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―ボブ邸・少し後―
[下着姿となり靴を履いていないネリーを抱き上げた。身を捩り逃れようとする彼女を物置に押し込める。]
できればすぐ開放できれば、と思うけどね。
それは、彼次第だ。
[そう云うと、扉を閉じた。ネリーの周囲は薄闇に包まれた]
ふ…んんっ!?
[下着と目隠し、猿轡に後ろ手に縛られただけの姿になったネリーは軽々と持ち上げられ、狭い空間に押し込められた。]
――――――
大音量で唸るカーラジオ。男は上機嫌で朝のハンティングの愉悦を反芻しながら、唄っている。隣の座席に置かれたケージを揺さぶると、中の愛犬も吠え声で唱和した。
不満はといえば、災害で足を運ぶことのできる町域が制限され、狩るべき獲物の数が減ったことだっただろうか。今日の獲物は随分小振りだったことを思い出す。車内には、返し忘れた“もの”があったが、大きな問題ではない。アーヴァインの屋敷も焼け落ちていたのだから。
ハピネス・ハンティング。愛犬との散歩。家には愛すべきネリーも待っている。
申し分のない一日の始まり。
愛する家族たちとの食事を楽しむために家に戻ってきた彼は、芝生の上に車を停めた。しかし、エンジンを止めるとなにかがいつもと違う。明確にそれがなにかはわからない。ただ、五感がピリピリと奇妙な気配を察し、肌が僅かに震えた。愛犬たちもケージの中でいつになく押し黙っている。彼にはそれらが気に入らなかった。幸福な一日の始まりであるはずなのに。
『ああ……』
自宅に足を踏み入れ、違和感の正体にはすぐに気がついた。音響セットのスイッチが入ったままだったのだろうか。それとも、ペットがスイッチをひっかけてしまったのだろうか。ステレオセットが大音量で音を奏でているのだ。
奥の部屋にある筈のそれが、腹に響く重低音で微かに玄関先のガラスをも震わせている。
「ネリー、なにしてんの。止めないとダメでしょ」
男は家族同然に可愛がっている使用人の姿を探す。
いつもなら、すぐ返ってくるはずの華やいだ声が今日は聞こえて来ない。
キッチンや居間、裏手を覗く。
彼女は自分の部屋に居るのだろうか? だが、そこにも見あたらない。
ひとまずステレオの電源を落とすべく、開けっ放しにされたスタジオのステレオセットに足が向かう。
――――
――――――
男が車から降り家に入ってすぐ。玄関から死角になる壁際から一つの影が車に向かう。
ブツッ。
破裂音に近い音と共に、アルファのタイヤからシューシューと空気が漏れ出す。
開いたままの窓から手が差し入れられ、車中に落ちていた小さな釦を拾う。指が座席の隅に転がっている小さな布地を広げ、それが何かを知る。
離れた手は、ゆっくりと力を込めて握りしめられる。
立ち上る感情を凝縮させるかのように。
――――
――――――
家の中。娘を探す男の眼差しが、ステレオに張られた一枚の紙に引きつけられる。
よい使用人だ。来客をもてなすすべを心得ている。
たっぷりと味わわせてもらった。
彼女はどこかって? 客間で待ってるよ。
男の血が瞬時に沸き立った。怒りに打ち震える彼の喉から咆哮が迸り出る。
扉を蹴破らんばかりの勢いで、客間に踏み込む。
異様なほどに静かなその部屋に、その娘の姿はない。
――否。半ば閉じられたクローゼットの扉の隙間から、ブルーのワンピースの裾がはみ出ていた。足下には、ほんのわずかに靴が覗いている。
「ネリー……」
厭な予感が男の心を侵食してゆく。震える手でゆっくりとクローゼットを開く。
――――
―ダンソック邸―
聞きたいことは、二つだ。
[私は冷徹な声を刃として彼につきつけていた。
ボブ・ダンソック
今から殺す、その男を前にして。
開け放たれたクローゼットの扉には、先程までネリーが着ていたブルーのワンピースがテープで留められている。足下には靴下を履かされ足らしく見せかけられた綿が突き出す靴が転がっていた。
クローゼットの向かいの洗面所に、私は身を滑り込ませていたのだ。]
なぜ、ニーナだ。彼女がお前に何をした?
そして、もう一つ。
それを行った時、お前の良心と羞恥心はどこにあった?
