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[見回りながら出て行った者達の末路をぼんやりと考える]
長期間漂流が予想される際に必要な物…空気。食料。水。
[食料保管庫が襲われたとは聞いてない以上あるとしても備え付けの僅かな保存食のみであろう。ましてや空気―酸素が無くなればそこで終わり。最悪の手段を使っても僅かな引き伸ばしも出来るか否か―]
―愚か。
[手にしたレーションを片手で浮かせては掴むを繰り返し、
数度目かでしっかり受ければ一拍目を伏せ、胸ポケットにしまう。]
黒い肺、か。
[彼が見えなくなってからぽつりと呟き、自分も反対側に歩き出す。
けれど取り合えず今吸うつもりはなくなったらしく、喫煙スペースは通り過ぎて*見回りに戻った*]
―自室―
[サイドテーブルにに鎮座したホログラム時計――時間以外にも室温や湿度等の表示もされているが、普段は置いてあるだけで確認する事も稀な、半ば飾りとしての役割しかない無機質な数字の羅列――を一瞥し、貰い受けた煙草を時計の手前に置き、指先に微かな力を込めて平坦な机の上を転がすと、ホログラムを掠め歪んだ若草色の文字が指先に映り込む]
白い煙と黒い肺。
[僅か目を細め小さく囁いた言の葉は煙草の煙の如く霧散して、残される静寂の中では身じろぐ衣擦れの音すら大きく響き、鼓膜を震わす雑音を振り払うかの如く緩やかに被りを振り]
未だ――…
[震える口唇だけが更に何事かを呟き、自身の掌を見詰めて緩やかに瞬き、重力装置のスイッチを切り室内を無重力状態にすると、通常勤務時間まで暫く休息する心算なのか宙を蕩揺たい、目許に腕を置いて――重力装置のスイッチは切れども、照明のスイッチを切る気は無いらしい――照明の*光を遮った*]
―食堂―
[コポコポ][ボトルから水を喉に流し込む。配給制限のかかった食堂は閑散としていて誰もいない。水のボトルを、とん、と隣に置いた。すわり心地のあまりよくない椅子に凭れ]
……―――ラスは―。
ラスはまだ、見回りしてるのかしら。
体力の無駄遣い。休めばいいのに。
[ポケットを確かめるが、一つのレーションも入っていない]
―自室―
[見回りを終え部屋に戻る。ロックを掛けた後僅かな水を飲みベッドへと]
…………迂闊。
[照明と共に重力制御まで切ってしまったのは疲れて判断力が低下しているためだろうか―その様な事をぼんやりと思いつつ入れ直すのも億劫なのか宙に浮かんだまま*目を閉じた*]
[長いこと中空を見つめて黙り込んでいた。考え事をしていたのか、単にぼうっとしていたのか。答えは明白で、彼女は後者のようなことを殆どしない性質だ]
…もどろう。
[水のボトルを手に取ると、立ち上がって*自室に向かう*]
定員に達しなかったため、村の更新日時が24時間延長されました。
―中核部―
[部署へ顔を出すと明らかに普段より船員が少なく、訊いても居ないのに数名が脱出艇で脱出したらしいと教えられ、緩やかに瞬き一つ返し業務を開始すべく、席に着きモニタのタッチパネルを骨ばった指先でなぞる。
常より人の少ない割には妙に騒がしく、脱出した者達は途中で食料も尽きて――船舶の漂流した過去には人間が共食いをしたらしいと云う話からか――共食いを始めた頃だろう等と云う無責任な憶測や、彼等の内の数名が保管庫に押し入って食料を持ち逃げしたらしいとの噂話やらで、室内は――そうして居ない人間を標的に噂話にでもしないと、明日の我が身も知れぬ残された船員達の気も紛れないのだろう――おかしな方向に活気付いている。
モニタに映し出される映像には未だ補給衛星の影すら見えず、カプセル修復の目処も――投げ出して脱出する者も居ては益々遅れる事が容易に予想も出来る――立たず、保管庫の食料は日に日に減っている状況で、徐々に精神力も削られ、制限された食事のせいで体力をも削られているらしき船員達の様子を横目に、淡々と業務を*こなしていく*]
…………ぅ。
[目を覚まし状況を把握した後墜落を防ぐべく床の方へと降りてから重力制御スイッチを入れる]
――――っ。
[僅かな落下感に小さく息を呑み、ゆっくりと立ち上がると部屋を片付け始めた]
―自室→通路―
[片付けを終えた所で端末にメールが届き目を通す]
……了解。
[聞こえないと分かって居ながらも返答すると部屋を出て中核部を目指す]
[脱出したらしき船員を確認し人員の不足の報告を上層部へ回し、幾つかの打診と共に補填人員の要請を――此処でも必要以上の仕事が増えている――して席を立ち、黒い手袋を順に両手にはめ軽く拳を握り具合を確かめる]
全ては、有限。
[不在者の部屋への無駄なエネルギィ供給を止める為、システムでは対処出来ない部分に関しては手動で行う他無く、床に片膝をついて床板と成っているパネルをゆっくりと持ち上げ、更に重厚な蓋を開けると、並ぶ制御板の一つ一つを静かに確認し、不在者の居た区域のスイッチを切っていく]
――…
[主の居なくなった個人スペースは闇が侵食し、脱出艇へと至る廊下は非常灯を残し照明が消え去り、船員の減り閑散とした船は益々不気味な静けさを纏う頃には、この処置に対する――表向きは食事制限に依り肉体の体温コントロールが難しく成っていくであろう今後に対応する為、不要なエネルギィ消費の削減と、裏では脱出艇への進入を抑止する心算かも知れない――上層部からの放送もあっただろう]
[気配と声に床に片膝ついた儘ゆっくりと顔を上げ、其処にラッセルの姿を認め緩やかな瞬き一つで迎え、制御板の蓋を閉めパネルを元に戻して立ち上がり、促す様にモニタへと視線を移し骨ばった指が盤面をなぞりながら、今し方行われた処置と是からの作業――不在者の穴埋めを可能な限りシステムに任せ、残る船員達の勤務時間を通常との誤差範囲内に収める為に、多少の組み換えが必要だと――を静かに説明し]
システムは、融通が利かない。
[呟きと共にモニタからラッセルへと向き直り、説明が伝わったかを確かめる如く暫く見詰め――良く見れば頬の辺りが若干痩せてきているのも見て取れただろうか――てから、何時も通りに緩やかに一つ瞬き]
自分の色は、見つかった?
