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なるほど……私に与えるか、輪廻の向こう側。
[今にも飛びかからん大勢。「槍」が震える。]
よかろう。そこまで言うならやってみせい。
私に「真実の終焉」を。君に「個性」を。
[地面を蹴り、一直線に向かう。]
― 現実世界<Mundane>/南部境 オープンカフェ ―
あんれェ――
お連れさんが眠ったままだったら心配だァね……
[レベッカの言葉に、表情を曇らせた。]
こりって長引いたらなんかひどい影響あるのかなァ
って、あるぇー!!!
[劇場での公演の様子を自動録画していたはずなのだが、保存ログが途中で切れている。
最後には、バタバタとドミノ倒しのように入り交じりながら崩れていったメンバーとファンたちの姿が記録されていた。]
こっちもひどいことになってるってェ??
むむ、待った待った。
手紙――??
[電脳領域に意識を向ければ、手紙という言葉が引っかかった。]
≪好奇心。求める心は留まるところを知らず、いずれ人を滅ぼすものです≫
[他意は、無い。]
≪私が活動を続けている理由を私は知りません≫
≪知らぬ以上、私は現状では活動を続けるのみ≫
≪人々を癒し、与えるのみ≫
[与えることを美徳として登録されているPGMは
思いを漲らせ震えんばかりの槍が迫り、触れ、交わろうともただ*佇む。*]
―現世/南部あたり カフェ―
ええ。
[言葉少なに頷いた。]
――長引いてわたくしたちもこうなるとか、そういうことはおきえるかもしれないとコットお嬢様とお話していましたけれど。
……どうなさいました?
[言葉を待つ。手紙はまだ、*あけてはいない*]
[「槍」が眼前を貫く。が、傷はないようだ。]
我が「槍」は身を貫くに非ず。心を貫く。
[ズッと、「槍」を引き抜いて静かに*呟く*。]
Brahmaは「誕生」を与える……。
― 現実世界<Mundane>/南部境 オープンカフェ ―
劇場が、夢が崩れてる真っ最中なのよ。
夢がもりもりもりぐちひろこってな感じにさっきまで歌ってたってェのに。
[あわわ、と途方にくれて周囲を見渡した。
眼鏡でブックマークに入っているネット配信の番組をチェックしてみれば、リアルタイム配信のものはすべて止まっている。
中心部だけの異変であればさして動揺はなかったが、都市全体に影響が及んでいるとなれば話は別だった。]
[手紙を取り出してみる。
封蝋がいつの間にか溶け去っていた。
そこには、血が滴るような真っ赤な染みが残されている。
眉間に皺をよせ、薄く開かれた手紙の口を睨む。
そこにある、誘いかけるような気配を感じながら。]
「――ここに女の子は居なかったかな?」
[声がかかった。
とっさに、封書を再びポケットに押しこむ。]
おやおや、誰かと思えば――
[視線を上げた先に認めた姿。己の口もとには、微笑が*浮かんでいた*。]
──回想(ヒュプノス前後)/現世<Mundane> /西部・空中庭園──
[床に倒れた信者の1人が「目が見えない」と呟き、ひとりが「臓腑が冷たくなって来た」と悲鳴を上げ、やがて意識を失った。セシリアは彼等の手を握りしめながら、完全に昏倒した信者、倒れたものの意識がある信者、変わらず立っている2人を素早く見比べた。
財産がある信者は、自分自身の生身パーツを再生させたり、バンクに保管しておいた臓器を培養して、取り戻すものが多かったが、保存してない者、手続きの関係や病院・保険会社とのトラブルで中断せざるを得ない者も多い。また、資産の無い者はそもそもボディを保管していなかったり、再生の資金を得る事が出来ない。完全に生身の信者で、教団施設の外で活動出来る者は少ないのだった。
目が見えないと言った信者は義眼のままだった。
セシリアは教団内で担っている役割ゆえ、信者全員のボディの構成を把握していた。]
[数秒の沈黙ののち、]
…どうやら、完全生身の者だけが立っているようですね。
それも自己パーツの生体を持つものだけが。
でも、倒れている者も、意識は無いが死んでは居ない。
[横に首を振る。]
──今は、まだ。
[突如起きたメガロポリスの機能停止。
それが一時的なものなのか、事故、テロ、侵略行為。
今後何らかの展開が想定された作為的なものなのか、何も分からない。]
【私は今さっき、粛正の日ではないと断言したけれど。
Masterが──私を置いて、粛正をはじめないとは限らないとは、100%は言いきれない。】
【AIの私を置いて。】
【そもそも、生身の者だけが残ったならば、私は何故──、】
[セシリアには、つい先日にVIPサインを鳴らして教団本部に現れた、あの「訪問者」の事が思い出された。「訪問者」。
それに「訪問者」が差し出した「手紙」の事が──。]
[か細く白い少女のうなじには、桃のようにうっすらと淡い産毛が透けている。オーキッドパープルのやわらかな髪が、空中庭園の風にゆれた。
セシリアは、一見してはAIとは分からないほど外見は精緻に作り込まれて居り──また、外見だけではなく内部も専門家が解剖しても、人間と間違ってしまうほどに、作り込まれているのだった。]
【──知りたい】
【Master 私は知りたいです──】
[セシリアが、はかなげな表情を浮かべたのは一瞬の事。]
──回想(ヒュプノス前後)/現世<Mundane> /西部・空中庭園──
「セシリアさま」
「セシリアさま」
[空中庭園の通路にた人間の内、たった2人だけ。
少女の指示を仰ぐぎ待つように、セシリアを見つめながら、以前と変わらぬ姿で信者が立っている。]
【LEFT:最下層出身──34歳男性──
臓器・身体パーツ交換無し。
(極度の貧しさゆえ、工場機械で切断された腕の再生も無し。)】
【RIGHT:メガロポリス市民──16歳──男性。
教団育ちのため、交換した生体パーツを再生済の自パーツに交換済。
(すでに死亡した両親の希望により)】
──回想(ヒュプノス前後)/現世<Mundane> /西部・空中庭園──
私が残っているのも、貴方がたと同じく、宇宙の意思に選ばれての事でしょう。
この事態を乗り切れば、約束された場所は近い。
慌てず、おそれずに──。
教団本部、繭(コクーン)に還りましょう。
[セシリアは内心の動揺はあわらさず、不安を訴える信者に力強い言葉を与える。]
[巨大モニターは壊れてしまったのか、まだ同じ中央部のヴィジョンを繰り返していた。
セシリアは、空中回路だけではなく、公共交通がまだ動いている事を確認し、動ける信者たちに、昏倒した信者と収穫物抱えて、東部の電脳街の端にある教団本部のゲートへと戻るように指示した。]
貴方たちだけでお戻りなさい。
・・…大丈夫よ。
ゲートの開き方は、理解しているでしょう?
私は、この先の電脳街にある協力施設でUtopiaにアクセスし、教団本部のセキュリティを強化する作業を行い、それから戻ります。
──回想(ヒュプノス前後)/現世<Mundane> /西部・空中庭園──
──回想*終了*──
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