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食べられるかもしれないけど――
[ぐい、とラッセルの腕を引く。
セシリアの時のような抵抗はなく
抵抗がなかったことが心苦しくもなったけど]
大人の男二人分、肉はある。
……二人なら暫くもつだろ。
[二人――ハーヴェイとローズマリーの二人。
自分は食べなくても人間より生きられるから
無意識に人数からはずし。]
[大人の男二人分――コーネリアスとギルバートだろうか。
ラッセルの腕を引くのを見つめて、首を傾げる。]
……食料は多い方がいい。
私がソレを食うとは限らないし、
私がソレに食われるのかもしれない。
どちらにせよ、それを逃がすのは賛成しないな……
[ウサギを抱き寄せる。
その腕にもあまり力は入っていないようで。
ウサギは落ち着きなく二人の間を見比べている。]
――……やめる気は、ない?
〔血と脂に塗れた器具を独りで片付ける気にはなれず、
どさりと椅子へ腰を落とす。指先に摘んだ肉片を、眩しい白色光へ透かして目を細め――〕
…真に受けてやる。
〔低く呟いて、未だ鮮血の滴る心臓の肉片を緩慢に舌の上に載せる。感染症から身を守るというギルバートの血肉――実験動物たちに人肉の味を覚えさせるわけにはいかない。自らの身で試すまでと噛み締めると、血腥さよりは甘味が勝って―思わず*溜息を漏らした*〕
……殺されてまで甘いのか。阿呆が…
[ローズマリーに向けた顔は無表情で、
相手が邪魔をしてくるかどうかをうかがいつつ]
やめる気は、ないよ。
[口元だけに笑みを出し]
誰かに賛同を求められる行動なら
[瞳は無機質で]
――セシリアの時に相談でもしてたよ。
[言い放つ。]
……そう。
[呟いて、ふと、腕の中のウサギを見る。
きょときょとしていたウサギはいつの間にかぴたりと動きを止めていて。
主が小さく名前を呼んでみても反応しない。]
……なら、何も言わない。
私は私なりの遣り方で生きるだけだ。
[ウサギを抱いて、緩慢な動作で立ち上がる。
引きずるような足取りは通路へと向けられて。]
……だけど、もし。
ハーヴェイを逃がすというのなら――
[君を殺すよ。
小さな囁きは、ひそやかに通路に反響して。]
そ、よかった。
邪魔するんなら少し乱暴したかもしれない。
[さらりと言い、ラッセルに声をかけて船を出す]
今はもう、皆各々の価値観で動いてるらしいから
ローズマリーはローズマリーの生き方をしてくれ。
[動かないうさぎに目を細め、女を見守る。
呟きには瞬き一つ]
どうかな。
でも彼には患者達がいる。
患者は彼に命運を託してるから
俺に邪魔することは出来ない。
[そう答えて、硝子板の向こうをただ*見つめ続けた*]
――……いっそあそこで邪魔をして殺された方が良かったか?
彼に勝てる気はせん。
[かつんかつんと思うようにならない足が刻む足音。
半ば転げるようにメンテナンスルームへと入る。
端末にうーくんをリンクさせると流れる、紅い文字。
――ERROR。]
……思考ルーチンのバグか?
いや――
[最後にうーくんが何を行っていたのか。
残っていたメモリをサルベージして確認して――]
……原因はナサニエル、か。
アレは……
[喰えない。
尚も紅い唇だけが、にぃ、と孤に*ゆがんだ。*]
――食堂――
〔嬉々として調理を受け持ってくれるセシリアはいない。慣れない此方が食事を用意した結果は――骨付き背肉のオーブン焼き、という如何にも原型を留めたものに。胡椒が強めに効き過ぎた其れに噛みつきながら、二人を見遣る。〕
…減ったな。
〔資源が。呟いて、指先で口元を拭う。〕
Rosemary Muller――白いあれはどうした?
〔食事の知らせを受けて姿を見せた彼女が、パートナーを連れていない様子を訝しんで尋ねる。〕
[皿の上の肉をひっくり返したり、眺めたり。
これはどっちの肉なのだろう。
問うてみても意味はないことだが。
手はつけないまま、ハーヴェイの言葉に軽く肩を竦める。]
……メンテナンス中だ。
[減った、という言葉に小さく頭を振る。]
減ったというより……
減らされた、というべきか?
