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――自宅――
[嬌声と艶かしい水音が入り混じる部屋、時を向かえて欲を吐き出したわたし達。肩で呼吸を整えていると、ようやく部屋に前からあったであろう虫の声が、わたしの鼓膜を揺さぶった。]
[果てた男は早々に、大して乱れていない身支度を整え、享楽に酔いしれ悪夢と幸福の入り乱れた挟間に佇むわたしの躰から、拘束具を外し無言の内に立ち去る。
その後姿をただぼんやりと見送りながら、わたしは扉が閉まる音を聞きつけると、ほっと長く溜息を吐きだした。]
お疲れ様、ナサニエル。付き合ってくれてありがとう。
――これで少しは…あなた達の欲望も…治まってくれたかしら…?
[たくし上げられ肩紐が肘まで下がったコットン製のブラジャー。そして足首に小さく纏まる汚れたショーツ。髪は乱れおまけに背中にはまだ精子の鼓動が鳴り響き、太腿には愛液がまだ生々しく光り輝いている姿で、まずは彼に対して労いの言葉を呟いた。
そして背後に潜む二匹の獣達に問い訊ねた。]
[わたしが声を掛けると、彼らは背中に撒き散らかされた精液を貪るように食していた。と言っても膚に刻まれた絵画は食事等出来るはずも無いのだが。
しかしその考えを覆すかのように、彼らは瞬く間に色鮮やかに蘇り。まるで今にも鼓動が聞こえてきそうな位艶かしく目を光らせている。]
久し振りの食事は、そんなに美味しかったの?
[どろりと背中を滴り落ちる白濁を、わたしは味見をするために後ろ手で掬い上げて口許へと運ぶ。舌で舐め取るように口に運んだ体液は、生臭さと苦さと微かな甘みを帯びていた。]
んっ…おいしっ…――
[一口運ぶとまた一口欲しくなり。わたしは出来る限り掬い取っては無心に口許へと運ぶ行為を繰り返した。
窓の外からは子供達の無邪気な笑い声が聞こえる。わたしの生徒達。彼らはわたしを穢れ無き人と認識する。そう教え込んでいるからだ。]
[だから彼らは知らない。純潔を重んじる潔癖な教師の素顔は、性欲に塗れ罵られて絶頂に達する罪深き者ということを。神に背き子孫繁栄の道徳にも背き、己の欲望と罰の挟間に常に身を置かなければ自身の形成も出来ない欠陥品だということを。]
「あのねっ、あたしステラ先生が憧れの人なの!大きくなったらステラ先生みたいな人になりたいな!」
[ふいに外で遊ぶ子供達からわたしの名前が挙がる。その無邪気さに触発され、わたしの理性は一瞬にして体中を巡り巡る。嬲られた記憶と重なるように。
舞い戻ってきた日常で非日常的な姿を確認すると、すっと血の気が引ける。鏡を見なくても判る。今のわたしの顔はきっと青褪めているのだろう。
嗚呼、わたしは…またなんて事をしてしまったのだろう――
後悔の念が体中を渦巻くいた。]
――いやっ…そんな風にきれいな者として見ないでよ…。
わたしは神に背いて穢された挙句、欲に狂った女なのよ…?今だって欲望に感けて男の躰をむさぼり続けていたんだから。
だから…綺麗なんかじゃない…綺麗なんかじゃないんだから…憧れだなんて…言わないでよ……。
お願いだから…言わないで…――
[我に戻ると必ずと言って良いほど訪れる自己嫌悪。その反動は行為が激しければ激しいほど大きく、わたしを深く傷つける。
ナサニエルに望んだ【罰】は思いの外絶大な効果を上げて、深く深くわたしの心身を抉っていく。
しかしこの罪を認識し罰を与えられる行為は、どんなに辛くても拒むことは出来ない。]
[もし拒んでしまったら。わたしはこの町で暮らしていく事すら出来なくなってしまうだろう。
でもどんな事をしてでもそれだけは避けたかった。ここはあの人の住む町。あの人が教えて与えてくれた居場所。そんな意味深い場所を、わたしは僅かな苦しみと引き換えには手放す事はできない。]
だから…多少の苦痛は我慢して…わたし――
[性欲に塗れた膚をそぎ落としてしまいたい衝動を必死に堪えながらバスルームへと駆け込むと、わたしは力いっぱいコックを捻った。熱めのシャワー越し汚れた性器を厭きるほど洗い流して。その日は悪夢を抱えたままベッドへと潜り込んだ。診察も、家庭訪問も、残った用事も全て投げ出して。わたしはただ死んだように眠り扱けた。]
