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…驚いた。
[穏やかな表情で目を閉じているセシリアに瞼の上から一度、そっと触れた]
目が覚めたらそんな格好なんだもんな。
実はおまえ、妖精か何かだったのか?
[足首から膝下にかけて覗くいくつかの古傷も、彼には気にならないのかもしれない。
たっぷりの布が使われた白いワンピースと、柔らかに光沢を放つ靴、それらは少女の愛らしさをいっそう引き立てていた。
ナサニエルは飽くことなく、愛しい妖精を見つめ続ける]
[傍らに居るだけで安息を齎してくれる存在のおかげか、何時しか夢現に遠く近く聴こえるナサニエルの声]
………
[目蓋に触れられれば睫毛が震えゆっくりと眼を開け、ナサニエルの双眸があればふわと微笑むも、其の笑みはナイジェルの様な儚さもセシリアの様な冷たさも無く、穏やかで柔らかなものだろうか]
仮令あかく染まろうとも、色濃い布で隠して、誰からも、自分からも、目を逸らしてしまわない様に、前を向こうって、決めたの。
妖精よりも現実的に、ナサニエルの傍に居るでしょう?
[そっと伸ばした手はナサニエルの手に重ね首を傾げる]
ああ、霞みたいに通り抜けたりしない。
オレはその手にちゃんと、触れてる。
おまえはちゃんと、オレに触れる。
[重ねられた手を持ち上げて、自分の手と頬とでそっと挟みこむ。
首を傾げる少女の目を覗き込むと、微笑んで]
…もしかしたら初めましてかな。
おはよう、セシリアでいてナイジェル、それともどちらでもない前向きなあなた。
オレは愛しい人を、どう呼べばいい?
[頬と掌に挟まれた手の指先を少しだけ動かし]
ナサニエルは、温かいね。
[覗き込まれるのに眩しそうに眼を細め]
初めまして、ナサニエル。
ナイジェルもセシリアも貴方と時を過ごして居た筈なのに、こうして向き合うとなんだかこそばゆいな。
[名を問われるのに瞬き]
何と呼ばれても、私は、私。
ナサニエルが私を呼ぶ声に振り返るだけ。
――ナサニエルの、呼びたい様に、呼んで。
[初めて名を問われた時と同じ言葉を返すも意味は違うのだろう]
おまえだって、温かい。
[頬に感じるこそばゆさ、くすぐったそうに笑い手を離し]
触れてない時すらそう感じるのは、どうしてだろうな。
――オレの呼びたいように?
はあ…オレが名付け親になんぞなれるかって。
[最初に呼びたいように呼んでと言われた時と同じ言葉を返すが、今度の顔は笑っている]
そうだな、だからオレが可愛いと思った名前から貰うよ
何度でもすぐに呼べるように、それを短く縮めてね。
……リア。
リアっていうのはどう?
自分の手の温かさは、人に教えて貰わないと、判らなくて。
良かった、私の手はナサニエルを温められるんだ。
[手の解かれたのに名付け親に成れぬと言う其の頬を、くすくす笑いながら軽く摘み]
……リア?
セシリアの名前、気に入ってたの?
[首を傾げ問うも口の中で幾度か新しい名を転がし]
ありがとう、ナサニエル。
また新しい名前、貰っちゃったね。
…ああ。
触れた所から広がっていって、心の中までも。
[頬を摘まれても真剣な表情で言ってのけてから、
照れながら痛いよと呟いて、問われれば頷く]
好きだったよ、その名前。
死んでしまった大事な奴の名前、本当は胸の中にだけあればいい。
ナイジェルもそうだし…ネリーも、シャーロットもね。
[彼らとの思い出を慈しむように双眸は伏せられる。
ただ失ったことへの悲しみよりも、楽しい思い出への感謝の気持ちで表情は満ち足りていた]
あげた名前の代わりに…何を貰おうかな?
[だから悪戯っぽい瞳で首を傾げる]
[厨房に降り、幾つかの仕込みを。
ポケットに入れるとさて、と時計を見上げて。
ナイフとフォークを一つずつ、ポケットへと忍ばせる。]
……後は――
なるように、か。
[最後の一服、と煙草に火をつけて紫煙を燻らせて]
[ふらり、席を立つ。]
まだ、立てるのね……
死ぬ間際、人はなにをするのかと思ったけれど
いつも通りでいたいと思ってしまうのは、
それなりに日常が好きだったのかしらね、私?
[私には、一人にすることを謝る相手もいないから――
紅茶が飲みたくて、一人で飲みたくなくて、広間に来てしまう。
瞳に光はもうないけど、そんなことを感じさせない足取りで。]
……一芝居打ってはどうか、とセシリアさんから。
芝居だってことはナサニエルさんにはナイショでね。
[肩を竦めるとふぅ、と白煙を吐き出して]
[――心の中までも]
嗚呼、これは、心が温かいの。
こんな風になるのは初めてだから、判らなかった。
[呟かれるのに摘んだ頬を放しそっと指先で撫ぜて]
顔も覚えて居ないけど、私の両親が呉れた大切な名前。
そうね、誰一人、忘れてしまわない様に、この胸に仕舞っておく。
私が今、此処に居れるのは、ナイジェルの、ネリーの、そして私が殺してしまったシャーロットのおかげなんだから。
……ローズマリーにも、感謝しないとなのかしらね。
[自身の胸元に手を置き数日を共に過ごした者達を想うも、続く問いにつられて首を傾げ、ナサニエルの双眸を覗きふわと微笑み]
――何が欲しいの?
ナサニエルを残して逝く訳にはいかないけど、命以外なら何でもあげる。
[女の気配に視線を移し其の光の無い瞳に僅か紫水晶は揺れ]
こんばんは、ローズマリー。
今更に体調を訊く気も無いけど、ご機嫌は如何?
芝居?
殺す振り、ってことね。
それでアーヴァインをおびき出すってことかしら。
面白いわね。
そうなると、芝居と知ってるセシリアさんを襲うことになるのかしら?
ローズマリー…あいつは、どうするだろう。
[生きている事を実感できないと話した、悲しい女の顔を思い出す。
しかしリアのふわりとした微笑みを見れば表情も戻り]
オレはわがままで欲張りだから何でも欲しがって、今に呆れるよ。
…とりあえずは、リア、おまえの唇を。
[優しく掴んだ肩を引き寄せて斜めに顔を近づけ…
結局はリアの頬に、口付ける。
顔を見られないようにそのまま軽く抱きしめて、
それから彼女の耳元でふと呟く]
――…もうどうするか決めたかな、あいつらも。
感謝ならいくらでもうけてあげるわよ?
[いつものように笑みを称え、ゆっくりと歩み寄って。]
――機嫌。機嫌……そうね。
すこぶる良好、かしら?
[小首を傾げながら、傍にいるだろうナサニエルにもごきげんようと。]
……いえ、一旦二人を解放して。
アーヴァインが出てきたところで殺すフリをするんでしょう。
そうしていればアーヴァインに隙が出来るでしょうから、そこで捕獲、ですね。
ああ――…ローズマリーか。
[背後に牙を剥き出した人狼が立っていることを想像した顔から、安堵したそれに変わった。
ただその瞳に光がないことに、少し眉を寄せて]
ご機嫌よ…こんばんは。
すこぶる良好か。
…そうならいいんだけど。
飯でも食いにきたか?
残念ながら飯炊きは役目を放棄して――
だから在るのは、紅茶くらいかな。
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