[呼び出されて足は運んでみたけれど。
部屋に付いても尚、壁際に立ったまま闇を見つめて]
……そう、だな。
[減った、という言葉にも視線は変えず。]
…当ててみろ。
〔白く痩せた手が食材の検分をする様子へ、冗談でもなさそうに水を向ける。よく焼けた骨髄の端を齧り〕
そうか、…大事にしろ。後で1件分析を頼みたい。
〔声には僅かだが労いが混じる。ローズマリーが僅かに
表現を違える言葉にか、食事の手を止めて思案する〕
〔食料もなしに宇宙空間へ送り出す行為。それはただ――殺し合いを止めるためだけの意図。全滅の可能性は跳ね上がる――〕
では誰が、と尋ねる必要もないわけか。
……Nathaniel Regel.
話しても仕方のないことか?
〔食事に手をつけることもなく佇むナサニエルへと静かな問いを投げ〕
[かけられた声に目をやや伏せて、一拍の後顔をあげれば振り返る。]
3人しか、いないよ。
もう。
[目だけは真っ直ぐにハーヴェイを見て。
話しても仕方がない、には困ったような笑みだけを向けて。]
当たろうと外れようと食べてしまえば同じだ。
当てる必要もあるまい。
強いて言えば昨日君が解体作業を行っていた人物ではないか?
[肉の端に噛み付く。やや強い塩味に眉間に軽く皺を寄せる。
空腹ではあるのだが、肉を噛み千切るだけの力もない。]
……Got it.
できればあんまり難しくない仕事にしてくれ。
腹が減るのは勘弁だ。
[残りの食料は君しかいないのだから――
そんな呟きは胸中に留められて。]
……
Russel Saulには、期待していたんだがな。
〔船を降ろす役割を。緩い瞬き。〕
知っておきたいと思っている。
お前が生きて為そうとしていることと、
其処へ含まれる感慨を。
〔普段、相手の真意には余り関心を持たない。尋ねかたがわからない様子で、友人たるナサニエルへ興味の所在を伝え〕
この三人なら――ローズマリーにでも頼んでみる?
[腹が減るのは勘弁だと言った彼女をチラリと見遣り]
降りさえ出来たらご飯は食べられるし、頑張ってくれるんじゃない?
[問いのような、そうでないような。
彼の言葉には幾分か考えたような素振りで宙を見上げて――]
成そうとしていることなんてきっとない。
俺が誰かの糧になるのなら死んでもいいとさえ思ってたよ。
――でも、あいつが俺に託したから、俺は死ねない。
[腕を組み、壁に背を凭せ掛ける。]
成そうとしてることがあるとするなら。
出来るだけ多くの人間を残すこと――だったけど。
[言葉をきる]
くだらない感情が余計なことをさせたみたい。
二択だったんだが、まあ当たりだ。
…無論必要はない。
だが少々――わかるようになってしまったので、
心地を共有したかったのかもしれん。
〔食い尽くした後の肋骨を指先で摘んで持ち上げ、密かに祈りを捧げる。許しは望んでいなかったが、自然とそういう心境にもなるようで〕
済まんな。単なる組織検査だ。
〔ギルバートの体組織――結果が生前の彼の言葉と一致すればいいと思った。そしてローズマリーの瞳へ思惑の光を探す。
(*…お前の幸せが"ひとつ"のままなら、其の後は*――)〕
何時降りることができるのかはっきりするなら吝かではないがな。
この状況じゃ……
[苦労して噛み千切った肉を飲み込む。
胃が受け付けないような気はした。]
……判った。
準備ができたら呼んでくれ。
一度部屋に戻る。
[皿を手にすると席を立つ。
部屋に置いたままのウサギが心配だったから。]
ま、降りられるようになれば考えたらいい。
――その時に誰が残っているのか、誰も残ってないのかは
神様すらわからないと思うけど。
[神に制御出来る範疇ではないのだから。
そも、神なんて信じてない。]
……一口だけ、もらおうか。
[自分が撃ち殺した男の肉。
半ば儀礼的な食事。
作った者への礼儀として、奪った命の責任として。
言葉通り、一口齧って部屋に戻ると言うローズマリーに*瞬いた*]
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