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…うん。
[両肘を卓上に乗せ、腕を組むようにして]
[視線は机に向けられていたけれど、見ていたのは其処ではなく]
俺が…何時も、雪を見ていた…から、なんだと思う…
…雪は、全てを…覆い尽くして、くれて…隠してくれて…
でも、触れると、直ぐに…解けてしまう…
[彼にしては雄弁に言葉を紡ぎながらも、其れは独り言のように]
…其れは、俺の手が、あたたかいからで…
自分が、此処に…“在る”んだ…って、思える、気がして…
[言葉の途中、ああ、と溜息が洩れて]
[青の眼差しは漸く、少女へと向けられる]
…うん、だから…雪は…、 好き… なのかも、しれない…
感じられる、から…
だから、よく…行って…いたのかな、って…思う。
[只黙して紡がれる言葉を聴きながら
横顔を見詰める碧い瞳はゆらゆら揺れ
零れる溜息にゆっくりと一度、瞬いて
青の眼差しを受け止め僅かに細める]
うん…カキ氷も…お気に召してた…
[ゆらり、と身を起こしてまた瞬いて]
ナサニエルは、此処に居るよ。
ナサニエルの手は、あたたかいよ。
[とても嬉しそうにふんわり微笑んで]
ナサニエルの好きなもの、一つ、見つかったね。
[緩やかな少女の動作を、じっと、見詰めて]
[微笑む様子に、青の瞳は、揺らぎを見せて]
…………うん。
[呟いた声と表情は、普段と大差ないながらも、
ほんの少し、柔らかくて、嬉しそうだっただろうか]
ありがとう。
[幾つか言葉を探したけれど、それしか言えなくて]
[もう一度、口唇を僅か開くも、音は紡がれずに]
[逡巡の後、冷め始めたレモネードを飲み干し]
[椅子から立ち上がると、暖炉の方を見遣って]
…コーネリアス、…運ばないと、ね。
[カップを片付ければ、少女にお休みと挨拶をして]
[青年を部屋へと運んだ後に、*自室へと戻るだろう*]
[揺らぐ青と微か普段より柔らかな雰囲気]
ん、ありがとう。
[開きかけた口唇に一拍は言葉を待つも紡がれず]
…言葉にならない、のかな?
無理に、言葉にしようとしなくても、良いよ。
また、好きなもの見つけたら、教えて?
ん、コーネリアス、よろしく。
おやすみ、ナサニエル、素敵な夢を。
[後姿を見送ればグラスを手に窓際へ
降り止まぬ白の結晶を眺め一口飲み]
[静寂に揺らぐ碧]
[小さく息を吐いてゆるゆる首を振り
暫くはそうして窓の外を眺めてから]
寝ないと…
[呟き*部屋に戻った*]
[ぼうっとした、明らかに寝不足の目を擦りながら...は部屋を出てきた。
危なっかしい足取りで階段を降り…後数段のところで足を滑らせ、転びはしなかったものの、段に座り込むように尻餅をつく]
…今日、仕事が入ってなくて良かったぜ…。
[ぽつりと呟き。のろのろと立ち上がると、暖炉の前に移動する。
特等席に緩く胡坐をかいて座り込むと、薪を幾つかくべ、舞い上がる火の粉をぼんやりと眺め…やがて。
今になってまぶたが落ちてきて。
ごろり、と床に崩れこみ、寝息を*立て始めた*]
[やけに深い眠りから目を覚ます。自室の天井が真っ先に視界に入った。]
あれ…どうやって帰って来たんだっけ?……っていうかコーネリアスは無事か!?
[慌てて跳ね起きると、壁際で眠るローズマリーの姿があった。]
……ローズマリー?なんでこんな所に?ちゃんとベッドで寝ないと風邪ひくぞ。
[ふうと溜息をつく。部屋が分からない相手を起こさないように、自分のベッドにそっと寝かせた。]
――集会所 自室――
あーあ……
[鏡に映された、赤くなっている目覚め眼見てため息交じりの一言]
今までこんなに感情を表に出してしまう事があっただろうか――自分に問いかけたくなりたくなるものの。
さすがにこのままで表には出れないので冷水で冷やしつつ眼鏡をかけて隠しておく。
まだ若干残っているがこれならわからないだろう。
多分。
――早く祭が終わりますように。
――早く雪が解けて春が来ますように。
そんな事をいつも祈っている。
でも………
なんで昨日はあんなことを。
まるで俺が全部悪いみたいじゃないか。
[机に向かい、鞄からノート類を取り出した。ミミズが踊るような字で書かれたメモと、背中の向こうで眠るローズマリーの姿を交互に見やる。]
……いや。全部俺が悪い。
[煙草に火をつけ一服すると、机に肘をつき頭を抱えた。]
……どうやって謝りゃいいんだよ……
[紫煙は昇り、溜息は地を這う。]
[階下を降りる――と。]
……あらあら。大きな熊さんがオネムだわ。
[暖炉前の床に転がって寝息を立てて気持ちよさそうに眠っているクインジーをつんつん突付いてみる。――反応なし。よく眠っているようだ。]
[暫し考えた後。毛布を顔ごと体に被せてあげた。]
……一見すると殺人現場で
シートを被せられた遺体みたいだ。
[ポツリと縁起でもない事を呟きつつ]
[床に転がり安らかに眠るクインジーを見届けると空いた特等席に腰を下ろして祭りの装飾品作りの続きを始める。一つ…一つ……]
………誰?
