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[望月は幼い声のまま、憧れに満ちた表情で答える]
山田流居合術の極意は、死んだ者が迷わぬように導くことなんだ。
[それはもはや、形骸化した教えだと言うことを、幼い頃は理解していなかったから]
じいちゃんはすごかったって、みんな言うんだよ。
[本気で山田浅右衛門に憧れ、己もなれると思っていた少年の頃。その心のままで天賀谷に言う]
たとえ屍鬼でも、迷わせずに送ってやれるんだ!
[――屍鬼?]
―書斎―
[階上を確かめるまでもない。]
『人一人から、普通に出る血の量じゃない……。
これも怪異の内か。
まずいな。これを見たら、此処にも誰か来るぞ。』
[その血液は、ゆっくりとしかし確実に、ある方向を目指して流れ、いや移動していた。
それを避けるように廊下に向かう。
床に散乱している巻物は放っておけばその流れに浸されてしまうだろう。
取敢えず傍のテーブルに投げるように移した。
廊下へ出て、後ろ手に扉を閉める。]
……はい。
[決意を滲ませる厳しい表情で夜桜に頷く。
仁科の顔を拭う様子に、
小さく息を漏らした。
泣いていた彼女を思い出す。]
……。
[翠は刀を握り締め、階下へ向かった。]
(お、俺はどうなる。
天賀谷の支援がなければ、次の選挙が。
石神井先生との約束が。
カネが要る。返り咲くためにはカネが。
いや、違う。そんなことはどうでもいい。
『死』だ。ここには『死』の臭いが漂ってる。
嫌だ。ここには居たくない。嫌だ。死にたくない)
―自室―
[ベッドの上に起きあがって辺りを見回す]
俺に、言い聞かせようとでも言うのか。
[つい手放さぬまま眠ってしまった刀を抱いた]
死に行く者を迷わせぬ事に心を砕いていた先祖を、俺は誇りに思っていた。
死んでしまった者であっても、俺がここにいるからは、せめて。
[首さえ落とせば成仏できる。そんなものは己の盲信かも知れぬという畏れが胸をかすめる。しかし]
『俺に出来ることがあるのならば』
[天賀谷とのつきあいは短いものだった。しかし、望月が天賀谷に抱いていた人間的な好意は金ゆえではなかった。
その死で取り乱すには及ばぬまでも、彼が亡者に、屍鬼に堕ちかけているならば、救ってやらねばならないと思った]
[来海は定まらない視線でゆっくりと歩き出した。
屋敷の出口に向かって、麓の村に向かって。
いや、どこかに向かったのではなかった。
『ここ』でなければどこでもよかった。]
―回想・刻が変わる前:深夜/天賀谷別荘敷地
[一揃いの医療器具は医療車輌に積んできたはずだった。
しかし、私が考えていたよりずっと早く訪れたこの状況に対処するには、まだ足りないもの、為さねばならないことがいくつもあった。私はせめて東京の助手に新たな機器と予備の医薬品の手配を要請するべく、連絡をとりたかった。
屋敷にも電話はあったかもしれないが、あまり詮索されたいことではない。
リンカーンの扉を開き、エンジンをかける。エンジンが暖まる間に医療車輌との間を繋いでいた牽引装置のロックを解除し、切り離した。あの崖道をこの車輌を引いたまま往復するのは至難だ。
運転席に乗り込みハンドルを握りかけ、しかし私は発進を遅疑した。医療車輌を振り返る。
僅かな間とはいえ、“あれ”をこの場に置き去りにしてよいものか――。]
[錠を外す僅かな時間さえも、いつにも増して長く感じられる。
私は一抱えの大きな防水布の包みを抱き上げ医療車輌から戻ると、リンカーンの後部座席に叮嚀に横たえた。
医療車輌の錠を元のようにかけ直すと、寸毫の遅延も惜しむように急ぎ車を走らせた。]
……天賀谷さんにも困ったものだ。
民間人があんなものを手に入れて……
どんなことになっても知りませんよ。
[煙草を吸わない私だったが、煙草を愛飲する習慣がある者がこの時ばかりは羨ましくなった。車を運転しながら気持ちを落ち着かせるのに、それは手っ取り早い方法だっただろう。]
なんだ?
……妙だな。
[車を停めることのできる見通しのよい前庭から木々の中へと入ったところで、一向に周囲の景色が変わる気配もない。
闇の奥深くからざわざわと糸杉の波が湧き出でては、また新たな波が押し寄せてくる。]
――くっ
なんだこれは……
[天賀谷氏と対面した前後に頭部に感じていた疼痛がそれまで以上の強さで甦ってきた。]
ぅあ! く!
