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[始まった二曲目にも暫く耳を傾けていたが、そのまま静かに店を出る。
妙に気疲れしたのは久しぶりの面々が多かったからかそれとも別の要因か。
今は大して気にもとめず、そのまま自宅へと戻るだろう*]
………ああ。
[ローズマリーが放った言葉に、軽く視線をやる。]
俺もそろそろ行くわ。
ピアノも堪能したことだしなァ…。
[そう呟くと、ポケットから無造作に紙幣を取り出し、テーブルに置いた。]
ごちそうさん。
[男は扉を開け、外へと向かった。ユーインの弟の背中が見える反対方向に、今から「契約」を実行する相手の家がある。]
[『あら…服が汚れているじゃない。私が洗ってあげるわよ。
ねぇ……その間に、ちょっと楽しみましょう?』
家事は好むものの料理だけはどうにも下手な「契約」相手が一番好きなシチュエイション。仕事でヘイヴンの外にいる夫の目を盗んでは、彼と関係を持っている主婦。たまに就学前の子どもが寝室に入り込むが、彼女はそれを気にせずまぐわうことを好むのだった。]
ん……もうちょっとくらい汚すべきだったかなァ……
[男は空を見上げて*呟いた*]
[でていくナサニエルの後ろ姿に]
おやすみなさい。
きちんとご飯はたべるのよ、ナサニエル!
[ローズマリーの口調が母親のようになっていることを自覚しているのかしていないのか、少し心配そうにナサニエルの後ろ姿を見送ってから]
[カウンターにひじをつき、ボブの演奏に*耳を傾けている*]
美術商 ヒューバート が参加しました。
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DPIA #:76-199
DARWIN'S
PRIVATE INVESTIGATIVE AGENCY,INC.
Serving Since 1958
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This Report Constitutes Confidential Work Product and May Further Constiture Work Product of the Nature of an Attorney-Client Privilege
件名:ヒューバート・バンクロフトに関する行動調査報告
197X年X月X日
1.東部標準時9:15AM頃、シカゴ在住の美術館学芸員ホレス・ワイズマンと共に自家用車で自宅を出る。
2.ホレス・ワイズマンはピッツバーグでシカゴ行きのアムトラック、ブロードウェイ特急に乗車。(発券記録から確認済。ホレス・ワイズマンに関する調査DPIA #:76-182付表参照)
3.ペンシルバニア州カンバーランド郡ワンクより東に1.5マイル、州間高速道路76号線沿いのガソリンスタンドで給油と洗車、自宅に電話。通話時間は8分14秒(通話記録より)
・
・
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In younger days I told myself my life would be my own
And I'd leave the place where sunshine never shone
若い頃には自分自身に言い聞かせていた。自分の道は自らで定めるのだと。そして日の輝かぬ郷里を去るのだと。
――
カーラジオからはバッドフィンガーの『Carry On Till Tomorrow』が聞こえてきた。
私は、深い緑の中を貫く道路を滑るように疾駆する純白のカブリオレの車中でカーラジオのボリュームを上げた。
空を見上げれば、深く吸い込まれるような青い空。穹蓋の頂上にかかる烈日は、眩いばかりの陽光を惜しげもなく降り注いでいる。
初夏の頃合いで、いまだ盛夏の火焔を思わせる日差しほどではない。森の木々も草原の草花も日の光を喜悦として震え、天への渇望と共に伸びゆこうとする。繁茂する緑の深く鮮やかな色彩には漲るほどの生命の力が顕れていた。吹き抜けてゆく風に草木の息吹や家畜の体臭が混じり、周囲に満ちている生命の存在に確かな感触で触れあうことができた。
