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――酒場 アンゼリカ――
[ローズから施される愛撫にわたしは戸惑いの声を上げるけれど。でも彼女は撫ぜる手を止めようとはしない。
やわらかく押し倒される躰。背中越しに感じる革の感触が吸い付きそう。軋むスプリング。外は雨が上がり、差し込む光に虫達が騒ぎ出す。静かだった。何もかも。]
「穢れているとは思わないわ。少なくともわたしは…」
[ふいに耳許を掠めるローズの甘い声。蜂蜜よりも濃厚にブランデーのように強くわたしを酔わす。嗚呼神様、あなたは意地が悪いお人…。わたしの心を惑わすような誘いを、どうしてこうも容易く振り掛けるのですか…?
今彼女に一つの禁忌を赦されてしまったら…。わたしは更に欲深く求めてしまうではありませんか。
犯した罪も受ける罰も、そして未だ誰にも言えない心の闇を、彼女には全て曝け出し、許しを請いたいと――]
―雑貨店―
[ソフィーの頭に氷嚢をあて再び雑貨店に戻ると、奥の部屋から店の中へとシャーロット、ネリー、そして店に居たのかニーナが顔を覗かせていた]
ニーナ、帰ってたのか。随分静かだったから……
[言いかけ、ボブの名前に過敏にすぎる彼女の反応に目を瞠る]
なにか……あったのか?
えっいいんですか?ヒューバートさん。
お言葉に…甘えてしまおうかな?
[足取りはおぼつかないようにも見えるが、れっきとしたネリー。シャーロットと共に外へ姿を見せ、ヒューバートに促されてシャーロットの後ろをついて行き、ヒューバートの指すほうへ*足を歩み始めた*]
嗚呼ローズ…、わたしはあなたのその言葉だけで、今とても幸せな気分に浸っているわ。世界中の人がわたしの事を嘲笑(わら)ったとしても、わたしにはあなたが居てくれさえいれば、何も怖くはないの…。
[ゆっくりと押し倒されていく躰のまま、わたしは純白の本心を唇に乗せた。今此処に嫉妬も傲慢も色欲もなにも無い。欲に裏付けされた心ではなく、ただ素直に彼女へ抱く紛れも無い真実をあなたに――]
でもね、ローズ…。まだあなたはわたしを知らなさ過ぎるの…。だからさっきの言葉は――
[そう言ってわたしは緩やかに彼女の体を起し、自らもまた上体を起こすと]
これを見て…それでも穢れないと思うのなら。もう一度口付けをして?今度は…あなたから――
[シャツの釦に手を掛け。するりと上体の着衣を乱していく。そして全て剥ぎ取ったその姿を。彼女によく見えるように。
――晒した。]
[ローズマリーはステラの曝した背中の入れ墨に見入った]
ステラ…。
[ローズマリーにはその入れ墨の意味することはわからなかったが、これを入れることでステラが死ぬほどの痛みを味わったのであろうことは容易に想像ができた]
かわいそうに、どうしてこんな…。
[ローズマリーはステラの両肩にそっと両手を乗せ、ステラの入れ墨を丁寧に舐めあげた]
[入墨を晒す事。それは私自身が犯した罪を晒す事を等しかった。せんせいには宗教絡みの罪への罰としか言っていなかったけど。そんな生易しい物なんかでわたしは一生背負って生きていかなければならない罰なんて背負わない。
そう、これは――]
「ステラ…」
[ローズの息詰まった声が聞こえる。わたしはその声には答えずに、彼女の視線をただ黙って受け止めていた。
意味など解らなくてもいい。でも、わたしが思う以上に穢れていることを、罪深き人間である事を、知ってもらいたい。
その上でのあなたからの裏切りなら、わたしは喜んで嚥下しよう。そしてまたわたし自身も裏切りる前提がある事を、あなたにも与えてあげる――]
「かわいそうに、どうしてこんな…」
[同情の声が背筋をなぞる。通り過ぎる実に人間らしき感情に、わたしは身動ぐ。
さぁ、あなたは何に対して同情をしたの?]
[でも答えはすぐ与えられた。柔らかな風が露にした素肌をを掠めた。肩に置かれた手の感触。
――温かい。
そう、思った次の瞬間――]
――んっ…ロー…ズ…?あっ…そんなっ…どう…して…?
[一瞬だけ戸惑う口内の水音。そろそろと落とされた生温かいやわらかい感触が]
[罪の色を舐め盗るかのように滑る。勤勉に。]
[ローズマリーの舌が入れ墨をたどる。上へ下へ。
輪郭を。入れ墨をいれた時のステラの痛みをそぎ取るかのように。
入れ墨をたどりながらローズマリーは涙ぐんでいた。
やがて、ローズマリーはステラを後ろから抱きしめ、耳元に囁いた]
痛かったでしょう、ステラ。
こんな…酷い…。
[文字通り傷を舐めあう行為。愛撫とは違うそれだとは解っていても、躰は震える。気が…触れそうになる。
嗚呼、わたしはなんて罪な羔なんでしょう。救いにすら欲情してしまうなんて――]
[舐め盗る行為が一通り終ると、ローズはわたしの背中をそっと抱き、耳許でそっと囁く。
でもそれはわたしの欲しい言葉では…ない。]
いいえ…わたしが犯した罪に比べれば…これ位の痛み…なんてこと無いの。
――酷い?どうして…?わたしはただ、望んで…――
[と、その時肩に雫が一つ落ちた。あたたかい雨。]
――なっ…やだっ…なんで?何でローズが泣かなければならないのよ?
