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人は誰しも。
己の事を基点に考えますね。
[夜桜は、三階へとゆく。
残り香が──発汗のための匂いが仄かに枚坂の鼻腔を擽ったかもしれない。]
雲井さま。
[まるで立ち塞がるように雲居が立っている。
立ち居振る舞いは、とても凛々しい。
かろやかに踊る女の足音。
夜桜はそちらへと腕をあげると指差した。]
―二階→三階へ―
[コルネールの名も消えていた。
確かにこの眼で彼岸を見た。
だが藤峰は]
『また、旦那様のように屠られて居るの――!?』
[途中、夜桜と枚坂が向かい合っている姿を見て]
枚坂様、
藤峰さんは……!?
―廊下・階段方向へ―
[声の聞こえる方へ歩いていく。
組紐を器用に編んで、腰に刀を下げている……ごく自然に]
藤峰さんを、知らないか。
[近づいて、誰にともなく声をかけた]
─3階・階段側の廊下(半異界化)─
[赫く玄い闇の色が宙空にじわりと滲む。
その中から……やはり白い貌が、水面から浮かび上がって息を付く様に、迫り出してくる。]
[背後から、聞き慣れた声が言った。
「そう、私もお聞きしたいわ。
誰を見たのかを」
夜桜が指差す方に視線を動かす素振りも見せず、じっと夜桜を見据える。]
─3階・階段上─
[雲井の傍らに立ち、階段を上る夜桜を──枚坂を睥睨する。
夜桜の腕が上がり……その先は。]
私、ですの?
それで……何が見えましたの?
[うっすらと紅い唇に微笑が浮かぶ。]
[もう一つ、問う声がする。]
藤峰君は、其処だ。
[視線は移さず、空いた右腕だけで、天賀谷の部屋を指す。
言葉を切って。]
それで?
[夜桜に向けて言った。]
「男心と――春の空」
常の春の空はこんなにもおどろおどろしくはなかったろうがね。
[私は窓の外を指し示し、はははと嗤った。]
男の心も女の心も、気まぐれで変わりやすいことには違いがないってことさ。
そう、誰もが己を基点に考える。
各々にさして違いはないだろうにね。
―三階・廊下―
!……そうか。
[雲井の声は何気ないように響き、わけもなく、藤峰は生きているのだと思った……その時は]
よかった。
[天賀谷の部屋へ向かう。藤峰の無事な姿を確かめたかった]
翠さん、藤峰君は――
[翠になんと答えたものか、躊躇われた]
天賀谷さんのところにいるよ。
だが、そこには行かない方がいい。
[枚坂に、このような状況でなければこう返した事であろう。──否、ただ、夜桜は微笑むだけであっただろうか。ここに記す事は止めとしよう。]
雲井さま。
[夜桜も、大河原の方を見ずに見詰めたままで]
─3階・階段側の廊下(半異界化)─
[白い貌の出現と同時に、薄黒い影と化した碧子のその頭上に浮遊し、碧子が浮かべたのと似た、より冷たく硬い威厳を以って其処に居合わせた全ての存在を見下ろす。]
―二階と三階の間、階段前―
[漆黒の蝶の様な大河原夫人が微笑む。
翠は酷く戸惑っていた。
と、雲井の声が]
……居るんですね!?
[僅かに浮いた声。
だが
「彼は死んだ」
枚坂の言葉が、残酷に現実を告げた。]
――嘘
[心がついていかない。
あのように、
千切れて潰れて――しまっているのだろうか。
見上げた先、望月が走った。]
も、望月様!
[階段を駆け上がる。]
―天賀谷の部屋―
[枚坂が真実を告げた声は、望月自身が藤峰を呼ぶ声と重なって、聞こえなかった]
藤峰さん?
[一見したところ彼の姿は見られなかった]
中から書斎に降りたかな。
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