* Family Procepts - 家訓 *
[どこの家にも、なにかしら独自の決まり事や他から見れば珍奇な習慣があるものだ。
バンクロフト家では朝食や昼食は各々の住処で好きに摂ってよいものとなっていたが、夕食は母屋で家族が揃うことが望ましいとされていた。
食前の神への祈りをテレビで観た時に、あれはその家の特殊なローカルルールだと思いこんでいた。我が家では、一族の主が毛皮のベストを羽織り、蔦と樫の葉でできた冠を被る。手には松笠のついた小さな簡易杖を握り、並べられた食事の上で振った。
新鮮な生肉が手に入る時には、食卓の中央の銀の高坏に捧げ置かれ、御饌とされる。この肉だけは、他の食事とは違って必ず手か歯を使って千切らなければならなかった。
アートスクールに入り友達の家に招待された時、一向に松笠の杖が出てこないので、「あれ? 松笠は?」と聞くと皆一様に宇宙人を見るような顔でぽかんと私の方を見たものだった。それで、私は説明を諦めた。
なぜそんなことをしなければならないのか、明確な説明など聞いたことはない。紀元前のある密儀に類似性は見られるが、関連があるかまではわからなかった。]
[たとえば、我が家の書斎に並ぶゲーテ全集には『若きウェルテルの悩み』が収録された巻が抜けている。それは、娘にシャーロットと名付けられた時、私の手で書庫に片付けられた。
シャーロットがまだ幼い頃、飼い始めたばかりの猟犬が噛みついたことがある。父は躾が行き届いていなかったその犬を、猟銃を持ってどこかへ連れて行った。犬は帰ってはこなかった。
バンクロフト家で育つ子供は、十二歳まではパドルで躾られる。それ以降も成人までは、親が罰する必要があると感じた時には「罰が必要か? そうでなければ自らを罰せよ」と選択を迫るかたちで罰が科せられた。
――それが我が家だった。]
―母屋・食堂―
[シャーロットは、私がそこをあまり気に入っていないのと同様に母屋をあまり気に入ってはいない。父は孫娘を目に入れても痛くないほど可愛がっていたが、ともすれば教育や彼女の将来について口を出したがっていた。
隣の椅子に腰を降ろすシャーロットを横目に、一瞬先程の会話を思い出す。
シャーロットなら、ダンボールの中身とそれから作られるものをきっとおもしろがってくれそうな気がした。だが、“それ”に年頃の娘が興味を示すことは父親としては心穏やかでないのも確かで、私は少々困ったように微笑するばかりだった。]
『それにしても…… どうしたものか』
[心を騒がせるのは、ステラのことだった。間違っても、私の居ないところで妻と会わせる気持ちにはなれない。かといって、シャーロットとステラ、私の三人で会った時に私がおかしな振る舞いをしてボロを出したりしないとはこれまたまったく保証できなかった。まして、シャーロットは鋭いところがある。秘密はあってないようなものだとさえ思った。
後は野となれ山となれといった心境で、「できるだけ私が立ち会うよ」と彼女に約束したのだった。]
[だが、そんな事柄は些細な憂鬱にすぎなかった。
シャーロットは、次の作品制作を快諾してくれたのだ。いくつか浮かんでいるアイデアに思いを馳せると、浮き立つ気持ちを抑えることができない。
少々そぞろになっていた私の耳に、エリザの話し声は断片的にしか届いていなかった。「聞いてるの?」と咎めるような眼差しに、やっと注意を引き戻した。]
「バーサったら、飼い犬を車にはねられたかもしれないって」
[エリザは噂好きの老嬢バーサからの電話で午後にたっぷりと愚痴と町の出来事を聞かされたようだった。見知らぬ来訪者が町を訪れてもいるらしい。シャーロットやエリザの話からは、テレビクルーの姿まであったという。私はトラックが物資を運んできた後の学校での様子を話した。]
[やや耄碌している祖母はデミグラスソースのビーフシチューをスプーンで掻き混ぜながら「糞の海に兵隊は呑み込まれていくよ」とニコニコしながら呟いていて、私は頼むから食事中に汚いことは言わないでくれと頼んだ。ベトナム戦争は終わったんだ、と理解してるかどうかわからない彼女に教えながら。
「“つの”だよ」と祖母は私を見つめて言う。「角が囁いてるから、よく聞かないとねぇ」
