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[それにしても、あまりに色んな出来事のあった日だった。行方不明になったエリザのことを哀しむゆとりもない。
先程力づけるようにシャーロットを抱きしめた私だったが、身も心も重い憔悴感に包まれていた。]
ロティ……
[リビングにやはり倦怠に包まれたシャーロットの姿を見いだした時、その肩に手を携え共にソファーに沈み込んでいた。]
しばらく… しばらくこのままで……
[シャーロットを抱き寄せ、頭を肩にのせる。傾けた額が、彼女の頭に重なる。そっと髪を撫でながら、一時の安らぎを求め目を閉じた。]
[ヒューバートの額が触れる。父に寄り添いながら、唐突に思い出す。
──ボブ・ダンソック。
あれは、スクールバスの運転手と同じだ。
運転手と同じ──社会的に下層に位置する者の鬱屈。
母の言いつけだけでは無い。シャーロットがボブに「何かされてしまうのでは無いか」と恐怖を感じた理由は「それ」だった。
シャーロットがヘイヴン外の学校へ通う事を最終的に断念した理由に「バスの存在」があった。確かに、ヘイヴンと異なる場所へ馴染めなくてくじけそうではあったけれど、バスの存在が無ければ今頃はまだ……と思う。
運転手は二人いた。
最初の一人は、シャーロット一人になってしまう帰り道のバスの車内。ヘイヴン到着後、降車を促すために近寄って来たと思った運転手は、何の前触れも無くいきなりシャーロットの左胸をひねるように掴んだのだった。
シャーロットは思い出して無表情のまま瞬きをする。]
[最初、制服の内ポケットにサイフが入っているとでも思ったのかと考えた。見上げた運転手の目は死んだように濁っていて、シャーロットは恐怖を覚えた。車内には誰も居ない──、運転手を突き飛ばして降りた後、もしナイフで刺されていたら自分は死んでいた──と思い、無言で自らの肩を抱いた。
いきなり胸を掴まれる理由は、どう考えても何も浮かばなかった。恐怖を感じながらもそれでも学校へバスで通った。学校へ訴える事が出来たかもしれないが、報告する事で解雇されるであろうその運転手の報復が怖かった。彼の死んだような目、鬱屈してる者に恨まれる事が。
二人目運転手は、一人目と違いシャーロットに気安く話し掛けてきた。育ちの良い娘らしくシャーロットは用心しながらも何度が当たり障りの無い会話をしたはずだ。
ある日、やはり降車時。
運転手は「まだ処女なのか」「小遣いをやるから触らせてくれ」と言い始めた。「処女だ」と答えた時の男の表情よりも「金を渡せばどうにかなるように見えるのか」と思った屈辱感を覚えている。そして翌日の降車時何を思ったか運転手は、湿った妙な臭いのする液体のついた手でシャーロットの手を握ったのだから。]
[毎日送ると言い張る父親を母と共に説得し、ヘイヴンをルートに入れていなかったバスを、シャーロットの為だけに町役場の前に停車させる手続きを取ってもらった、その手間を知っていた所為で理由も無く「車で送って欲しい」と言い出す事が出来なかった。
「理由」を話す事はあり得なかった。
やはり報復も恐ろしく,父に心配を掛けるのも堪え難く、また母親に「自分が運転手を誘惑したのでは」と疑われ、軽蔑される可能性を強く考えた。
当時すでにヌードで父のモデルをする事のあった彼女を、咎めはしないものの時々そう言った目で母親が見ている事に気が付いて居たから。母を愛していたが故に嫌われたくは無かった。]
[シャーロットが「18歳」を想像しようとした時、肉体的に大人になっている事を想像出来ない理由は、また別にもあるが──。
言えない事で、元々ヘイヴン外へ出る為のステップとして、転校したにも関わらず学校へ通えなくなってしまった事が大きな原因である。学校を辞めた時の母や祖父の反応、戻ったヘイヴンの学校は平和だったが退屈で、またステラが純潔の大切さを説くたびに、運転手たちの欲望をひきつけた自分が穢れているように感じた。