[後ろを振り向こうとしても、抱きしめられていて振り向けない。泣かせるだけ泣かせて、涙を拭う事もできない自分が。いま凄く憎らしい――]
罪?
こんな罰をうけなければいけないような罪なんてありえないわ。
人を殺したわけでもないのでしょう?
[ローズマリーは涙に濡れた頬をステラの頬によせた]
あなたの肌はこんなにも美しいのに…。
[ローズマリーの後ろからまわした手がステラの乳房をさぐった]
−雑貨店−
[そのまま終始無言で伯父達のやり取りを見ている。
ヒューに何かあったのかと尋ねられればゆるりと視線を彼のほうへと向けてから微かに間が空いて]
…いえ、何も。
すみません、先ほどまでバスルームにいたので。
それだけです。
[何もなかったかのようなふりをして微笑む。
ただ、決してネリーのほうを見ようとはしなかった]
[わたしはローズの言葉に戸惑った。]
「人を殺したわけでもないのに――」
[そして嘘をつく
今までで一番優しくそして残酷な嘘を――]
えぇ…人は…殺して居ないわ。でもっ――…
[続けようとした言葉は、重なり合う頬の柔らかい感触に奪われて]
美しいだなんて…そんな…ローズの方がよっぽど…あっ……
[後ろ手から包まれる胸。その行為はわたしの一番の好みでもあり弱い感触――]
嗚呼…ローズ…だ…め…駄目なの…我慢できないのっ。
お願い…もっと…もっとわたしに…触れて?あなたが知っている快楽を。
わたしにも…教え…て――
[気がつけばわたしは以前男達にそうしてきたように、彼女にもまた感情の昂りへと誘ってくれるように哀願していた。]
―雑貨店―
[ニーナの微笑みに、そうか、と答える。だが、彼女はネリーの方を見ようとはしなかった。
彼女はネリーと仲が悪かったのだろうか?]
タオルと冷媒を1パッケージ、買わせてもらったよ。
代金はレジの脇に置いておいた。勝手に済まないね。
[シャーロットと共に車に歩みを進めたネリーは、少しだけ離れた位置にいる。聞くか聞くまいか一瞬の躊躇があったが、やや声を低めて質問を口にした]
ニーナ。その……アルバムが誰のか知らないか?
あら、別にこれくらいもっていってくださってよかったのに…って、こんなことを言っていたらリックに怒られてしまうかしら。
[小さく肩を竦めながらマネートレイの上の代金を確認してから仕舞う。
そもそも店にはあまり来ない自分がアルバムがどこにあるかなど知る由もなく]
…アルバム?
伯父様、こちらにアルバムを置き忘れていかれたことでも?
[幾分感情の起伏が薄いまま、ぱちぱちと何度か瞬きをして店の中をくるりと見回す]
鍵………は、
[眉をしかめて考える――が、ナサニエルは何も言えずにしばらくその場で立ち尽くしている。
あの部屋にあるのは、たくさんの本、おびただしい数の『記憶』の『兵士』たち――メモ紙。それと、少々の薬物。それ以外には何もない。何もない、が――]
何だっていいだろう……とにかく、返せ。
そういうわけにもいかないよ。
[持っていって――という言葉に微笑みながら言葉を返した]
……そうか。
ニーナのではなかったのか。いや……
[彼女の返答に迷う。ニーナのネリーに対する忌避の感情は、あのアルバムに由来するものではないかと邪推したからだ。
となれば、彼女のネリーへの感情にはまた別の理由があるのだろうか。]
私のアルバムではないんだが、さっきここに置かれていたんだ。
[目線が、レジの影にこっそり立てかけられたアルバムを示す]
中は……人のアルバムはあまり詮索しない方がよいものだろうね。
[自分がつい中身を見てしまったことをさておいて、そのようにつけ加えた]
[ギルバートは鍵を求めて手を伸ばすナサニエルを揶揄う視線で見下ろす]
へえ。アンタの背中、羽根が生えてるのか。
[面白そうに笑った。]
[拾い上げると、それは『ステラのカード入れ』だった]
ニーナ、ありがとう。
リックとディーが戻ったら、よろしく言っておいてくれ。
また来るよ。
[着替えを終えたネリーから返してもらったブレザーのポケットにそれを滑り込ませた]
[鍵を渡すまいというそぶりを見せているギルバートが、自分の背中に刻まれた羽根のタトゥーを見てさらに笑みを大きくした。]
………だから、どうした。
[口から突いて出た言葉とは裏腹に、自分の肩の裏にチラリと視線を向けた。]
……私?
[自分の後方に向けられる視線に僅かにいぶかしみながら]
…ええ、伝えておきます。
[そういえば二人ともどこにいったのだろうと小さく頭の端で考えながら頷いた]
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