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── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
[セシリアがバスに乗り込んだ時、バスの外には、生命の火花が飛び散る音────そして、指揮者が導く音楽が響いていた。まるでカーニバルに取り残された様なマイクロバス。バスは「sentimental」だった。
今は動き出す事も無いハリボテのようなキャストPGM達。彼等に囲まれ、座席で眠るヴィンセントの姿が、セシリアに過去の記憶を想起させた。]
【夏が終わる──】
[むせ返る緑 草いきれの向こう 掛けて行く足音]
[笑い声][蝉時雨に溶け込む 確かな体温]
[視点は空へ 森が地上が遠ざかる]
[海岸線が沈む以前の旧世界──人の営み][更に高みへ]
[水平線がゆるいカーヴを描いて見えるほど遠ざかり]
[その場所から][飛び立つ 今はコピーしか存在しない鳥達の群れを]
[かつてのセシリアが“スクール”巨大なスクリーンで繰り返し見た、滅亡した世界のヴィジョン。]
[穏やかな声で語られる──環境改善/改変前の世界の歴史]
[スクリーン上の砂漠に雨が降ると、何故か何時も涙が流れた]
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
[セシリアが、人間として一度死ぬ前の記憶──。
エモーションに突き動かされた記憶が、二つのPGMを核とするAIの中で、何度も再生されるのだ。]
「悪夢ならば。」
[セシリアは、そう答えた。
繰り返す、少女が生きていたと言う証拠を示す夢は、今のセシリアにとっては、苦痛でしかない。
問い掛けの主は、寂寥感に溺れているのか。男の影は薄く、それはセシリアが見慣れた、不老不死のデストピアに有りながら心中何処かで密やかに死を望む──市民の姿にも似て見えた。]
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
あなたは、何処かに還りたいのですか?
[けれども、問いながらも感じる違和感──。
バスの外で、その時、澄んだ美しい音を奏で88の鍵盤が呆気なく崩壊した。音楽が途切れ、沈黙がおちる。セシリアは窓の外を見遣り、瞬きをする。]
【もうすぐ、この場所も崩壊する】【おそらく】
[輪廻] [愛] [結合] [命が爆ぜる]
[Morganの 真実の終焉を望んだ 魂が 行く場所は──]
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
【本当は、私は──】
【PGMに制御/支配されない──かつて人間だった私は】
【Masterも、Morganも 生きていて欲しい と願っている。】
【けれども、A girlが、名もなき市民のかりそめの死を悼むように、私はその感情が絶対不可侵の己自身である事を確信する事等、出来ない。
PGMと人格が衝突する事の無い、平凡な人間である彼女が羨ましい。マインドコントロール等を受けた事も無く、断絶の後、再生される事も無い(バックアップの無い)下層民である彼女に──羨望か。】
[しばらくの間をおいて口を開く]
つまり、俺にあの“手紙”を送って寄越したのも、アンタだ、と。
そして、その言葉――『今回の計画』という事は。
全体の企図を明かすつもりになったと考えて良いのかな。
[もはや殆どの対象物(オブジェクト)が消滅した空間に、
"Blue Water"からの検疫結果を表示した]
【01/Conductor】 ――positive.
【07/mortal】 ――positive.
"Ο ν ε ι ρ ο ς (オネイロス)"を俺に組み込んだ理由も?