[扉から現れた来訪者――アーヴァインだった]
[アーヴァインの話を要約すると昨日のマリーの様子が少し心配で、それに家にも帰ってないみたいだったから様子はどうだったか――が知りたかったらしく]
……別に、元気そうだったけれど。
帰ってこないのは…逢引なんじゃないの?
こんな時期だし。
[振り向きもせず、さらりと冗談なのか本気なのかわからない言葉を返しながら手を動かして]
―ノートのメモ―
「永遠に幸せになれる」という言い伝え(スノーキャンドルを女神に捧げる)
【女神】村人にとっては「祭りだけ」の存在ではなく、普段から信仰の対象。
⇒山岳信仰の形式のうちのひとつか?
【言い伝えの内容】
《女神となった女性像》
・村娘→想い人と結婚して幸せになった説/結ばれなかった説
・「キャンドルを燈すと白鳥が人間の娘になった」
・村娘=年端のいかない少女説
それにしても「祭りの起源」の部分が曖昧なんだよな…。言い伝えとかも皆バラバラのこと言うし。……何なんだ「白鳥が人間の娘になった」説って。昔話か?
……ま、よくある話か。
あとでここにいる村の人にも聞いてみるかな。
[煙草をふかしながら、ぼんやりと天井を見上げる。]
……「永遠にシアワセになれる」ねぇ。観光スポットならともかく、村の祭りだ。しかもそれが人の生活にも深く関わってる。「祭りで結ばれる」のが、この村ではごく当たり前で……
俺の両親もそう。
……ローズマリーの両親も、そうだって言ってたな。
[ベッドで眠るローズマリーをちらりと見た。]
[ゴホン、一つ咳き込むアーヴァインに一人黙々と作業を続ける彼女――暫しの静寂の後]
[お前はどうなのか―?早くしないと俺の恋人候補になってしまうかもしれないぞ?
……などと少々冗談めいた感じで言われれば]
…ならアーヴァインさんは晴れて
村公認のロリコンになるわね。
[容赦なく人の冗談を叩き返して
――また訪れてしまった静寂の間]
……ねえ。アーヴァインさん。
[今度口を先に開いたのは彼女だった]
……この祭りで結ばれた人は永遠に幸せになる、
…そう言い伝えられているよね。
……ん…?
[何処か重い自身の体と覚めきらない意識に頭の中で疑問符を浮かべて目を薄らと開くと飛び込んできた眩しさに目を眇め。額に手を置いて状況把握しようと思考を巡らせ]
……えーと…?
どっからが夢で、一体いつから僕は惰眠を貪っていたのでしょう…?
[灰皿を手に取り、椅子から立ち上がる。]
「スノーキャンドル・ベイビー」とは、よく言ったモンだよなぁ……。雪祭りで結ばれたカップルの子ども達が再び、雪祭りで結ばれて家庭を築き、子どもを授かる。その流れは、延々と受け継がれてゆく。
俺はマトモに雪も降らない、味気無い都会育ちで、この村には今まで滅多に来なかったけれど……雪祭りのことは知ってたし、俺が「スノーキャンドル・ベイビー」であることは耳にタコができるほど聞いた。
……だから、この祭りのことを知りたかった。これは、俺のルーツだから。
……私の父さんと母さんは10年に一度の日に結ばれた。母さんはいつもそれを嬉しそうに私に話していた。けれど……続かなかった。
…父さんが他の人と願いを叶えてしまったから?
………ならば私達は、何処へ行けば良いの?
[アーヴァインは、只黙って聞いていた]
永遠って何なの……?
[プツリと]
[作っていた装飾の紐が切れ、
パラパラと床へ転がり落ちる]
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