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―玄関前―
[血に染まって尚いたわるような其の表情。
翠は首を横に振った。]
……いいえ、
私だけ、休むわけには。
……血の臭いならもう染み付いています。
[外へと歩む望月へ体ごと振り向いて]
どちらへ……?
[翠に答えて]
あの森の中に、屍鬼に襲われて人知れず亡くなっている智恵さんがいるんだ。
……弔いにいく。
仁科さんは、彼女がよみがえらないよう弾丸を胸に撃ち込んだという。
だが、それは処置だ。
……屍鬼を恐れるならば処置は仕方ない。だが、弔う心がなくていいというわけではないと、俺は思う。
さつき様、お休みになった方が―――
[謂いかけた所で、
望月の言葉が続いた。]
――――!
[眼を見開く。
其の言葉は、由良が翠にかけた言葉に――あまりにも、似ていたから。
扉の外で、花蘇芳が揺れている。]
[火勢に煽られて、その中に一瞬、踊るように亡骸が反り返った。
だがそのシルエットももう、定かではない。
振り返り。]
死体になってしまえば、皆同じですよ。
脂肪と、骨と……。
死者の望みなど、気にするのは生きている者だけだ……。
板坂さん。
貴方、この死体に、何の用が有ったんだ?
復って来ない様に処置するのに、何か違いがあるとでも?
―――い、いえ、
そんな――――
[動揺を押し隠すように、眼を伏せた。]
……望月様は……
其れが正しいと思い―――なさっただけで。
由良様も―――皆様も―――
[首を横に振った。
刀は未だ、きつく握り締められたまま。]
世界は、生きているもののためにだけあるのじゃないと俺は思う。
あるいは、俺が狂っているのかもしれない。
人殺しの手向けなど、誰も喜ばぬかもしれない。
だが、俺の縁たる人たちの往生を願うならば……。
―裏庭・櫻の樹の前
[焼くものを喪った炎がその勢いを弱め、燻って消えゆこうとする頃、漸く自我を取り戻した。
魂の抜けた表情で立ち上がる。
深く、深く。息を吐いた。
傍らに佇み碧子を見送った雲井に眼差しを向ける。
彼女の肉体は既に喪われた。
決して戻すことが叶わぬ方法で。
今更、何を云っても詮のないことだった。
だが――]
[目を伏せた翠を慰めるような声で]
いいんだ。
恐れても、詰っても憎まれても別にかまわない。当然だ。
……俺自身、これが正しいと確信が持てるほど強くはない。
ほかによい方法が見つからないだけなんだ。
ああ。雲井さん。
私は碧子さんに伝えたように、彼女の肉体を愛していたのだよ。
皆、同じじゃない。
彼女が屍鬼であるなら、その体はあまりに貴重だ――
私は十年以上、“屍鬼”を探し求めていたのだから。
いや、人の再生という願いについてだけなら、もっと長い時になる。
それだけの長い時を経た……思いを持っていたんだ。
―玄関―
『務め』
[そう言われて得心したかのような、あるいは絶望したような微笑を見せる]
……うん。
俺は、羅刹なんだ。
[声は、奇妙に清冽である]
[慰めるような声に、
胸が詰まるような思いがした。]
……魂を暴く私とて
正しいことをしているわけではないでしょう。
……少なくとも私はそう考えている。
刀を取ったのも斬ろうと思ったから。
でも―――
……本当に、最善の方法なんて、
きっと、誰にも分からない。
後に此の出来事が口伝で伝わるなら、
誰かが考えるかもしれません、けれど。
貴重……ね。
そりゃあ貴重でしょう。
だが残して置いてどうします?
本当に、貴方が望む通り戻って来てしまったら。
あの女(ひと)が、貴方に好意的な存在として、再生するとは思えんがね。
そうしてまで猶、「人の再生」は追求する価値がありますか。
[唇の端を釣り上げて笑う。
死者の安らぎを云々した板坂の、その変節を嘲笑った様にも見えた。]
刀を手放して、俺に肩代わりさせて欲しい……。
ああ、無理を言って済まなかった。
[俺はせめて、誰かのための刀でありたかった]
翠さん。俺がこんな羅刹でなければ、願いを聞いてくれたか?
[清冽な声。
翠は顔を上げた。
泣きそうな、顔に見えたかもしれない。]
……わたし、わかりません。
[望月に歩み寄り、手を伸ばした。
頬に触れようとしたのか――]
羅刹だから、
そんな理由で迷っているわけではないのです。
……頼ること、
負担になってしまうような、気がして。
[この異界で。
斃れた由良と望月が重なった]
いや――
私は碧子さんの魂を呼び戻そうとは思っていないさ。
天賀谷さん、藤峰君、彼らは惜しむ人がいた。
私はその惜しまれるが故に、安寧を願ったんだよ。
碧子さんについては、心以上にその肉体に関心を持っていたのは確かだ。
“体”目当ての卑しい男だと思うかい?
だが、君はどうなんだ?
“心”から、彼女を愛していたのか?
[魂の深淵を覗くのだという翠。
その業の深さは想像もつかなかったけれど、それが誰にも代われないことだけはわかった。
……わかりたいと思った]
雲井さん。
貴方が彼女を焼いたのは、屍鬼の復活を恐れる妄執ゆえか
それとも――
それ程彼女を愛していたのか?
私に決して渡したくないほどに――
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