……ダメだ。
[私はアクセルを踏むのをやめ、苛立たしげにハンドルを叩いた。]
―天賀谷死亡直後
[行けども行けども別荘の敷地から抜け出すことができなかったという事実を皆にどう説明したものか。
この別荘に起きていることについて一度、そこに居る者たちが集まって意見を交換することが必要なようにも思われた。
だが、さしあたっては天賀谷の処置が私が為さねばならない最優先のことだった。]
搬出入用の昇降機を利用させてもらえないだろうか。
[こうした大きな建物、とりわけ厨房と食堂が離れた豪華な建物では食材の搬出入やワゴンの移動のために設置されてあっても不思議はない設備だ。執事の施波に頼んでみると、果たしてそれは屋敷の裏手側にあった。
台車を用いての医療用ポンプや発電機、電気的除細動器に心電図計といった医療機器の移動は使用人の手伝いもあって比較的迅速に行われた。]
―天賀谷自室
[天賀谷の居室に向かう私の耳に、『葬送行進曲』の音色が届いた。あの楽師の青年が演奏しているのだろう。
誰かが彼にその演奏を要望したものか、それとも彼自身の内なる動機によって演奏されたものであったか。私はそれを知るよしもなかった。ただ――]
人はこうして彼岸へ送り届けられるのか――
[天賀谷は過去と現在の狭間から、過去の領域に属する人へと移り変わりつつある。そのことに一つの感慨があった。]
天賀谷さん。
安心してください。
すぐに元の姿に戻して差し上げますよ。
[私は縫合用の針と糸を手にとって、横たわる彼に向き直った。]
―自室―
[身支度を始めた。刀も仔細に改めるが何処も異常はない。……あれほど鍔鳴りしたというのに鍔に少しのゆるみもないのが異常と言えば異常なのかも知れなかったが]
……よし。
[刀を手に、廊下へ出る]
水垢離をするべきだろうな。
―部屋→廊下(→井戸)
[血管を切開し、医療用ポンプに接合する。ドッドッドッという規則正しい発動音と共に、ポンプは作動を始めた。
天賀谷の躰から血液が吸い出されていくかに見えた。
だが、おかしなことに、体内に血液はほとんど残されてはいなかった。]
――妙だな?
手間が省けるといえばその通りだが……
[失血死であっても常識的には考えられないことだ。首をかしげながら、視線を落とした先に、異様に広がった血の海が横たわっていた。]
これは一体……
―井戸―
ざばり。
『冷たい』
ざばり。
『痛いくらい』
ざばり。
『けれど、今の己は穢れてはいけない』
ざばり。
『澄んだ刀身のごとく在りたい』
*ざばり*
[来海は歩いていた。夜の道を。
月明かりの下。いや月は出ていなかった。
それどころか、夜ですらない?
しかし、道は暗かった。
どれくらい歩いたのか、時間の感覚がない。
あるいはほんの一瞬の出来事だったのかもしれない。
来海は櫻の樹の下に人が横たわっているのを見た。]
女、か……? おい、お前、そこで何をしている……
おい、おいッ、オイッ!!
[返事はない、来海の声が空しく響く]
「黄泉に逝ったものは現世へ戻ってはこれぬ――」
[私の耳に、夜桜の声が届いた。]
それはどうかな?
夜桜さん。
[ずたずたになった臓腑ばかりでなく、天賀谷の肉体の損傷は思った以上だった。容易に元通りというわけにはいかない。
だが、欠損していない部位だけはどうにか縫合し終える。冷媒を頭部や躰の周囲に敷き詰め、体内には特殊な溶液を流し込んでいく。
時間のかかる処置を終え、私は一息ついた。]
―天賀谷私室へと向かう廊下、窓の前―
……まるで道化だ。
[...は窓に薄く映る己の姿に独白した。
客達よりも華やかにならぬように。
それでいて主人がその財力や、品の良さを誇示できるように。
そのような目的を以て、男性室内使用人へ宛がわれるお仕着せ。
しかし客をもてなすべき義務も、天賀谷が完全に健在であった時ほどには自分にとって重要と、もはや感じていない。
そんな万次郎には、ぱりぱりに糊の効いた白シャツも、沢山付いているのに実際に役割を果たすのはただ一つのボタンに過ぎない上着も、ただ窮屈なだけのものだった]
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