何処へも行けない閉塞感。父親の元から自立する自分をイメージ出来ない苛立ち。]
──ニーナ、大丈夫かな。
[ぽつりと呟く。
災害と身近な者の死で歯車が狂い出したように感じる中、先刻のニーナの姿は<健常な日常>を示して居るように、*シャーロットには思えた*。]
─それより数時間前・アーヴァインの自宅(回想)─
[疲れ切った重い足取りでアーヴァインは自宅の玄関に向かう。
鍵を開けたところで、突然背後から肩を叩かれ、ギョッとして振り返る。そこには悪戯な笑みを浮かべるあの若者の姿があった。
驚きに飛び跳ねた心臓が、今度は違う高鳴りで激しく鼓動する。
期待しなかったと言えば嘘になる。が、これ程早く……。逸る心を抑えながら、アーヴァインは若者を家内へと誘った。]
[玄関に入ると、レインコートとあの特徴的な帽子を取り、若者は物珍しそうに室内を見回した。
特に大した家でもないのだが、とアーヴァインは思った。骨董品的な古さだけが価値の家だ。名士であるバンクロフト家には遠く及ばないが、古さと言う点でも広さと言う点でも申し分ない。しかし隆盛を極めていた大昔ならともかく、アーヴァイン一人だけの住まいには広過ぎた。
普段であれば客は広間に通す。ホームパーティーを開く時もそこで行う。続き部屋と二間開ければ、大人数も平気で入る。
しかし、アーヴァインは若者をそこではなく、2階のコレクションルームに直接案内することにした。
彼であればきっと理解し受け入れてくれるに違いない……あのようなキスの後に、こうして尋ねてきてくれた彼ならば。
何より彼はこの町の住民ではない。恐れる必要は無いのだ。]
[若者はアーヴァインに素直に随って、2階に上がった。
大きな期待と不安を胸に、アーヴァインはコレクションルームの鍵を開け、彼を中に導いた。]
[そこはエドワード王朝時代の家具が置かれた、趣味の良い小部屋……であった筈の部屋だった。
「だった」というのは、その部屋の壁面いっぱいに余すところ無く、額に入った写真が飾ってあったからだ。どれほどあるのか、数えるのも容易でない枚数である。
それらは全て、若い男性のヌード写真、なのだった。]
[入って右手の壁には、思い思いのポーズをとる、様々な扮装をしたモデルたち。
ギリシア神話のアポロを模しているのか、月桂冠を被って作り物の竪琴を抱えて夢想に耽る表情を見せるブロンドの青年。
長椅子に寝そべって、巨大な羽根扇で半身を隠す少年の目許はマスカラでくっきりと縁取られている。脚を包むストッキングは、白っぽいガーターベルトで吊られていた。
残りの壁面を覆っているのは、もっと露骨に扇情的な写真だった。
筋肉を隆起させて、雄の威容を見せ付ける逞しい青年。
いまだあどけなさの残る笑顔で、脚を大きく開いて、似つかわしくない長大さを誇る自らの性器に指を添えて見せる青年。
けだるげにうつ伏せた少年の、丸みを帯びた尻と滑らかな背中が描く優美な曲線。
こちら側に向けた尻を高く掲げて、小さな窄まりも含めた秘所を全て曝け出して、振り向く横顔。
それらは時に、顔が写らないように手で隠したり、撮影者から背けていたり、首から下だけを写していたりもした。
さらに、壁の一角には、クローズアップした性器や肛門だけの写真のコーナーもある。]
[それら壁面を覆い尽くす写真の全てが、見るもののエロティックな夢想を掻き立てるためだけに飾られていた。
これは彼、アーヴァインの、故郷ヘイヴンでは決して叶えることの出来ない性夢のコレクションなのだ。]
[アーヴァインは、見入ったように写真の群の前に無言で立ち尽くす若者の表情を窺った。怖れがアーヴァインの目に浮かんでいた。]
[だがその怖れは杞憂だったようだ。