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
「俺が犯人だよ――。」
[ヴィンセントの言葉にセシリアは笑いを止める。]
…貴方が犯人ならば、A girlの魂を奪って欲しかった。
永遠に──。私の前に二度とあの眩しい姿を現す事が無いように。
そもそも、犯人の意味が分からないわ。
アンドリュー・マーシュの娘の魂を奪った犯人なのか。この手紙を出した主なのか、あなたがAlchemistなのか。
それとも──また別の…
[セシリアは、睫毛を伏せ、首を横に振った。眼球が濡れている。]
貴方の事が知りたいと言った事は変わらない。
でも、ごめんなさい。
私は、このバスの中に満ちている“もの”に耐えられそうに無い──
もしあなたがボクの事を知っているなら分かる筈だ。
舞台を整え、結実する果実をもぐ浅ましき役柄を。
農夫であり観察者である事を。
破壊(タナトス)と創造(エロス)の天秤を揺らす者である事を。
[双眸を閉じ高々と]
ボクにとっては『計画』の全体像こそが主眼。
問うテーマは何だって良い。
ボク個人の欲求と欲望と計画はあれど焦ってはいない。
もたらされる再度/過去の世界に興味はあれども。
[黒/灰青の眸が男を貫く]
だがあなたは現世におき有限の存在となり果てた。
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
…滅びればいい。
すべての感傷(センチメンタル)
すべてのうつくしき悪夢──
[Morganの断片はすでに飛散してそこには無く]
[グラリ][センチメンタルを乗せたバスが、空間の崩壊に車輪を落として傾く]
[バスの横転に合わせて。
セシリアの腕が、後ろからヴィンセントの首に回される。
しろく細い指先は、現実のヴィンセントと僅差無いアバターの気管、頸動脈を引き絞る。ヴィンセントがその指先から逃れようとするのか、セシリアに何か言葉を返すのか──。]
Masterも…あなたも 大嫌い。
──人形なんて、つくらなければいいのにッ
[AIではなく、まるでただの思春期の少女のように、縋り泣き叫ぶ、セシリアの髪色は、白色ではなく淡いライトブラウン。涙で濡れた瞳の色もまた──。ゴーストになる前にスクールから盗みだされ、死んだ少女の姿に変化している。
ヴィンセントがその姿の変容に気付く事が出来るのか。]
【絶対に許せない。】
【誰も許さない 私がこうやって存在している事も──】
【ゆるさない】
[バスの内部は、何時の間にか蜘蛛の巣が張ったように、無数の漆黒の正╋字の群れ] [黒][黒][黒] [無機質な漆黒000000が、感傷を──破壊する。]
[バスは真っ二つに裂け、砕け──乗り込んでいたキャスト達が、こぼれ落ちるように空間の裂け目から──センチメンタルとは言い難い旅(ジャーニー)へ向かう。]
───…
[黒十字に縛られた仲良く座席に座ったまま墜ちていく 双子の少女たちは、何処へ辿り着くのか。崩壊した世界の光線はF/あるいは絶対零度の無機質なブルー。]
[冷たい光の中、すべてのセンチメンタルが飛散した事を確認してから、セシリアは、ヴィンセントの背に回した腕に握った「┣」「┫」の形、両手を交差させ、合わせれば正╋字を成す大槌を──ヴィンセントに強く、強く突き立てた。]
──さようなら。
ヴィンセント・キャロ。
[ヴィンセントの活動が完全に停止した事を確認してから、セシリアは╋字を引き抜く。そして、解散させられたキャスト達とも、ヴィンセントとも違う場所──何処かの空白地帯へ。
セシリア自身も漂流し墜ちて行く──。
天とおぼしきオブジェクト不在の空間に、"Blue Water"からの検疫結果が、*光って見えた*。【01/Conductor】 ――positive. 【07/mortal】 ――positive.]
──Mundane/中央部・あるビルの一室──
[瞼の裏で踊るような光。目を覚ますと、好転が一つ、消えていくところだった。否、記録画像が繰り返し流れているだけで、それはつまり過去を示す。
時刻を確認すると、眠っていた時間はほんの数分だったらしい]
光点が、5つになってる。
[地図をみて、そして記録画像へと視線を移し、光点をポイントする。番号は、12。近くにある光点の数字を確認して、自嘲気味に笑みを浮かべた]
おじさんも、いなくなったんだ。あたしがあそこで、死の乙女を停めていたら、おじさんは助かったのかな。
──ううん。それはない。あの時点で突っ込んでも、自滅しただけだし。
おじさんが、彼女を壊そうとしたのかもしれないし。
……。遊園地も、なくなったのかな。この事件が片づいたら、他のアトラクションとか、劇場とか、見てみたかったんだけど。
バックアップが生きてるなら、それだって可能、だよね。
ならやっぱり、止めに行かなきゃ。
[光点の動きを見て、Utopia上に活動を移していることを確認する]
今なら、こっちからやっちまえば簡単そうだけど。そんな簡単にはいかないか。
[立ち上がり、手足の具合をもう一度確かめて、*ビルを後にした*]
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