[作業とは全く関係のなさそうな――本人の中では何かしら関わっているのかも知れないが――問い掛けに、ラッセルの答えを待つ幾らかの間を置いてから、作業へ取り掛かるべく席につくだろう]
[船内を適当に歩き、今のところ落ち着いているのが判れば煙草を一本だけ取り出す。とはいえ通路ゆえに火をつけることはなく。
取り出した一本を眺めながら歩いて、暫くして咥えればゆったりと足は自室へと。]
異常がないなら歩くのも無駄、か。
[と、一人呟いていつものようにロックもかけずに部屋に戻る。
椅子に座り一息ついたところで上層部からの放送が入るだろうか。
無表情なまま外の闇を見つめて煙草に火を点け、軽く吸って息を吐けば部屋には紫煙が立ち込める。]
―中核部―
ギルバート。
[手動でスイッチを落としている彼に声を掛け、説明を受ければ黙して聞き入り見つめられれば了承したと言う代わりに小さく頷く。問い掛けには]
…まだ。
[簡潔な答えと共に勤務に着く]
[胸ポケットからレーション―ギルバートから受け取った―を取り出し机の上に置いて、幾度か紫煙を吐き出せば無造作に煙草の火を消す。
そうして立ち上がりベッドに深く腰掛け、テーブル上のレーションを何となく見つめること暫く]
――オムライス、か。
[呟いた言葉にも意味などなく、全ての身体の力を抜くように、ふぅっと仰向けにベッドに倒れこみ、どこか人形のような瞳に色を宿さぬ表情で天井を見つめる。]
[幾度か瞬けば満足したのか起き上がり、けれどイマイチ気乗りしない様子で自分のレーションを手にすれば一口かじる。]
……あとは煙草で充分。
[言えば、レーションを戻して煙草をもう一本取り出し火を点ける。
吐いた煙が部屋を侵食していくけれど、それもすぐさま掻き消えて。
ある程度休めば部屋にいる意味もなくなったのか、別段見回りでなくともふらりと部屋を出て行く*だろう*
[徐々に足場を削られて行く――或いは自分達で削っているのかも知れない――様な不安定な現状に、周囲の船員達の空騒ぎの声は、誰も居ないのに稼動している遊園地の如き狂気を帯びて響くか。
ラッセルの入室に漸く勤務から開放されるらしき船員は席を立ち、両腕を上げ左右に伸びをして首を振り大きな欠伸と労いの言葉を残し、疲れた面持ちで部屋を出て休憩へと向かうだろう]
そう。
[ラッセルの簡潔な答えへの返事も簡潔に、其の間も眼差しは必要な手順を踏まえながらモニタに映し出される文字の羅列を捉え、骨ばった指先は時折タッチパネルをなぞっていく]
このシステムは、何色だろう。
[ただ口唇から零れただけの呟きは問い掛けですら無く、背景が漆黒のモニタに映し出される数色の文字列を見詰め、また緩やかに瞬き作業を続ける]
−重力室−
[スイッチは無重力に。
ポニーテールは動きに合わせて空間を漂う。
咥えた赤いヘアピンで長い前髪をサイドに寄せて固定すると、自分同様に宙に浮かんだままのリモートコンソールの画面を慣れた様子で叩く。
相変わらず、船内の生体パルス総数のレスポンスの数は減る一方で、同様にこちらのアンバランスメッセージを拾える範囲内に他の船はない]
やれ、どうしたものかな。
[ゆらゆら無重力の中揺れながら、コンソールをたたくと画面が自然と船の外の風景を映す。
今日も宇宙は快晴のようだ]
[作業をしながらギルバートの言葉に答えるでもなく偶々聞こえた言葉への反応が声として出ただけの様に]
システムの色…作った者の色?
[どんな物でも製作者の個性が出るものだろうと―]
[元々食事はあまり取らない質だから食べ物が減ったところでそれほど問題があるとは思わなかったのだが、流石に一日にゼリータイプのものを一袋だけ、と言う日が続けば体はこたえるし、いい加減咀嚼力が落ちたような気がしてそのうち自分のあごがとても細くなってしまうのではないかと気になった指先が思わず元々細い顎をなぞる]
…顎が弱って歯が無くならないうちに、肉も野菜もまた食べたいもんだね。
[それほど困ったような様子もなく、のんびりした声でもうひとつ呟く。
困った、と]
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