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〔マスクの中で生欠伸が出そうになるのを噛み殺す。
研修医時代ですら経験したことのない、吐気の前兆。〕
っ…
〔どうにか堪え切ってトレイへ器具を置くと、がしゃんと神経質な音が鳴る。常になく毒づきかけたところで、ローズマリーから通信が入り…手首でインカムのマイクを引き寄せ〕
……
そう、か…。
消去法の手助けをするならば、Nathaniel Regelは居る。
Cornellius Northanlightsは、
〔作業台を見下ろす。剥出しの赤。皮を剥がれた〕
――解体済みだ。
[気分が最悪だと言う彼女に瞬き]
そういえば、そうだった。
[表情は笑っていたけど感情はなく]
……少し違う。
俺は預かったものがあるから、降りないよ。
[言いつつ、動く様子のないのに歩を進め、
通りしなには硝煙の臭いがしたかもしれず
コントロールパネルを触り始め]
――……解体。
[インカム越しのハーヴェイの声に暫し目を閉じる。
漂う硝煙の臭い。推測が正しければ。
――インカムのスイッチを切る。]
……そう。
君のことはわかった。
だが……
[ソレは?と問う視線はラッセルに向けられている。]
……食べられるかもしれないものを逃がすの?
食べられるかもしれないけど――
[ぐい、とラッセルの腕を引く。
セシリアの時のような抵抗はなく
抵抗がなかったことが心苦しくもなったけど]
大人の男二人分、肉はある。
……二人なら暫くもつだろ。
[二人――ハーヴェイとローズマリーの二人。
自分は食べなくても人間より生きられるから
無意識に人数からはずし。]
もう撫でられないかもしれないから、
汚れた手で悪いけど――
[罪に汚れた手。
ヒューマノイドが人を殺したなど前代未聞かもしれない。
乗せる前にくしゃり、髪を撫でて指に髪を絡ませ]
ごめん。
[また、謝罪]
[大人の男二人分――コーネリアスとギルバートだろうか。
ラッセルの腕を引くのを見つめて、首を傾げる。]
……食料は多い方がいい。
私がソレを食うとは限らないし、
私がソレに食われるのかもしれない。
どちらにせよ、それを逃がすのは賛成しないな……
[ウサギを抱き寄せる。
その腕にもあまり力は入っていないようで。
ウサギは落ち着きなく二人の間を見比べている。]
――……やめる気は、ない?
〔血と脂に塗れた器具を独りで片付ける気にはなれず、
どさりと椅子へ腰を落とす。指先に摘んだ肉片を、眩しい白色光へ透かして目を細め――〕
…真に受けてやる。
〔低く呟いて、未だ鮮血の滴る心臓の肉片を緩慢に舌の上に載せる。感染症から身を守るというギルバートの血肉――実験動物たちに人肉の味を覚えさせるわけにはいかない。自らの身で試すまでと噛み締めると、血腥さよりは甘味が勝って―思わず*溜息を漏らした*〕
……殺されてまで甘いのか。阿呆が…
[ローズマリーに向けた顔は無表情で、
相手が邪魔をしてくるかどうかをうかがいつつ]
やめる気は、ないよ。
[口元だけに笑みを出し]
誰かに賛同を求められる行動なら
[瞳は無機質で]
――セシリアの時に相談でもしてたよ。
[言い放つ。]
誰かを逃がそうなんて考えるのは
人じゃないから、か。
[餓死の危機にいるものならきっとしない。
精神異常が酷くなれば親友とてむさぼるだろうか。]
この感情はきっと――
……そう。
[呟いて、ふと、腕の中のウサギを見る。
きょときょとしていたウサギはいつの間にかぴたりと動きを止めていて。
主が小さく名前を呼んでみても反応しない。]
……なら、何も言わない。
私は私なりの遣り方で生きるだけだ。
[ウサギを抱いて、緩慢な動作で立ち上がる。
引きずるような足取りは通路へと向けられて。]
……だけど、もし。
ハーヴェイを逃がすというのなら――
[君を殺すよ。
小さな囁きは、ひそやかに通路に反響して。]
そ、よかった。
邪魔するんなら少し乱暴したかもしれない。
[さらりと言い、ラッセルに声をかけて船を出す]
今はもう、皆各々の価値観で動いてるらしいから
ローズマリーはローズマリーの生き方をしてくれ。
[動かないうさぎに目を細め、女を見守る。
呟きには瞬き一つ]
どうかな。
でも彼には患者達がいる。
患者は彼に命運を託してるから
俺に邪魔することは出来ない。
[そう答えて、硝子板の向こうをただ*見つめ続けた*]
ありがとう、今まで。
最後も、俺の我が儘きいてくれて。
[うつむき]
俺はお前に何か返せてたかな。
[彼が船の外に出た今、届いてるか判らぬ*感謝を*]
――……いっそあそこで邪魔をして殺された方が良かったか?
彼に勝てる気はせん。
[かつんかつんと思うようにならない足が刻む足音。
半ば転げるようにメンテナンスルームへと入る。
端末にうーくんをリンクさせると流れる、紅い文字。
――ERROR。]
……思考ルーチンのバグか?
いや――
[最後にうーくんが何を行っていたのか。
残っていたメモリをサルベージして確認して――]
……原因はナサニエル、か。
アレは……
[喰えない。
尚も紅い唇だけが、にぃ、と孤に*ゆがんだ。*]
――食堂――
〔嬉々として調理を受け持ってくれるセシリアはいない。慣れない此方が食事を用意した結果は――骨付き背肉のオーブン焼き、という如何にも原型を留めたものに。胡椒が強めに効き過ぎた其れに噛みつきながら、二人を見遣る。〕
…減ったな。
〔資源が。呟いて、指先で口元を拭う。〕
Rosemary Muller――白いあれはどうした?
〔食事の知らせを受けて姿を見せた彼女が、パートナーを連れていない様子を訝しんで尋ねる。〕
[皿の上の肉をひっくり返したり、眺めたり。
これはどっちの肉なのだろう。
問うてみても意味はないことだが。
手はつけないまま、ハーヴェイの言葉に軽く肩を竦める。]
……メンテナンス中だ。
[減った、という言葉に小さく頭を振る。]
減ったというより……
減らされた、というべきか?
[呼び出されて足は運んでみたけれど。
部屋に付いても尚、壁際に立ったまま闇を見つめて]
……そう、だな。
[減った、という言葉にも視線は変えず。]
…当ててみろ。
〔白く痩せた手が食材の検分をする様子へ、冗談でもなさそうに水を向ける。よく焼けた骨髄の端を齧り〕
そうか、…大事にしろ。後で1件分析を頼みたい。
〔声には僅かだが労いが混じる。ローズマリーが僅かに
表現を違える言葉にか、食事の手を止めて思案する〕
〔食料もなしに宇宙空間へ送り出す行為。それはただ――殺し合いを止めるためだけの意図。全滅の可能性は跳ね上がる――〕
では誰が、と尋ねる必要もないわけか。
……Nathaniel Regel.
話しても仕方のないことか?
〔食事に手をつけることもなく佇むナサニエルへと静かな問いを投げ〕
[かけられた声に目をやや伏せて、一拍の後顔をあげれば振り返る。]
3人しか、いないよ。
もう。
[目だけは真っ直ぐにハーヴェイを見て。
話しても仕方がない、には困ったような笑みだけを向けて。]
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