開き]
「ナサニエル、ナサニエル、ナサニエル」
[去っていくナサニエルと、倒れ込むセシリア。]
ランスロットは外へ行き、あなたがそこへ倒れ込んでは――
私が快楽殺人者や事態に冷静さを欠いた愚かものなら
――あなた今頃死んでるわ。
[セシリアが消え、ナイジェルが顔を出せば冷たい敵意もやわらかい色に戻り]
――そうだといいわね。
[と、一言。傷だらけのナサニエルの元へ走る姿を見送れば、ポケットに入れていたラム酒を*一気にあおった*]
[思い出せ、かつての己を。
思い出せ、その手に彩られし赤き雫を。
思い出せ、その時感じた高揚を──]
簡単なこと──。
過去に、戻るだけだわ。
[殺られる前に殺れ──。
ここは既に無法地帯。
昨日までの穏やかな関係も、すぐに崩れて消えるだろう。
殺されるくらいなら、殺せば良い。
何を迷うことがある?
殺せ、殺せ、殺せ──]
そう、殺せば良いのよ。
彼らだって私達に牙を向ける。
なのに私達は何もしないなんてことは無いわ。
相手が牙を向けるなら、こちらも牙を剥けば良い。
牧師様がやらないと言っても、私は、やるわ。
[その笑みはどこか狂気じみていたかもしれない。姿をくらます香水をまとったまま、ふらり屋敷の中へと*足を運ぶ*]
[頬を伝う涙を拭いながら見える範囲の男の傷の手当を終えるも、目覚める気配の無いのに不安気に瞳は揺れ、何を思ったか立ち上がれば男の割った窓へと寄り、唇を噛み締め闇を見据え窓枠を掴みなんとか外へと這い出て、硝子の破片は掌に新しい傷を作ったかも知れないけれど、暗い中を警備兵を探して歩き回り、乱暴に服を摑まえられるのにすら安堵して微笑み]
「お願い、ナサニエルを、ベットに、運んで」
[突き飛ば尻餅をつくも警備兵の足に縋り、見下ろしてくる眼は酷く冷たかったけれど、唇が同じ言葉を繰り返し]
「大人しく、戻る、から、お願い」
[屋敷を指し示し懇願すれば、呆れ果て見下し顎先で屋敷へ向かえと指図されるのに、一つ頷いて立ち上がり、開く扉に背中から思い切り蹴られつんのめって床に倒れこみ、警備兵が戻ろうとする足に更に縋って]
「お願い、ナサニエルを」
[思い切り頬をはたかれ床に倒れ付すも掴んだ足を離さぬ様子に警備兵も些か辟易して、男をエントランスのソファへと乱暴に投げ捨て今度こそ出て行く後姿に感謝の言葉を乗せる]
[扉の閉まる音に瞬きよろめきながら立ち上がり、ブランケットを求めて一旦は客間へと戻るも、青の少女の姿がベットに無いのに瞬けば、何時も眠っているソファに其の姿を見止め、静かに歩み寄り遠慮がちに優しく青の髪を撫ぜて]
「ありがとう、シャーロットは、やっぱり、優しい」
[ブランケットを持って部屋を出れば、男の所に戻りふわりとかけて、泣き出しそうな表情で男を見詰め]
「私は、誰も、傷つけたく、ない」
[そっと手を伸ばし男の頭を撫でるふりをし]
………
[客室も安全と言えるのかも判らないから青の少女が気になり2階を見上げるも、広いこの空間に一人で眠らせておくのは心配で、結局はソファの横の床に座り込み膝を抱えて、脅える紫水晶の瞳も夜の明ける頃には重い目蓋に*塞がれるのだろう*]
[扉の開く音に、目を瞑って眠った振りをした。
近づく気配。
ふわりと髪に触れた柔らかい感触。
おかえり、と、そう告げたかったけれど
今は彼女との干渉はすべきではないと思った。
眠った振りのまま。少女の気配を追った。
やがて扉が開いてはすぐに閉まる音。
足音が遠ざかった頃に、
す、と目を開けて、弱い笑みを浮かべた]
……やっぱり貴女は優しい人。
……貴女の、大切な人は――
[すとん、と言葉を飲み込んで。
何事もなかったかのように、
一人の部屋で*双眸を伏せた*]
いっ…
[痛い。寝返りをうとうとして、はしった激痛に呻いて覚醒する]
ああおれ、またケンカに負け――
[靄のかかった頭はうわ言のようにそう呟かせて、しかし腫れた瞼をこじ開けて見渡せばそこは、逃れられなかった現実。
屋敷の中、エントランスホールのソファの上]
いや…、そうか。そうだった…
[ふざけた装備にふざけた数の警備兵達。
警備というよりは彼らは本当に、獣が檻から逃げ出すことを警戒して配置されているかのような状態だった。
倒すことはおろか、逃げ切ることすらできずに――]
袋にされたと…
…情けない。
[血のこびりついた前髪の一筋をほぐそうとして、手当てのなされた手の傷に気がつく。かけられたブランケットにも]
誰が――…ナイジェル?
