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[見回りの時間を侵入者の死体の後始末で終え、彼の運んだ遺体を安置し終えたユージーンが、一旦、休憩のために監視小屋に引き上げるのを見送って、彼は墓地を後にした。
死体運びに関しては、これで終わりだ。──暫くは。老いた自分の両親を送る日までは、安置所に近付く必要がないと良いのにと彼は思った。
父親を待つうちに、泣きつかれて眠りに落ちた助手席の息子の頭を撫で、息子を起こさないようにシートベルトを掛けさせてから、静かに車を発車させた。*わが家に向けて*──。]
…残酷だわ。
[声には畏怖か驚嘆か、人目では推し量りにくい色が入っている。
立ち上がり、ギルバートのほうへ向けて歩き始める。
ナサニエルの斜め前から、横切るような形に。
私はナサニエルの鳩が豆鉄砲を受けたような顔、視線には目もくれない。
代わりに、冷徹な言葉を投げかける]
同じかもしれないわね――でも
私の血のほうがディープよ…
[私はギルバートの側へより、ハーヴェイの顔を見た。彼がそれを望んでいたのかは解らない。だが彼は、自らに沸き起こる衝動と戦っていたのだろうかと推測する。
このような結果を望むという衝動なのか。衝動の結果自らの意志でこうなることを望んだのか。
彼はその精神的変化に耐えられなかったのだろうか。もっとも私は、肉体的変化が見られず、中途半端な者が中途半端な者を見る…というやるせない気分になる。]
ふぅん……
よりディープ……ねぇ。
全くもって、面白そうなオハナシが聞けそうな予感。
[火の無い煙草を咥え、ネリーの後ろ姿をニヤニヤとした表情で*観察している。*]
―工場―
[その場所は人の気配が消えて久しかった。今や身じろぎもせず重々しい体躯を横たえたままの機械の群れは、象の墓場を思わせた。
幽かに黴臭く澱む古びた空気。静閑とした闇の中を、そこに残された気配の痕跡を一つ一つ確かめでもするかのように緩やかに歩む。
やがて、事務所の扉の前で足を止めると鍵を開け、中へと足を踏み入れた]
―工場・事務所―
[天井には雨漏りの修理の後が残されていた。事務所のエリザが使っていた机の上は、神経質な彼女の性格そのままに整然と整理が行き届いていた。
ふと、簡易キッチンに向いた視線がその場に似つかわしくないものの上に留まる。
簡素で限りなく実用的なその部屋の中で、そのティーポットとカップ&ソーサーだけが華やかなよそゆきの装いで佇んでいた。
恋人のように寄り添う二つのカップが、その場に居たであろう二人の関係をなにより雄弁に物語っていた。
ジリ……と微かに胸の奥を今はもう遠い忘れかけた古い感情が灼いた。
奥の扉を開けると、くつろげるようにソファーと簡易ベッドが置かれていた。私はソファーに腰を降ろすと、読みかけだったエリザの日記を再び読み始めた]
[読み終えると手帳を閉じ、かすかに首を振った]
ナッシュ……
[そこに書かれていた内容に、私の頭はひどく痛んだ。
ぎゅっと目を閉じ、眉根を寄せたまま深い溜息をついた]
ナサニエル・サイソン
ナサニエル・オリバー・メラーズ……
[過去と現在。断絶した二つの名を呟く。
その奥に秘められた謎は、この奇怪な一連の事件に何らかの関係があるのだろうか。それは、確かめなければならない事実だった]
[そして――]
近親…相姦……
[エリザの日記には私が忘却へと押しやった記憶の鍵が残されていた。
ラルフとニーナ。二人は近親相姦の関係にあったのだ。私はエリザから婉曲的に相談を受けたことがあるその事実の記憶を消去したのだろう。ラルフの顔と共に。
ニーナの面影がシャーロットと重なるが故に――]
―森の中にて―
………で、どーすんの?
こんな森ン中で生首持って立ち話?
[地面に座り、火のついていない煙草の先を歯で上下させている。]
ネリーはお前に話があるみたいだし。
話す場所だけ貸してやるよ。
俺ン家にでも来れば?
……そうだな。
ではそうしようか。
[ネリーに視線を移し、軽く目で促した。
樹木の根元に置いたバックパックを担ぎ上げて、ナサニエルに従う。]
[ギルバートとネリーを車に案内し、エンジンを掛けた。
車内には血のにおいが充満している。ハーヴェイの血か――いや、それだけではないかもしれない。]
……で。
まあ明日の朝になったら安置所にでも行くか。ユーインと同じ墓に入れようが入れまいが、とにかく安置所に入れンのがこの町のしきたりってヤツだし。
[煙草をふかしながら、車を運転している。]
安置所……
[そう言えばそういう風習があるとセドリックに聞いたような、と声に出さず呟いた。
ハーヴェイの首は、バックパックから取り出した防水布で包んで、腿の間に置いている。]
………ああ。
理由はよく分かンねぇけど、この町のしきたりなんだってさ。
遺体がゾンビになって現れたらどうすんだよ、って感じだよなァ。……ま、ゾンビになっても逢いたいヤツがいるなら話は別だがな。あいにく俺にはそんなヤツいねぇし。
ゾンビ……ああ。あの映画のか。
──死人が生き返るなんてことはないのにな……
もっとも、昔は死んだと思われてたヤツが埋められる直前に息を吹き返した、なんて話、ざらにあったしな。
おいおい、マジかよ……
[煙草の先が、ぴくりと動いた。]
………。
まァ、お前は……そういうモン見てても不思議な感じはしねぇけど。何せ、次から次へと「人狼の血」を目覚めさせてンだからさ。
……俺もあんたのおかげて、クスリ無くても、他人が「殺された」っての嗅ぎ付けてイッちまうような、立派な変態サンになっちまったし。
[そう言って、ゲラゲラと笑った。]
さ、俺ン家着いたぞ。
そこの美青年も連れてきな。
そんな大したモンじゃない。
ホントに死人が生き返ったんじゃなくて、実際には死んでなかっただけだ。仮死状態って言うのか?
特に同族は死に難いからな。
………同族は死に難い、ねぇ。
それも「寿命が長い」っていうのの影響か?少なくとも、フツーの人間の生命力は軽く越えてそうな予感。
[ナサニエルは、トランクを開けようとした所で、ネリーに声を掛けた。]
ネリー、お前さ、鍵持ってる?
玄関開けて先入っといて。俺は後から行くから。……ああ、紅茶とコーヒーならキッチンの棚に入ってるから、好きなの飲んでていいぞ。
[ネリーにギルバートを案内させ、2人が家の中に入るのを見送った。しばらくの間、外で時間を潰し――]
さてと………。
[車のトランクの中には、黒いコートと血濡れたナイフ。それを取り出し、ナサニエルは2人にナイフをコートに包み、家に入った。]
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