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[2階中を見て周り、何処にも父の姿がない事を確認すると、
落胆した様子でローズマリーの部屋へと戻る。
何か手懸りを探すべく扉の脇の壁を指で探る。
スイッチはすぐに見つかった。
明かりを点けて部屋を見回した時、
ベッドサイドの解熱剤に初めて気付いた。]
これは──、これは誰が──…。
[思い出すのは意識を失う前に見たヒューバートの顔。
此処まで運んでくれたのも彼かもしれない。]
[手懸りらしい手懸りは他には何も見つからず、
ソフィーはベッドに腰を下ろして項垂れた。
置いてあった錠剤を口に含み、温くなった水で流し込む。]
───…美味しい。
[喉を通る水の美味しさに、自分の喉が乾き切っていた事を知り、
グラスに残った水も全て飲み干した。]
[人心地つき、ようやくのろのろと顔を上げた金髪の娘の目に、
暗い夜空に浮かぶ、冴えた輝きを放つ月が飛び込んで来た。
───ドクン。
心臓が大きく脈打つ。]
『あの窓を開けたのは、誰──?』
[自分は開けた記憶はない。
ローズマリーもヒューバートも違う。
雨が降るかもしれない日に、態々窓を開ける理由がない。]
………。
[耳鳴りのような静寂がソフィーを押し潰そうと迫って来る。
そんな錯覚を抱きながら、そろそろと窓へ歩み寄る。]
[一歩。また一歩。
気を抜けば震え出しそうな膝を叱咤して窓辺へと辿り着く。]
まさか、ね。
[カーテンを窓枠へと押し付けるように除け、
恐る恐る窓から下を覗き込んだ。]
[覗き込んだ其処は、植え込みに丸っこく刈られた緑が愛らしく並んでいるだけで、ソフィーが想定したような最悪の状況はなかった。]
───……。
[ほっとして思わずその場にへたり込みそうになる。
しかし相変わらず父の行方は謎のまま。
誰かが連れ出したのか、(今まで決してそんな事はなかったが)一人でふらりと歩いて行ってしまったのか──。
朝まで待ってローズマリーに事情を聞くべきとは思ったが、徘徊した父が何処かで事故にでも遭っているのではないかと思うと心配で矢も盾もたまらず、微熱の下がらない身体にも構わず、薄いワンピース一枚で上着も羽織らずアンゼリカを*飛び出して行った*。]
――――――――
仄暗い室内に荒々しい吐息が断続的に響く。
少女の躰は羽根を広げた白鳥のように横たわり、荒れ狂うシーツの波に翻弄されるように揺れている。
象牙色を帯びた皓い脚を指は滑り、百合の如き首が儚くしなった。
夜露を帯び瑞々しく湿った唇を、情愛と渇望を満たすように私は貪る。
熱い頬に添えられた親指を哀切の雫が通り過ぎた。
『ロティ、すまない。ああ……』
脳髄は押し寄せる情欲の叫びに過負荷をきたしたようにジンジンと痺れ、逆巻く血潮は耳の裏を圧した。哀しみの声は凶猛な獣欲の嵐に掻き消された。
禍々しいほどの昂ぶりが杭のように愛娘を刺し貫いているその光景は、耳を圧する呼気と視界を滲ませる血流の中で激盪していた。まるで現実のものとは思えなかった。
紅い花――
桜色の谷間に紅い花が咲き乱れた。深々と彼女を刺し貫いた欲望が死の花を咲き誇らせていく。
「ぁあああぁあ! ロティ! ロティ!!
どうしてこんなことに――」
乙女の散らす紅い花が、世界を真っ赤に染め上げる。
白い波濤は朱に染まり、少女を抱きしめたまま赤い海に呑み込まれてゆく。
少女は苦悶の表情で一際美しく啼いた。それは、Swan songだった。
「ロティ――」
深い悲哀に彩られた彼女の表情が私を赦すようにほんの少し微笑んで見えたのは――私の願い故だっただろうか。
――――
―アトリエ・寝室―
[おぞましい光景は瞬時に掻き消えていた。室内は未だ薄明の中にあった。
それが夢だったことに、心の底からの安堵の溜息が漏れた。肌にはじっとりと汗が浮いている。]
ロティ……
[胸に埋めれた愛しい娘のおもてに眼差しが落ち、突如訪れた悪寒に身を震わせた。彼女の背中に回された腕がぬるりと生暖かい感触に浸されている。
刹那に呼び覚まされた知覚が、腹や腰も粘りを帯びたなにかに濡れていることを察知した]
ぁあ……
[むせかえるような生命の匂い]
あああああぁああ!!
[それは――]
ロティー!!!
[喉を引き裂かんばかりの絶叫が響き渡った]
ロティ!
ぁあ、ロティ!! なぜ、なぜなんだ!
なぜお前が――
[半狂乱で泣き叫ぶ]
ぁあああぁああ!
守ると!
必ず守ると誓ったのに!!
ぅあああぁああ!!
[慟哭が喉を震わせ、見開かれた目から涙が溢れ出た]
この身に代えても守るって――
そう―― そう誓ったのに
[己の無力が、ただ許せなかった]
なぜ、こうも残酷なんだ。
畜生! 畜生ぉおぉおォ!!
[ベッド脇の小抽斗から拳銃を抜き取ると外に走り出ていた]
“ダン! ダァン!!”
[発射音が大気を鳴動させる]
殺すなら、なぜ私を殺さない!!
娘を庇って死ねたなら、それこそ本望だったさ!
俺が…… 俺がどれだけ
俺がどれだけあの娘を――
うぁあああぁああーッ
[それ以上は声にならなかった。息苦しいほどに涙に咽び、喉を詰まらせる。娘を守れなかった無力さにただ込み上げる憤激のままに、銃把を何度も何度も地面に叩きつけた。
建物に転がり込むと、怒りに任せて棚のものを片っ端から床に叩きつけてゆく。何も落とすものがなくなると、棚を床に引き倒した。
自分が何をしたかを一つ一つ覚えてはいない。
ただ、迸る悲慟と荒れ狂う赫怒のままに暴れ、やりきれぬ思いを叩きつけていた。]
[力を使い果たし燃え尽きた私が自失から立ち直り漸く為すべきことに思い至ったのは、時間にすればさほどの時間を経ない少し後のことだっただろうか。
私には、永劫の責め苦のようにも感じられたのだが。
ゆらりと立ち上がるとシャーロットを抱き上げ、階下の作業場へと降りていった。]
ロティ……
信じられないよ。
[私は茫洋としながら呟く]
親より先に逝くなんて、何よりの不孝だって……
言っておいたじゃないか。
[瞼にそっと手を触れ、その瞳を閉じさせた]
ロティ……
[その姿が滲む]
頼むから…
……頼むからもう一度……
ぁあ
[喉が詰まる]
もう一度――
目を開いて
笑ってくれよ……
[亡骸に追い縋る肩は哀しく震えていた]
――――
いつもいい娘だったロティ。
私を、何一つ困らせることなどなかった。
ただ一度――
ただ一度君からもたらされた悲哀が
これほどまでに深いものだなんて――
――
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