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みたいだな。
[連絡はない――其の言葉に顔色一つ変えずにまたも簡素な返事。
特に時計を見ることもせず、彼が外へと視線を映せば釣られるように己も視線を外へとやり]
行く末――頭のどっかではわかってるんだけどさ。
変わらないなら、変えられないなら、そうだな。
[透明な板越しに視線を合わせて]
死んだ肉なら喰えばいい。もう食料はないんだし。
殺すのは、殺す側も体力を削られるからお勧めはしない。
大人しく死ぬなら皆の糧になる覚悟をするといい。
俺は――もう少し、様子見?
[口許だけに笑みを浮かべて。]
[星の色に似たナサニエルの視線と、闇を写し込んだ紫苑の眼差しが交わり、紡がれる言葉に緩やかに瞬き、焦点は闇へとぼやけていく]
誰も大人しく死ななければ――…
[殺すしかない、と常と変わらず小さく呟く]
そう。
[視界の端に捉えた口許だけの笑みに、視線を戻す事無く僅か目を細め、暫く思案気に沈黙した後にナサニエルに向き直り]
若し、俺を喰う事に成ったら――…
[一旦は口許を引き結ぶ]
[小さな呟きに目を細め、笑みは絶やさず眺めて]
そうだな。
俺が言ったのはただの奇麗事。
[随分と血なまぐさい奇麗事だと内心は自嘲気味に。
視線を硝子越しではなく直に感じると、自分もまた視線を彼に戻す。]
ギルを?
[ゆっくり首を傾げて相手を見る。
驚きだとか、そういったものは矢張りなく。
静かに口許を見つめ、言葉を待つ。]
[ウサギはぴるぴると耳を震わせて。
主とセシリアの顔の間を視線がいったりきたり。]
別に構わない。
私に料理は無理だからセスに任せる。
[他にも、という言葉には一つ首肯を返して。]
――……ああ。
通路を真っ直ぐいった先を左に曲がった部屋に転がしてある。
[まるで食料庫にでも案内するような気軽さでそう告げる。
食べたければ好きにしろ、と。]
――……ああ、それと……
[そうして紡がれた言葉を読み取るのに一拍ほど要し、]
ん。わかった。
[とだけ告げると彼の頭を撫でようと手を伸ばす。]
そうなったら、な。
じゃ、料理…する。
[インカムに伸ばしかけた手は下ろされて、ローズマリーの背後に続く通路へ視線が移された。ちらと見てから頷く]
転がしてある……そう、わかった。
取りに行ってから食堂に行く。ロゼは食堂に行ってて。
[何がわかったのか、言わずに]
またあとでね、うーくん。
[調理したものが食べられるとなると行動は早い。其れがなんであろうと構わない。おおかたの予想はついていたが触れずに済ませ、ローズマリーの脇をすり抜けようと]
…それと、何?
綺麗?
[別段にナサニエルの内心を読んだ訳でも無いけれど、問い返しゆっくりと首を傾けるも、彼からの問いには瞬き一つで肯定を示す。
間を置き返される言葉にゆっくりと瞬き、ふと会話の内容からはかけ離れた穏やかな気配を纏い――…]
[伸ばされる手にも――血生臭い話をしていた割に警戒もせず――常と同じく抗う事は無くて、伸ばされたナサニエルの手には柔らかな癖のある褐色の髪が絡まり、さらさらと緋色の煌きを零す]
ならないとは、云い切れない。
[小さく囁く頃には微笑みも消え失せた]
手を汚さずに居ようとしてる者の視点だよ。
死んだら喰うが、殺すのはお勧めしない。
けれど、誰かが死ぬ原因は餓死か事故か殺人のどれか。
[そこまで言えば笑みは消える。
――それまでの会話には表情を変えなかったのに、浮かんだ笑みには驚いた顔で相手を見つめ、髪を撫で始めた手も止まったままに瞬く。]
逆もまた然り――なのかな?
[彼の笑みが消える頃には柔らかな髪の質感を愉しむように。]
嗚呼、でも、ギルと違って俺は……残してほしい部位はないな。
真っ黒な肺は不味そうだから残るかな。
[くすりと笑う。]
判った。
[一刻も早くこの気持ち悪いものを手放したいから二つ返事に頷いて。
すり抜けていくセシリアを振り返らぬまま。
見えない顔には、無表情も似た笑みが張り付いたまま。]
――……ギルバートも食べられるモノ。
[そう告げて。
うーくん、と相棒に声をかけると食堂へと歩き出す。]
[相手の思うところあずかり知らず、付け足された言葉にはうーんとうなって]
…ギルって嫌いなものあったっけ…?
[思い出そうとしながら、ロゼの傍をすり抜け通路の向こうを左に曲がる。
とたん、異臭。鉄のような匂いが部屋一杯に立ち込めて。
不器用に切断したと思われる人体の一部が散乱している]
………やっぱり。
[予想に近い光景だったことに呟きをもらす]
船長、この旅は成功させるよ。
成果はきちんと持ち帰る。
だから、最期に私たちの役に立って。
[周囲を見回して刃物を探す。程なく大振りのナイフが見つかりそれを手にして放置された胴の部分に歩み寄った]
[ナサニエルの言葉に思案気に瞬き]
生きる事は、殺す事。
殺す事は、殺される事。
[其の貌から笑みの消えていくのを見詰めるも、驚くらしきには不思議そうに――伸ばされた手を妨げぬ程度に――首を傾け、交わる視線が束の間途絶える時も視線は逸れず]
如何か、した?
