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──バンクロフト邸・客室(ステラ発見前)──
[ニーナの悲報を聞くや、ソフィーは倒れそうになった。
報せをもたらしたヒューバートの口から、ニーナの遺体が喰い荒らされたような状態だったと聞いた為だ。
度重なる不幸な事故、恐ろしい事件。
失踪したまま戻らない父。
これらをニーナの死と関連付けて考える事は出来なかった。]
そんな……そんな……。
どうして一人で外に……ニーナさん……。
[ヒューバートの手を借りてソファに腰を下ろし、瞑目する。
少し出掛けるので一緒に来るかと聞かれても断った。
一人にする事を心配してくれたようだが、とても行く気にはなれなかったし、家人が居るから平気だと言って断った。
今は一人になりたかった。]
[私はナサニエルの書き置きを読んだ。
思わず顔が引き攣った。リックにアルバムを見せられたと同じぐらいの動揺が拡がる。]
あの人…あの人は「血族」を知っている!?
[主を失った部屋の中、音の濁流は構わず流れる。]
Blood rack barbed wire
(血塗られた拷問台 有刺鉄線)
Politicians' funeral pyre
(政治家の火葬のための薪)
Innocents raped with napalm fire
(罪なき者がナパームの炎に犯される)
Twenty first century schizoid man....
(21世紀のスキッツォイド・マン)
[机の上には、何かに怯えるような顔をした有色人種の顔が描かれた――青を基調としたレコードジャケットが置かれている。
"IN THE COURT OF THE CRIMSON KING"――KING CRIMSON]
「逃げろ」
[初めて言われたものではなかった。今更ながら、意味が、意義がよく分かる。私には誰よりも力がない。たぶん、逃げおおせる力も乏しい。
忠告通りに従うのが正しいと思う。しかし行ってもそこへ行き着ける確証はないし何より危険だ。だが一生見逃してしまうだろう何かもある。]
[一度抱き締めた腕を解き、柔らかい口接けを与えながら、手をハーヴェイの胸の辺りへと滑らせていく。
一つずつワイシャツのボタンを外し、前を開いた。]
……お前が、欲しい。全部、くれ。
[口接けの合間に、熱い吐息と共に告げる。]
[キスの合間、とけそうな意識の中で問う]
一つだけ…聞きたい…
何故お前は…ここにきた…?
どうして…こんなこと…を……
ロティ――
[間もなく、陰鬱たる森林に分け入る。安置所からわずかに隔たった処にある廃屋の陰に目立たぬよう車を停めると、人の気配を伺いながら安置所へと歩みを進めた]
―安置所―
[「新しい作品?」 そう好奇心に目を輝かせて問いかけてくれた娘に、今は私は最初に作品を見せたかった。
死そのもののように冷たく厳粛な冥暗の中で、私はそこに奈落へ通じる穴が口を開けているかのように一歩一歩慎重に歩みを進める。
どれほどおぞましい深淵がそこに横たわっていても、彼女を求める歩みは小揺るぎもしなかった。
私はシャーロットがどこに居るか知っている。一度辿り着いたその場所を忘れ去ることなどありえない。
やがて、常闇の中に延ばした指先がそっと柔らかな肌に触れ――
――私は彼女を抱きすくめていた]
[外殻は発せられた熱に次第に蕩けていきながらも、意外にクリアーな「声」で返答が返ってきた。]
……ここに「血族」が居ると知ったからだ。
セドリック──ローズの弟が、ヘイヴンについて教えてくれた。
…ギル……
[風をさえぎっていたシャツが肌蹴られる。
あらわになった白い肌が僅かに震えた。
暖かさを求めるように腕を首に回し、自分から深いキスを送る。銀の糸が細く垂れた]
いいよ…全部……お前に……
セドリックも……「血族」だった。
狭い地域で他と交流がない場所……
特異な伝承……
もしかしたら、と。
が、結局は勘だ。
[バンクロフト邸から─恐らくヒューバートとハーヴェイを乗せた─車の音が遠ざかると、ソフィーは客室を出て、マーティンに一言断ってバスルームを拝借した。
浴室に入ると温度調節もせずにシャワーのコックを捻る。
降り注ぐ冷水が火照った肌の表面を滑り落ちて行った。]
仲間……
お前たちが……お前が正しくその血を御することが出来たなら……
同族はお前を仲間として迎え入れただろう……
[シャーロットの身体を抱きしめたヒューバートは、彼女に着せたドレスが所々泥と埃に塗れ擦り切れ、真新しい鮮血が染み付いている事に気付くだろうか。
ただし、彼女自身の身体には何処にも新しい傷は見当たらない。]
[トヨペットクラウンのハンドルを握るナサニエルの口許は、先ほどの曲の歌詞を朗読するかのように小さくパクパクと開く。]
[彼には、或る望みがあった。
――恍惚を求めるが故に。]
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