[――それとも、最初からないか? そんなものは、と私は射抜くほどの強い眼差しで彼の背中を睨みつけた。]
「ネリーは! ネリーはどこへやったんだぁあぁあ!!」
[ボブは問いかけには答えず、忿怒の形相で叫んでいた。
なぜ私がこんな目に、愛する家族が、ネリーがどうしてこんなことに、とボブは歯を軋ませながら怨嗟の言葉を吐いていた。]
答えろ!
[私は、彼の側頭部をナイフの柄で思い切り殴りつける。]
「痛ェよ、畜生!! 蔑みやがって、見下しやがって!」
[私が一体どれだけ――と彼は宿怨の籠もる呪詛を繰り言のように呟いた。オマエらは我々を虐げてきたんだ、と。]
「これはその報いだ」
[オマエらはそうされて当たり前だ、とボブは吐き捨てた。ネリーをどうかしたなら八つ裂きにしてやる。そう敵意を剥き出しにして。]
n1ggerの糞まみれの歴史なんて知るかァ!!
ニーナが貴様に何をしたと訊いてる!
[憤激に駆られ、ボブの背中を蹴り飛ばす。クローゼットの扉に彼の額は激しく打ちつけられた。
ナイフを握った右手を拳銃を握った左手に携え狙いを定める。
ボブは額から血を流しながら、後ずさる。私の目に宿る強い殺意に、もはや死が避けられないと悟ったのだろう。
ただ、ネリーのことだけは、と懇願した。]
[くそっ! と私は激しく舌打ちした。
家族のような愛情を誰かに向けることができるなら、なぜ――
この男の目の前でネリーを犯したならさぞ溜飲が下がるだろうさえ思う。そうでもなければこの男に、愛する家族を穢された者の気持ちは伝わらないのではないか。そしてそう思いかけ、そんな自分自身に吐き気がする。
それは違う――ネリーは関係ない。そしてそれを過つなら、私も彼となんら変わりがなかった。
むしろこの男が我々とは全く違うモンスターであったなら、どれだけ気が楽だっただろう。]
[車内に、襲われたニーナの袖口から落ちた釦を見つけていなかったなら。残されていた粘着テープが雑貨店の窓ガラスに残されていたものと全く同じものでなかったなら。誰のものとも知れぬ可愛らしいマスコットが描かれた幼さの残るショーツが戦利品のように転がっていなかったなら。
これほどまでに確信めいた瞋恚の炎を燃やしていただろうか。]
女ァ犯して、テメェの母親にどんな顔で会うつもりだ!
bastard -私生児- !!!
[苛烈な激情が私に引き金を引き絞らせる]
死ね!
[引き金を引き絞るのと、まさに弾丸のような早さで黒い影が飛びかかってくるのはほぼ同時だった。私が多少視力に秀でてなかったなら、避けるどころか気づきさえしなかっただろう。
ゴライアスだった。
主の危機を察知したものか、巨人兵の名には似つかわしくないほどの俊敏さで死角より忍び寄り、襲いかかってきたのだ。銃弾は僅かに外れ、ボブの肩口を掠ったばかりだった。]
チッ!
[銃把で横殴りにその牙を払いのけ、落下したところを横腹にインステップキックを叩き込む。だが、ゴライアスは一向に堪える気配なく、地獄の番犬のように追い縋る。
機敏な動きに翻弄され、ボブから目線が逸れた刹那――巨大な岩塊のような突進が私の躰の真芯を捉えた。]
ぅおぉおおおお!!
[耳を劈く破砕音と共にバスルームのパーティションの半透明のアクリルは弾け飛ぶ。私の体躯は扉と共にバスルームの床に激しく打ちつけられていた。手から離れた拳銃は床を滑る。
しばらくは呼吸さえ困難なほどの痛みだった。壮年のボブのどこにこれほどまでの力が漲っていたのか。
更に、起き上がろうとする間もなく、振盪しクラクラ揺れる視界の向こうから冥府の番犬が咆哮を上げながら迫ってきた。]
[ダメか――
避けようがないその突撃にせめて喉元を守るべく首の前に左手を出しかけたその時、扉に掛けられていたタオルが床に落ちているのに気づく。
犬の唯一の攻撃手段である顎は、同時に最大の弱点でもある筈だった。タオルを左手に巻き付け突き出すのと、ゴライアスの口蓋が牙を剥き出しに眼前に迫るのとはほぼ同時だった。
私はゴライアスの口内で舌を掴んでいた。
身動きを封じられたゴライアスの無防備で柔らかな腹部を横凪の一閃が捉え、血飛沫が舞う。ピクピクとゴライアスは痙攣しながら、内臓をまき散らした。]
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