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〔囁くような女性の唄声が、がらんとした食堂に響いていた。来合わせた此方はその音色が途切れるまで入口に佇み、やがてローズマリーとその連れの元へ歩み寄る。〕
状況に即した選曲だと思うが。
〔感想を呟いて、ローズマリーの唇を見遣る。引かれたルージュの所為で本来の色味は見て取れず――見下ろす視線を彼女の瞳へあて〕
――済まんな。会議中だったろうか。
〔微塵もそうは思っていない声音で口を開くと、医療キットの入ったアタッシュケースを椅子のひとつに乗せた〕
確かに。
[肩をすくめて同意し、ふいに変わった話題には]
またどこかで届かないラブレターでも書いてるかもしれないけど
中核部か、ギルの所か、通路のどこかとか?
[喫煙スペースではない"喫煙所"のことらしく。]
コーネの部屋は知らないし。
[首を振って否定する様子を静かに見つめ、けれど真意は彼には伝わらなかったようで僅かに首を傾げたけれど、深く追求もせず]
この先のこと?
……皆が皆、生きることに必死になれば何が起こるかな。
あまり考えたくもないけど、考えなきゃならんらしい。
[あくまで抽象的な回答。けれど瞳には苦い色が宿る。]
[急かすように並べられる駒に肩を竦める。
こちらはまだルールも理解していないというのに。]
……似たようなもの。
[向けられる視線にゆっくりと瞬いて。]
私の話す相手は大半がうーくんだし。
それを会議というなら常に会議中だ。
[動かされる駒を追いながら首を傾げて。]
――……誰か殺して食べる?
…では、少しの間三者会談とさせて貰おう。
程度の差こそあれ、皆電気信号で
動いていることに変わりはない。
〔東洋のボードゲームよりは、うさぎを模したロボットに興味を示してちらと見遣る。うーくんと呼習わされるらしきは聞き及んでいるのか、取立てて尋ねることもせず〕
…
おそらくそうなる。
死なん程度に切り取って喰う、では間が持たん。
〔そうする、ではなくそうなる、と。〕
[会談の席に混ざった男に興味を示したように、
本物のウサギとは唯一違う黒いガラスのような目がそちらを捉えて。
ぴょこぴょこと寄るのはとめないまま。]
何とも素敵な極論。
私とうーくんが同じモノなら幸せだ。
[頬杖をついたまま、盤面を放棄しているウサギを視線だけで追い。]
切り取って食うのは勘弁してほしい。
後の生活が面倒だ。
……ああ。
私を食べるときは痛くないようにしっかり殺してから食べてくれ。
[何処まで本気かわからない、相変わらずの笑みを貼り付けたまま。]
遊戯盤を何になぞらえて呈したのか
――訊きたいところだが。
〔近づく仕草に、重心がどうなっているのかと手を伸ばしかけるも留め――黒々とした眼に問い掛ける。それは観察するためのレンズに過ぎないのかもしれないが〕
この生きものは、お前が診る。
僕は僕に理解できる生きものを診る。
それで十分だ、Rosemary Muller.
〔うさぎが此方へ寄ってどうするかは知らず…座したローズマリーの細い肢体を眺め遣る。卓へ置いたアタッシュケースへ肩肘をかけて溜息をつき〕
…同感だ。希望は記録して記憶しよう。
薬は使ってやれんが…善処はする。
逆に僕を喰うときは、――そうだな…
…まずい、とは言われたくないな。
その程度だ。
〔微かに目を眇めて、白磁の頬へ笑みを浮かべるローズマリーを見詰める。一度言葉を切って暫し思案を置いた後に、緩く被りを振り〕
――ああ、否…
その時は…僕の"声"を、これにやってくれ。
〔胸ポケットのボイスレコーダーを少し引き出して見せながら、うーくんを視線で示して*告げた*〕
―通路―
[人工的な照明の光を見続けていたが、緩やかに瞬き傍らを漂う重力装置のスイッチへと手を伸ばして、無重力状態を解除し身支度を整え部屋を出る。
音の無い常の夢遊病者の如き足取りで通路を進み、話し声――離れているのか内容までは聞き取れない――と複数らしき人の気配に歩みを止め、確認する様に周囲を見回すも、未だ近くに人の姿は見当たらず緩やかに瞬く]
あと、八人。
[小さく呟き思案気に首を傾けた]
[ウサギは男の顔をじぃと見上げたまま。
観察しているのか別の意図があるのか主にもわからないまま。]
……うーくんの考えていることはうーくんにしか判らない。
私はうーくんのメンテナンスはするが思考回路までは調整しない。
[うーくんに触れるのを躊躇う様子に、こちらは遠慮なしにうーくんの頭をぽむと撫で]
薬なんかいらない。
苦しまずに殺す方法なんて幾らでもある。
――……美味いか不味いかは食べてみなきゃ判らないな。
一説には豚肉によく似た味らしい。
[示されるボイスレコーダーに緩く片眉を上げて。]
……うーくんに?
君が望むなら構わないが。
[判った?とうーくんに問う。本人は判ったのか判ってないのかのんびり毛繕いの様子。*]
―ずっと、考えてた。一時は覚悟もした…けど。
[やはり人間を―守るべき存在と父に習ってきたものを喰らってまで生き延びる事に執着など出来なくて]
…そうなったら―どうする?
[立ち尽くしている間にも複数の気配は此方へ近づいて来る様で、やがて廊下の向こうにラッセルとナサニエルの姿を見止め、挨拶の代わりにゆっくりと瞬きを一つ]
セシリアの居場所、知ってる?
[交互に二人を見詰めるも最早見回りが必要な状況なのかも判らず、通常業務時と異なった行動を取り始めているらしきを見て取ってか、其処に居ない同僚の所在も普段とは違うかも知れ無いと問う]
[呟きには通路の先を見つめたまま耳を傾け、
最期の問いにも視線は前を見据えたままで――]
なってみなきゃわからないけど……
少なくとも俺は自分より「人」を生かすことが優先だから。
[その続きは言わず。]
―自室―
[紙媒体の書籍を広げ、ベッドに寝転んで視線を走らせる。
もう何度も読んだ本で、
角は擦り切れ危うく形を保っている体である]
『赤頭巾が「お腹がすいたわ」というと狼は「戸棚に肉があるからお食べ」と言い、赤頭巾はそれを食べました。戸棚の上に座っていた猫が「それはお前の母さんの肉だよ。お前は母さんの肉を食べているんだよ」と言いました。赤頭巾は「母さん、猫が私は母さんの肉を食べてるって言うわ」と狼に言いました。狼は「そんな猫には頭巾を投げてお終い」』
[一部の音読を終えて、本を脇へ放り出す。起き上がって]
………お腹すいた。
[コップ一杯分の水を喉へ流し込む]
[自分達が探していた相手が向こうからやってくるのに瞬き、
いつものような挨拶を彼がするとこちらも軽く片手をあげて]
セシリアなら――
一番最近話した時はギルを探してるような感じだったけど。
[会ってないのか?と言わんばかりに首をかしげ]
それ以降のことなら、俺は見てないからわからない。
もしかしたら部屋にいるかもしれないけど。
それより、コーネの居場所、わかる?
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