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「ゴライアスゥウゥゥ!!!!」
[ボブの悲慟がバスルームに反響する。その太股に投擲されたナイフが突き立った。ガクリと姿勢を崩す彼の側頭部に踵が打ち下ろされる。
床に倒れ悶絶する彼に、銃を取り上げた私はゆっくりと近づいていった。]
[それからのことは、復讐とはいえ振り返るにおぞましい出来事としか云いようがない。
私は彼を後ろ手に縛ると、ジッパーを下ろして陰部を剥き出しにした。
心底おびえきった彼の意識があるままに、ナイフを握り、そして――]
そんなにファックしたいんなら、自分で自分をファックしな……
[遺体で発見される彼の肛門の中にねじ込まれているものを発見する者は、おそらく居ないだろう。私は、それを見る者がないことを願った。]
[そして、その後の作業もひたすら陰鬱なものとなった。
病に冒され荒れ狂う犬たちの中にショットガンを放った。人に危害を与えそうな動物はそのようなかたちで“処理”せざるを得なかった。それらの山のような遺体は母屋から離れた犬小屋に集められた。彼らの主、ボブの遺体と共に。
他に延焼することがないか確かめ、犬小屋に火をかけた。]
[犬小屋の火が火勢を喪った頃、私はネリーを物置から出した。
腕の縛めをやや緩め、猿轡を外す。
申し訳ないが、と私は云う。多少は時間がかかっても自力で解くことは容易なことだろうから、と。
そうして、彼女をそのままにダンソック邸を*後にした*]
―車中―
[憤激に我を忘れるほどでなければ、私刑に手を染めることなどなかっただろう。一ブロックほど離れたところに停めてあった車に戻る間、手は昂奮と恐怖と、あるいは自分自身への嫌悪でブルブルと震えていた。
ハンドルを握っても、すぐには発車させることができない。
しばし瞑目し、呼吸を落ち着け、手の震えがキーを回せる程度になった頃。私はようやく車を*発進させた*。]
─ブランダー家/居住部・自室─
[憔悴しきった虚ろな表情のまま、ヒューバートとソフィーをそれぞれ別々に迎え入れる。
何があったのか尋ねられたのなら、無感情に事実だけを話すだろう]
伯父様達と別れて、ダンソックの車に乗りました。
疲れていたから、私は眠ってしまって。
…着いた、って起こされたら……店どころか…誰も来ないような暗い、人通りのない路地だった。
……そのまま、車の中で……私、犯されたの。
[流石にその事実にほろほろと涙がこぼれて]
[ナサニエルの部屋から外に出た途端、がくりと膝をつく。酷い胸の動悸に冷や汗がでた。
「あの部屋…!」
部屋自体は綺麗に掃除されていた。
しかしそこに残っていたもの全てが消し切れていた訳でなかった。
腕に抱き留められた時特に顕著に感じられた。
それ故弾けた殺意も消されてしまったのだろうか]
……
[帰路では無言のまま]
シャーリィの態度が、彼の機嫌を損ねた、って。
だから、従姉の私に責任をとれって……っ。
でも、そんなことただの口実みたいだった。
お金も突きつけられたし…殴られもしたわ。
[寝台の上、ブランケットごと膝を抱えて小さく肩を震わせ]
それから、私はここまで送り届けられて……。
私は、身体中洗って。
その間にネリーとシャーリィがウェンディーの部屋にいて、伯父様は二人を連れて帰られて。
それから暫くして、店の中に犬が入ってきたの。
狂った犬だった。
でも…“兄さん”が助けてくれたの。
犬を殺してしまったから、あんなひどい店のなかだけど……。
[ギルバートだったことはわかっていたけれど、それでも疲れた心はそんなささいな単語ひとつに心の平穏を*求めていた*]
―自宅1階・書斎―
Joshua fit the battle of Jericho,...
[机に向かい一心不乱に何かを書き記して居るナサニエルの耳元に、或る歌声が聞こえる。]
Joshua fit the battle of Jericho, Jericho, Jericho,
Joshua fit the battle of Jericho
and the walls came tumbling down.
[おそらく何処かの誰かには意味が在るであろう歌声――しかしナサニエルにとっては不規則な羅列として認識されるに過ぎない――が、徐々に耳の中で大きく響く。]
You may talk about your king of Gideon,
you may talk about your man of Saul,
there's none like good old Joshua
at the battle of Jericho.
[歌声が鼓膜の中で膨張する。
――嗚呼、またこの響き、このヴィジョン。
きらきらと白い光の渦の中、肥った、或いは痩せた黒人の女達が手を叩きながらその配列を高らかに歌う。その真ん中には、ご満悦な表情で白いピアノの鍵盤に幾度も指を叩き付ける、サングラスを掛けた黒人の男。
鼓膜付近で膨張したその響きは一気に爆発し、ナサニエルの筒状の器官から一気に外へと飛び出してゆく。]
[極彩色の光、高らかな声―――]
──ブランダーの店(ヒューバート/ソフィーの到着前)──
[ローズマリーは店の扉に手をかけるが、ドアは開いていなかった]
あら、どうしたのかしら?