[髪を梳かれるのに獣の如く目を細め、問い掛けと共に再びナサニエルの貌に笑みが戻ると、漸く緩やかに瞬く]
如何、かな。
煙草を吸って無くても人の肉なんて――…
[旨く無い、とまた口唇だけが囁いた]
野菜は無いから、ソテー…?
[屍を目の前に献立を考える。一先ず背中側の腹あたりに切っ先を当てて丸く切り取ってゆく。脂肪と筋肉を分けて丁寧に刃先を滑らせる。脂肪は脂肪で脇に置いて]
ロース……。
[血は殆ど抜けているとはいえ、切込みを入れれば残った赤い液体が飛び散る。一旦ナイフを置いて眼鏡を外し大事そうに上着の下の胸ポケットへと仕舞いこんだ]
それから…バラも…。
[ごろり。胴を反転させて胸から臍下辺りまでを四角く切り取ってゆく。こちらも脂肪をより分けて。
結局は大振りの肉塊が二つできた]
―――…このくらいかな。
[二つの肉塊を見下ろしてどうやって運ぼうかと思案する]
[調理スペースは使われなくなって久しく。
すっかり乾いたシンクに皿をひっぱりだすと肉塊を乗せる。
こうしてみれば幾らかマシな食べ物に見えるかもしれない。]
……気持ち悪い。
[ぎとぎとになった手を、洗剤でしつこい程擦る。
洗っても、洗っても、洗っても、洗っても。
一向に綺麗にならない気がして、苛立つ。]
……っ
[擦れて赤くなった手は、未だ血を纏うようで。]
あぁぁぁぁぁぁぁっ!!
[思い通りにならない手はシンクへと思い切りぶつけられる。]
[言葉を刻むように視線は口許に注がれて]
殺す事は、殺されること――か。
[問いかけには瞬き一つ、ゆるりと首を横に振り、或る程度撫ぜれば矢張り最期はくしゃりとかき混ぜて絡まる髪から手を離す。]
ま、食べたこともないけど。
人間は雑食だから美味しくはなさそうだ。
[草食動物の肉の方が美味いなんてのはよく聞く話で。]
俺の肉は肺じゃなくても不味い。多分。
ニコチンなんて毒みたいなもんだし。
[けれど生存競争にグルメなど求めるはずもなく。]
そうか、台車。
[機材を運ぶための台車が部屋の片隅に置かれていることに気づいて、ナイフを置いた。血濡れの手を作業着であるパンツで無造作に拭う]
これは、結構な量かもしれない。
[つまむ様に端末からインカムを取り出し装着。船内放送に切り替えて]
『こちら、オペレータ・セシリア。食料を調達した。現在の乗員分はゆうにあるため、食堂にて調理する。食べたい者は食堂に集まること。以上』
[淀みなく言ってのけ、二つの肉塊を台車にのせる。ちょっとした肉体労働は、空腹の体にこたえる。時間がかかってしまった。ローズマリーが待っているだろうと、台車を押して食堂へ向かった]
[水の流れる音。
肩で息をすることしばし。
ふと振り返ればウサギの黒い瞳と目が合う。
其処に移る自分の顔は酷く歪んでいる。]
――……空腹は精神を破壊する。
やはりヒトは面倒臭い。
[変わらず赤い手で顔を拭う。
いつもと少し様相の違う主を心配してか、足元に付きまとうウサギを抱き上げて。
船内を流れるセシリアの声に表情を戻すけれど。]
――……私が死んだら、君は悲しんでくれる?
[普段ならばそんな問いかけ等することもなく。
答えに窮しているのか、あるいは最初から答える術がないのか。
ウサギはそ知らぬ顔で、*毛繕い。*]
[食堂に近付いたところで、悲鳴のようなものが聞こえた]
…?
[パンツは拭った血でまだらに赤く染まり、手もまだ赤の色が残っている状態。
そんな姿で台車を押して厨房側から食堂に入る]
ロゼ?うーくん?
お肉持って来た。簡単に調理できそうな所だけ。
内臓は血抜きが面倒だからやめたほうがいいかも。
ロースとかバラなら、殆どそのまま使える。
炒め物かソテーにする予定。付け合せは無いけど。
[まるで普段の食事について話すように躊躇いは無く。肉塊を一つずつシンクの脇に置いていく。これも時間がかかる]
[なぞられる言の葉に静かに瞬き、投げた問い掛けに答えが無いらしきには其れ以上問うでも無く、さらさらさらさら緋色の煌きを零してくしゃりと混ぜられるのに、また一つ瞬き被りを振って視界にかかる髪を払う]
人間だからだと思う。
[喰われる人間の事なのか喰う人間の事なのか、何処でも無い何処か遠くへと視線を投げ、小さく呟いてナサニエルへと骨ばった手を伸ばす]
黒は、死の足音を連れて。
自ら毒を摂り安定と生す。
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