――
――――
天蓋がなく、車高も低いスポーツカーだからこそ感じることのできる風景との一体感は、一度手にすると忘れ去ることのできないものだった。
ロメッシュのビースコー、カブリオレ。それが、その車の名前だ。
――
――
私が最初にその車を知ったのは、アートスクールに通い始めたばかりの頃だった。友人にカーマニアの男がいて、珍しい車がある、とカー雑誌を差し出したのだ。
その頃の私にとって、車などせいぜい頑丈で故障することなく長距離乗ることができさえすれば十二分なものだった。一日も早く彫刻家として身を立てることを誓っていた私に、そんな余裕がなかったとも言える。なにしろ、美術制作というのはとにかく物入りだ。まして私は若くして所帯を持ち、娘さえいる身の上だった。ニューモデルどうだとか、スポーツカーがどうのといった金のかかる贅沢な趣味とは縁がない。
スポーツカー、と聞いただけで私は諦観混じりに鼻で笑い、写真も見ないままヒラヒラと手を振りかけ――だが、その眼差しは誌面の中央を飾る曲線で描かれたロメッシュの優美な佇まいの上に留まった。
それは確かに、実用本位の家族向け自家用車とは違う次元にあるものだった。金属をまるで意のままに変化させ形作られたような滑らかな曲面からなるボディは、人工物というよりは鉄の産道から産み落とされた機械の女神を思わせた。
「これは実車を見てみたいと思わないか? この曲面がどんな風にできあがってるかをさ……」
彼の言葉に、美術的な興味が更に煽られた。私は意識するより早く、頷いていた。
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その車を実際に手に入れるのに、それから十年近くの時を要した。その間、私は作品制作に没頭し、働きづめに働いた。
決して安くはなかったが、今にして思えばその代償は決して高くはなかったように思う。彫刻家としての修業時代にロメッシュと出会ったことは私の作風に少なからぬ啓示を与え、また活力の糧となったからだ。
しかし、この理不尽な欲求を他者に理解してもらうことは簡単なことではない。
ロメッシュを手に入れウキウキと帰宅した私を迎えたのは、妻エリザの凍てつくように冷たい眼差しだった。
「なによ、これ」
エリザはロメッシュを一目見るなり眉を蹙めた。ごく控えめに表現しても、気に入っていないのは明らかだった。
「なにって、見ての通りだよ。新車を買うって言ってあっただろう?」
「ああ……バート。冗談は言わないで」 彼女は呆れたように首を振った。
「これが車ですって? こういうのは車とは言わないわ。芝刈り機を車とは言わないように。屋根だってついてないし、シートは二つしかないし、荷物だってあまり載らないでしょう?」
もう少し好意的か、悪くても関心が薄い程度だろうと予想していた私は当惑しながら、ロメッシュの弁護をはじめた。
「そういう車なら、もう家にあるじゃないか。ニューヨークまでの往復時間を短くするために、スピードの出る車は必要だったんだ。」
話をする隣で、娘のシャーロットはロメッシュを覗き込んでいた。私は、綺麗な車だろう?と声をかけた。
「オープンカーは気持ちいいしさ。外に出るのだって楽しくなるぜ?」 それでも、エリザの気持ちが晴れる様子はなかった。むしろ、その表情には嫌悪と怯えが滲んでいさえした。
「屋根がついてなくて、すごいスピードで走るんでしょ? カーブを曲がったら車から放り出されるわ。ロケットやカミカゼの飛行機に乗るのと変わらないわよ。」
オープンカーは風の巻き込みも少ないほど空力的に考慮されていて、実際に乗ってみると無防備な感じはあまりしない。それでも、未知の乗り物は彼女にとってそのように見えていたのだろう。ロケットの打ち上げ失敗が多発していたのは昔のことで、アポロは月に行った、とどこか的外れなフォローをしてみたところで虚しいばかりだった。
エリザはキッパリと自分の意志を表明した。
「こんな車、誰が乗ると言うの? あなた以外に――」
私は諦めのため息を漏らした。ともすれば町に籠もりがちな妻を連れ出すきっかけにもなるかもしれないと、少しでも考えたのは勇み足だったようだ。