[床で膝を抱えて眠る少女の姿に体が軋むのも構わず身を起こして、その新たに傷の増えた掌、薄ら赤くなっているようにも見える頬に気が付くと、彼女が自分にしてくれたであろう事に、さんざ殴られても出なかった涙が滲む。乾いた少女の涙の跡をそっと拭い]
ごめん……ありがとう。
[抱き上げて床ではなくせめてソファで休ませようにも、傷んだ体では難しく、持ち上げられないまま膝をつく]
はは…これじゃオレ本当におまえにだって…
…おまえの中のセシリアにだって……殺されちまうかもな。
[揃った連中のなかじゃ一番強い気でいたのに。
だがそんな事よりも、いざという時この少女を誰かから――
あるいは、誰かを少女の姿をした何かが殺してしまうのを止められないのではと、大きく吸う息が慄きに震える。
せめて血で少し汚してしまったブランケットで少女の小さな体を守るように包むと、ソファの上で力尽きる様にもう一度*目を閉じた*]
[朝、ネリーは鏡台の前で座り込み目の前に映る自分の姿を覗いていた。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。誰の酔狂がこのようなものを現実たらしめているのだろう。
ネリーはかつて、とある夫婦のもとへ半ばだまされる形で売り払われた。そこでの生活は過酷なものだった。
限りない強欲な夫婦を身につけた家だった。ネリーは何度も傷つけられた。今も明確に残る傷はほとんど残っていないが歯が抜けてしまうのではと思うほどの力で拳で殴られることは日常茶飯事だった。
彼らは精神を病んでいたのだった。
ネリーが身につけたのは多少の生活力のみ。
ただ耐え抜くだけのために暴力を受け入れていた。]
やがてネリーの預かり知らぬ所で夫婦の関係に亀裂が走った。激しい喧噪。喧嘩の矛先はやがてネリーに向かった。
傷だらけのネリーは耐えることができなくなってしまっていた。ネリーはやがてナイフを握りしめることを決めた。
ネリーはワンピースを脱ぐと自分の前の鏡の姿を見た。
胸に大きなクロス形、十字の刃物の傷跡がある。
1年以上前とは言え、ネリーの肌からは決して消えないものであった。]
[ネリーは自らを守るためにドス黒い感情を持ち合わせることを厭わなくなっていた。
暴れたから――と言うのも間違ってない表現だ。
自分を守るため――と言うのも。
この感情が、はたまたアーヴァインの嗜好が彼女をここに連れてきたのかもしれない。]
私は…死なないわよ…
皆、何かしらの明確でなくてもそれなりの理由がある。
そして皆、注射の種類が違う。どうにかして違いを区別しなければならないわ。
ルーサーも、ナサニエルも。ステラもシャーロットもナイジェルもシャーロットも。
ナイジェルとセシリア…どちらのほうがよく自分を知っているかしら。
生活力ならあの一瞬見せたあの子だけど、真実に近いのは私がよく知っているあの子だと思うわ。
私は彼女を傷つけたくない。でも時と場合によっては手段を選んでいてはいけないのかもしれない。
[ネリーは再び静かに服を着た。
そして自分の部屋にまだ転がっている自分やナイジェルを拘束していた金属や革のベルトを見た。]
これを使ってでも聞き出さないといけないかもしれない。
他にはナサニエルさんやローズマリーさん…ローズマリーさんは酔狂に身を任せているのかもしれない。そこにヒントがあるのかもしれないわ。
[ネリーは自分の部屋で静かに*息をしていた*]
[部屋のソファーで薄く目を開けて、仰ぎ見る天井。
殆ど眠っていないように思える。
不眠症。もうそれにも慣れてしまった。
クロークを開け、シンプルな薄青のワンピースを着替えに。
浴室へ向かいシャワーを浴びる。
ぬるい湯は尚更頭を暈してしまいそう。
濡れた青の髪がぺたりと頬に張り付いて。
つ、と指先で摘む一房。
何故自分は此処に居るのか。
優しさを、微笑みを、そして狂気を与えられ
此処で何をすれば良いと言うのか。
一層、極刑でも、いつもの病棟の保護房でも構わない。]
感情なんてなくなってしまえば楽なのに。
[自室のソファに腰をかけ、足を組みながら人差し指を顎に当てるような形で昨晩のことを振り返る。
―― それを羨ましいと言うなら、
あんただって本当は生きたいのさローズマリー ――
羨ましい……何故あんなことを口にしたのか理解に苦しむ。
イラつきながら髪をかきあげ立ち上がると、シャワールームへと入り、熱いお湯を頭から浴びて何もかも流してしまおうと。]
……生きたいと、死にたくないは、一緒じゃない。
……死にたくないことと、死にたいわけじゃないことも。
[生きたいのかとも一度は考えてみたものの、生きたい理由が矢張り見つからず、死にたくないのではなく矢張り死にたいわけではない、に落ち着いてしまった心は流すことも出来ず。]
[シャワールームから出ると、リボン付きの黒いブラウスに紺色のフレアスカートを着て部屋を後にする。]
運も実力のうちとは、誰が言い出したのかしら。
[くすりと哂う。悪運だけは強いらしい自分。
相手に勝つと、生きてもいいと、相手よりも生きる価値があると言われてる気がした。何の目的もなくただ生きている自分と、死にたくないと言った相手と。秤にかけて、自分の方が生を得たのだと。
その時を思い出してか、自らを抱いて甘い息を一つ吐き、館内を見て回るべく*うろつき始めた*]
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