アーヴァインに振り向いて破顔した若者は、「こういう写真が撮りたいのか?」と尋ねてきた。
虚を突かれると共に安堵したアーヴァインは、慌てて頷いた。
若者は、置かれた寝椅子の前に自分から立ち、丸めたレインコートを部屋の隅に投げると、カウボーイハットを被った。腰に手をあて、親しみの混じった淫猥な笑みをアーヴァインに向けた。
機材を用意するから、と言い置いて、急いで準備を始めた。
撮影が始まった。]
[若者はたった一人の観客を前に、ストリップティーズを始めた。
最初はシャツ、次はジーンズというように、一枚一枚脱ぎ捨てるたびに、恥じらいも躊躇いも無く扇情的なポーズを取る。腰をグラインドさせ、蠱惑的な微笑を向ける。
遂に身につけているものはカウボーイハットとブーツだけ、という状態になった。寝椅子に腰掛け、脚を大きく広げる。偉容を備えた雄のしるしが、黒っぽい茶の茂みのなかから完全に勃ち上がっている。それを片手で掴むと、軽く弄り始めた。
うっすらと開いた唇。切なげに細められた目。必要以上に誇張された快感の表情。
アーヴァインは息を呑んだ。もうこれ以上、シャッターを押し続けることなど出来よう筈も無かった。
カメラをテーブルに置き、ふらふらと長椅子に歩み寄った。若者の足下に跪き、震える手でその膝に手を乗せると、脚の間に顔を近付ける。てらてらと濡れて輝く性器の先端に、そっと口接けた。]
[若者は「これが欲しいのか?」と尋ねた。細められた瞳に在るのは、圧倒的な力を持ったものの優越感の嗤い。
アーヴァインは無言で頷いた。自らの性的志向を明らかにする行為は、この町では決してしないという、恐怖に裏打ちされた固い決意と自制心が完全に崩れてしまったのが、自分でも分かった。どの道もう、引き返せはしない。
若者はアーヴァインを擦り切れた絨毯を敷いた床の上に押し倒した。黙って口の端に歪んだ嗤いを浮かべ、その衣服を剥ぎ取った。
卑語を交えた侮蔑的な言葉の嵐と手荒い愛撫の末に、若者は彼の体内にその滾った欲望を捻じ込み、犯し始めた。
若者は、アーヴァインが常に夢想し続けた夢と同じように、いやそれ以上に完璧に彼の願望を満たした。]
今一度問ウ。
助ケテ欲シイカ?
助ケガ欲シケレバ叫べ。
オマエノ叫ビガ私ノ望ム強サデアレバ、オマエヲ助ケヨウ。
[その「声」は随分としっかりした、意味の分かるものに変わっていた。]
う…ウ……
[今は何時?
助けが来るの?
こんな姿で助けが来たら?
正常な思考の私なら、藁をも掴む思いで発していたに違いない。]
[だが、今の状況は全てが全て、否定するものであるのか?
いくら拒否しても、生まれ初めている内なる衝動は否定できないものなのか?
私はもう、進む道を見つけてしまったのか?]
タ…たすけ…て…
[私は小さく叫んだ。しかしそれはただ単純に最低限の叫びであり、メッセージ性は全く込められておらず、心の中に迷いが生じれば生じるほどそれは小さくなり、やがて消えていった。]
――酒場 アンゼリカ――
[息を切らして訪れた酒場のドアを、わたしはいつものようにノックはせず全力で開け放ち、中に居るローズへと張り上げるような声で呼びかけた。]
ローズ!ローズ!出てきて。大変なの!わたしの大切な物が…カードケースが…。
[よほど動揺していたのかも知れない。普段ならカードケース一つ如きにこれほど焦ったりはしない。最悪無くなってしまったら再発行してもらえばいい。理由なんてこの災害の大きさの前には全てひれ伏してしまう。咎められる理由なんて無い]
[しかしわたしは冷静さを失っていた。可愛い教え子の変わり果てた姿。嗚呼あれ程純潔を重んじ、好奇心や単なる欲望で身を穢してはならないと言い続けて来たのに。私の指導力不足?それとも――自身の内面が滲み出ていた結果…?]
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