もう営業時間だと思うのに…。
[中を覗き込むと、薄暗く、じんわりと浮かんで見えるのは荒れた店内と血痕、犬の死体]
…いったい、何が…?
ルーサーさんも、アーヴァインも…。
[扉を力一杯叩き、リックとウェンディの名前を呼ぶ]
リック! ウェンディ!!
[返事はない。ローズマリーは眉をひそめるとアンゼリカに向かって走って戻って行った]
[――が。
綿菓子のようにきらきらとパステルカラーのプリズムをもって光る白い雲の上に、黒い影が忍び寄る。
"Joshua"やら"Jericho"といった類の言葉の配列が配置されて幾度めかの頃合い。黒い影は牙を向いて、白い世界に居る黒人の女に襲いかかった。]
[悲鳴と怒号。血飛沫と数々の凌辱。
黒い影は、女達をひとり残らず「赤」と「黒」の刑によって「処置」を終えると、ぐるりと首を180度回してピアノに手を叩き付けて居る男の方を見る。]
―――グルル……グル………
[影は、黒人の男に剥き出しの牙を見せ――喉を鳴らしてわらった。]
[黒い影が、白い雲の世界を覆う。
言葉を発することをせず、ただひたすらに咆哮を上げ、影は野蛮な牙を黒人の男の身体に突き立てた。]
ぐああああああ……………っ
[膨張する黒い影、赤黒く濡れる綿菓子の雲。
真っ白なピアノは鮮血に染まり、沈黙。
黒人の男の身体はズタズタに引き裂かれ、四肢を切り取られ、影の手によってあべこべに再構成される。]
[―――男に対する「凌辱」をし終えた黒い影は、パステルカラーの赤黒い世界にひとり立ち尽くす。]
[そして――……
その様子を、ただ目を見開いて見つめていたナサニエルの双の視界に、男の双の目がギラリと重なった。]
………お、お前………ッ!
[椅子から立ち上がり、じりじりと後退するナサニエルに、黒い影がじわじわと近付いて来る。]
くっ………来るな!来るなぁぁぁぁぁぁッ!!
[ナサニエルは床に置いてあった物を次々と影に投げ付けるが、影は全くと言ってもよいくらいに動じることは無い。牙を突き立て迫り来る「恐怖」に追い詰められたナサニエルの背中に、無情にも壁面の冷たい感触が宣告された。]
あ………あ………………!
[黒い影はナサニエルの両肩を掴み、ニヤリと大きくわらう。]
………………ッ!
[影の口から、何か不規則な言葉の羅列が聞こえる。
ナサニエルの瞳孔は開ききり、全身には凄まじい量の汗が流れる。]
た………たすけ………
[恐怖におののくナサニエルの様子を余所に、影は牙ではない何かをナサニエルの身体に差し込んだ。]
………あッ………ぐ………!
[ナサニエルの臀部の奥に、巨大な違和感が侵入する。]
や……やめ………やめろォォォ!!
あああああっ!!!
[ナサニエルの懇願を聞かず、男は不躾に何度もそれを出し入れしている。]
「ロティ」………
[影は、ひとつの配列を発する。]
ロティ、ロティ、ロティ、ロティロティロティロティ、
[巨大な"L"と"T"と"Y"の濁流が、ナサニエルの耳に侵入する。]
ロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティロティ
[機械的なまでに規則的な配列。男はその濁流に飲み込まれ、ただただ硬直することしかできないでいる。]
ロティロティロティロティロティロティロティ……
[――そして、幾度かめの配置が終わった後――影は獣のような咆哮を上げて、静かに果てた――]
[ローズマリーは店のドアがしまっていることを確認すると車に飛び乗った]
まだギルバートは戻っていないのね。
[あと誰か頼りになりそうな人は…。
ヒューバートのことが頭をかすめたが、彼は奥さんをなくしたばかりだったことを思い出す。
シャーロットにもついていてあげたいだろう。
いそうなのは、ナサニエルかしら…]
[ローズマリーは車にキーを差し込むとクラッチとアクセルを踏み込み車をナサニエルの家へと向けた]
[ローズマリーはナサニエルの家の前に車を止めるとあたりの様子を見回した。
特に変わった感じはしていない。
ここではなにも起こっていないようね…。
一安心するとナサニエルの家の扉をノックした]
ナサニエル、いる?
[幻覚に焼けた身体を引摺り、男は書斎を後にする。]
ルー…シー………
ルー……シーィ……
[四つん這いになりながら廊下を進み、キッチンに辿り着く。コップに1杯、生温い水を注ぐと、それを一瞬で飲み干した。]
[扉をノックする音が聞こえた。]
………誰だ?
[玄関に向かい、ガチャリとその扉を開けた。]
………ローズマリー?
珍しいな、お前が俺の所に来るなんて。
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