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――書庫内――
[幾重にも立ち並ぶ本棚から...は、一冊の古びた本を取り出す。例のアーヴァイン家の言い伝えを綴った本。
その本を一ページずつ丁寧に捲っては文字を辿る作業を繰り返していた所、彼の目はある一節でふと止まる。]
アーヴァイン家の…出生の…秘密?
[思わず口にしては、指は動きを止める。視線は文字列へと釘付けになり、読み進めていく内に深い溜め息が口許から吐き出される]
…何これ?――魔法によって伴侶となった男に子が授かるって…錬金術も真っ青な話だよね…。
しかも…?その魔法の効力を試す為に生贄を必要とするって…。――…一体どれだけ他人を不幸にすれば気が済むんだろうね、この家って…。
[眩暈を覚えて、思わず本棚に寄り掛かる。湧き上がる記憶と微かな疑惑に目を逸らしたくなって蹲る。]
…大丈夫…。まだ…そうと決まった訳じゃないし……うん…大丈夫。
[自分に言い聞かせるように、何度も何度も同じ言葉を繰り返し呟いた。]
書庫、よってくかな。
[からくりの本を思い出す]
[原理などもきちんと載っているかもしれない。]
……からくりの基礎をしりゃ、脱出もしやすいだろうし。
―書庫―
嗚呼、こんばんは。
[今はまだハーヴェイに気づいていない]
先日、見つけた、サイン入りのからくりの本、見せてくれねえ?
[どれ位蹲っていたのだろう。すっと立ち上がると頭を横に振りながら]
まだ…決まった訳じゃないし…。逃げられる術はあの人にも有った筈だし…きっと大丈夫。
だから今は…自分達の事だけを…考えなきゃ…
[そっと呟き、手にしていた本を元に戻した。]
今日は静かだな。昨日までとはちがって
[それから、ページを開いて]
そういえばハーヴェイ、此処これてたか?
[なんとなく、尋ねた。]
[...は、書庫にケネスが訪れていることなど知らずに、本棚の間をすり抜けては立ち止まり…]
何か…もっとみんなの役に立てたら良いんだろうけど…。何度もからくりに足元を掬われても…結局解らず仕舞いってのも…悲しいね…。
[目で追うのは建築関係の書物ばかりで。しかし元々接した事の無いジャンルの学を...が簡単に習得できるはずも無く。]
[僅かな歯がゆさだけが通り過ぎていく。]
[何時もの木陰、幹に体を預けてぼんやりと。
常のように眠っているわけではなく、ただ思考の海を漂う]
……ん?
[ふと誰かの気配を感じて振り返る。
少し離れた場所に使用人の制服を纏った男が一人]
どした、飯の時間か何かか?
…って、ああいいって。
わざわざ払わんでも自分で服くらい払えるから。
[立ち上がれば寄って来て律儀に服に付く芝を払おうとする彼を片手で制し、自分でぱんぱんと]
んで、何かあったのか?
……は?契約?
契約って何の…んなっ!?
[唐突に眼前まで迫ってきた使用人の顔]
[反射的にぶん殴った。ぐーで。]
…………正当防衛、だよな。
[足元に転がる、完全に意識を落としている使用人。
手加減し損ねた攻撃は、顎骨に罅を入れたかもしれない]
―書庫―
[ひら、ページをめくる音]
[違う音が聞こえる]
ん? 誰かいるのか?
[司書が濁す]
[よくわからずに、立ち上がり、音の方へ]
[足音を立てないのは癖なのか]
……ハーヴェイ?
[姿を見つけ、思わず、声をかけた。]
[二人を置いて広間から立ち去ったはいいが、目当てのもう一人が見当たらない。
一応は二人から協力を取り付けたのだから、ケネスは放置すべきだろうか。
廊下の中ほどで思案中。]
一応は探してみるか・・・
[すっかり勝手知ったる何とやらとなった、手近の壁を叩き隠し扉を開けると、その中にするりと入り込んだ。]
[自分と司書以外、誰も居ないと思っていた書庫に響く声]
[呼ばれたのが自分と気付き、一瞬だけ――身を震わせ瞳をぎゅっと閉じてから。いつもと変わらない笑顔で振り返る]
あれ…ケネスさん…?
ケネスさんも…何か探しものですか?
[――ふわりと]
[広間の扉を開くも、其処には召使や使用人以外誰も居なかった]
…珍しいな、俺が最初か?
[頷く女中は食事の準備が出来てると言い、そのまま厨房へと。
テーブルに並べる邪魔にならぬようにとソファへ移動して]
[このソファに座るのは間違いだった、と気付いたのは次の瞬間。
勝手に脳裏に蘇る記憶に片手で顔を覆って溜息を吐いた]
[曖昧に返ってくる返事に苦笑]
[それはいつもの彼の癖]
[しかし、眉を寄せた難しい顔で訊ねられれば、心底困ったように首を傾げて]
――何故ですか?
[返す言葉は疑問に疑問を重ねた、ただ一言。]
[違和感は消えることなく]
[一歩近づいて]
無理してるんじゃないか?
……まあ、しないってのはできねえのかもしれないが。
何と云うか
[壁があるようだと感じて。]
[然しそれは口に出せず]
[一歩近付かれれば、更に僅かに身を震わせ]
無理…ですか?そんな事有りませんよ…。
可笑しな事を言うんですね、ケネスさんって…。
[柔らかく微笑む。防御の為に]
本当に、可笑しなことか?
[震えは目に伝わり]
[逡巡]
……ハーヴェイ
[其れを吹っ切るように、]
[距離を、詰めて。手を伸ばす。]
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