家族用の車は別にあったが、ニューヨークまでの往復に用いる時にはその間家に留まる妻には不便を強いた。どのみちもう一台の車は必要ではあったのだが、好意的に迎えられないことは居心地の悪いことだった。
ロメッシュは不遇なコーチビルダーで、ベルリンにあった工場はベルリンの壁の向こう側となり消えた。私が手に入れることを具体的に考えるようになった頃には既に生産が終了していたのだ。様々な伝手を通じてたっての希望で入手したその車を返品できる先がなかった。
既に哀願に近い気持ちにさえなっていた私が再び説得を試みようと顔を上げ――すぐそばにいた少女と視線が絡んだ。
「シャーロットは乗ってくれるよ」
私の願いがつい言葉になっていた。
シャーロットはつぶらな瞳で私を見つめ、エリザを見た。少し置いて私に眼差しを返す。わずかな時が酷く長く感じられた。
はぐらかそうと「――たぶん」とつけ加えかけたその時――
――――
――――
Drifting on the wings of freedom leave this stormy day
And we'll ride to tomorrow's golden fields
自由の翼で滑空しながらこの嵐の日を逃れ
明日の黄金の沃野へと羽ばたく
――
[怖ろしい嵐のただ中で尋常ならざる被害を受けたヘイヴンのことが思い出された。バッドフィンガーのその曲は、前向きな歌詞でありながらメロディも歌声も英国的に憂鬱で、どこか悲壮感が漂ってさえいた。
私は音量を絞るとクラッチペダルを踏み、ギアをシフトさせた。そして、最初に見つけたガソリンスタンドに滑り込んだ。]
―ヘイヴン外・ガソリンスタンド―
[ヘイヴンに通じる道路が復旧するまでは、域内の移動は乏しくなったガソリンをなんとかやりくりするばかりだった。その苦い経験が新鮮なため、ガソリンの残量が随分と気にかかる。
飛び込んだガソリンスタンドで給油を行い、ついでに軽く洗車を頼んだ。ぼさぼさに髪が伸びた店員の作業を横目で見ながら、公衆電話で自宅にかけた。電話も暴風雨で一時不通になっており、家を離れた時には機能しているかどうか時折気になった。]
ああ、そうだ。彼を駅に送り届けて、今、帰るところだよ。
[電話口に出たのは、意外なことにエリザだった。日中、普段は母屋の事務室で事務仕事に従事している彼女が主な住居になっているアトリエの方にいるのは珍しい。]
「くれぐれも運転には注意して」と彼女は言い、こうつけ加えた。「そうでないと、あなたでなく生命保険の契約書が私たちを養うことになるわ」
[いつもながらの口調に苦笑いしながら、皮肉めいた冗談が口から零れた]
『どっちもほとんど変わりがないけど』とか言わないでくれよ。
「まさか」
[否定の言葉は意外だった。彼女からはその種のことをよく耳にしていたからだ。電話では相手の表情が見えない。だが、続く言葉はやはり予想通りだった。]
「――紙に養ってもらう方がずっと楽よ」
[乾いた笑いを返すと、シャーロットを呼んでくれるよう彼女に頼んだ。]
[話をしている最中、轟音を上げて数台のトラックが行き過ぎていった。]
すまない。ちょっとよく聞こえな――
[受話器の耳に当たる部分を手で覆い耳を欹てながらトラックの方を見るともなく見送る。一瞬、目の前を過ぎ去るものに視線が定まった。]
カウボーイハット……
[トラックの運転手の交代要員や、土木作業に従事する人足といった雰囲気ではない。だが、どこへ向かうとも知れぬその姿に注意を奪われていたのは、僅かな時だった。]
ああ、いや。なんでもないんだ。
[再び電話の向こうに意識を戻す。様子に変わりがないか、町の外でなにか欲しいものがあるかと二三言話して電話を切った。]
―ヘイヴンへの途上―
[鉄橋を渡り、森林深くに分け入るに従って路面が荒れている。慎重にハンドルを切りながら、つづら折りになった勾配を抜けてゆく。
音声が乱れたカーラジオのチューナーをいじると、地方局にチャンネルがあった。]
「それでは、次の曲。地元が生んだスター、ボブ・ダンソックの曲――」
[木々の中で時折受信が悪くなるラジオのノイズの向こうから、彼の力強い声が響いてくる。
ヘイヴンはすぐそこだった。
深い緑の大海に白い影は*吸い込まれていった*。]
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