祖母の妄言はいつものことだ。私は意味を理解することを放棄した諦め混じりの笑顔で、虚ろな相づちをうっていた。]
[だが、“角”と聞いてふと記憶が呼び覚まされる。]
そうだ、図書館にもそのうち行かないとな……
[被災してそれどころではなくなっていたのだが、図書館に送り届けなければならないものがあったことを思い出していた。
ステラ、ニーナ、ハーヴェイたちと図書館と学校の展示物や出し物についてのワークショップを開いて話をしていた時に、教育史についての書物や資料を扱ってはどうかという意見が出た。私はそれならば、と十五世紀頃から子供たちが文字を習うために用いていたアルファベット絵本の元祖、ホーンブックの提供を申し出たのだ。
母屋の屋根裏部屋、古びた櫃の中にそれは眠っていた。子供の頃に一度見たきりだったそれを記憶を頼りに探し出してみると、しかし残念ながらとても使用に耐える状態ではなかった。
私は元々そうした工芸品を自分の手で作ることは好きだったし、ホーンブックの造形に心惹かれるところがあったため複製を作ってみることにしたのだった。]
[ホーンブックは握り手のついた木の板―羽子板状というのだろうか―で、中央にはアルファベットの文字盤がついている。その文字盤は透明になるほど薄くスライスした角で保護され、それ以外の部分は革で覆われていた。
子供たちは角でできた表面に下の透けてみえるアルファベットをなぞり書くことで文字を練習することができるというものだった。
私は糸鋸で樫木の板を羽子板状に切り、水牛の角の表面を幅広の刃物で丁寧に削いだ。湯の中で、割れないようにゆっくりと、まっすぐな板状になるまで延ばす。真鍮の板にアルファベットを刻み、文字盤とした。鞣した革を張り、表には意匠と補強のため四隅にリベットを打った。
作っているうちにこの過程が楽しくなった私は、自分用にも一つ別に誂えることにした。そちらは通常のラテン文字の他にフサルクとフェニキア文字の三種のアルファベットが刻まれたものとなった。]
[そういえば、嵐が訪れる前に革を鞣す作業を手伝ってくれたハーヴェイは今はどうしていることだろう。できあがったホーンブックを見せ、礼を言えたらいいのだが。
他にも、嵐の後の雑事に追われる日々の中であまり会う時間を得られなかった友人は幾人もいた。
ぼんやりと考え事をしていた私は、すぐ近くの燭台の灯明に浮かび上がるシャーロットの横顔がほんの僅か常とは異なることに今頃のように気づいた。容色に聊かの曇りももたらすほどではなかったが、薄い皮膜のようなごく微かな倦怠がその表情を覆っているように感じられたのだ。
午睡に落ちていたのも、あるいは夜の眠りが定かではない所以ではないだろうか。考えてみれば町を襲ったのは未曾有の惨事で、心休まらぬのも無理のない話だった。だが――]
――だが、本当にそれだけだろうか。
惨事はこれで終焉を向かえたのだろうか――
[パンを千切り皿のシチューを拭う。食事を口に運ぶその眼差しはいつしか遠くへと*導かれていた*。]
―自宅にて―
[鏡台の前に座り、男はファンデーションを顔に塗り、深い色の隈を隠している。]
[書斎の床には、彼が「原色の世界」にいる間に書き散らしたメモの類が散乱している。走り書きの中には、もはや文字として成立していないものもあるのだが。
金色の光、サージェント・ペパー。
段ボールに詰め込まれ、ノーマン・ブランダーの雑貨屋から配達された紙片――LSDは、何事も無かったかのように箱の片隅でひっそりと息を潜めている。]
……っと。こんなモンか……
[鏡台の引出から、香水の瓶を取り出すと、男はそれを両手首に1つずつ掛けた。あまり大量にならぬよう、控え目に。
甘い苺の香を首筋に寄せ、それが全身に回るのをしばしその場で座って待つ。]
─ローズマリーの酒場・客室─
ンン…
[扉枠に手を付いて、ローズマリーの方に身体を傾ける。視線を合わせ、彼女の瞳を覗き込む──その更に奥底の隠されたものを貫くが如く。
笑みを刻んだ唇が、ローズマリーの顔に近付く。琥珀の瞳が蜂蜜の輝き見せて揺蕩う。]
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