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[――……浅い眠りは着信を知らせる短い電子音で妨げられて。
告げられる人物の死には嗚呼、と小さく呟いたきり。]
……食べられるモノが、食べられるようになった。
[闇の中でも確かな毛並みを柔らかく撫でて。
ただ一つ足りないものがあるとすれば熱だろうか。
手探りでポケットの中から携帯端末を引き出し。
ウサギにコネクトする。
液晶の反射板の発する灯りがぼんやりと部屋を照らして。]
――……I see.
結局皆、肉の塊。
食って良いか、いけないか。
腐るか、そうでないかの差。
[流れる文字にくすくすと笑って端末を仕舞い込む。]
……死んだフリの私は腐るもの?
〔ラッセルと意見の一致をみたところで、室内のコーネリアスを見遣る。目を細めて、くしゃりと前髪をかき混ぜ〕
ヒトらしくない、か。
〔面白くもなさそうに呟いて、緩慢な仕草で鞄から注射器を取出す。此方へ背を向けた銀の髪持つ青年へ向けて歩き出しながらナサニエルの声を聴き――〕
[部屋の前に到達。
目的があったわけではなかった。
ただなんとなく、足が向いて。]
光と闇の答えは見つかった――?
[部屋に一歩進み入り、ハーヴェイでもコーネリアスでもなく、そこに在る遺体に問いかけた。]
〔ヒトらしくない――とセシリアの声がまた脳裏を掠める。銀の髪越しに狙いを定め、コーネリアスの首筋へ針を突き刺そうとして――〕
……! …
〔部屋へ入ってきたナサニエルの声に、びくん、と目に見えて肩が跳ねた。…次いで、手にした注射器を緩慢に下ろし〕
――…
…………。
[びくりと震えた肩。
首を傾げてハーヴェイの後ろ姿を見る。]
ハーヴェイ?
[声に出した時には注射器が見えて。]
――何、してた?
〔――極彩色の室内。一度跳ねてしまった心臓は容易に落ち着かない。ゆるゆると息を吐いて〕
……人殺し。
〔未遂かなと呟きを落とし、ナサニエルへ振り返る。
手にしていた注射器は――「空」だった。〕
〔大きく息を吐いて、動揺から脱したいようにインカムのスイッチを入れる。ローズマリーへと回線を開き〕
――Rosemary Muller…
Cecilia Vaughanの端末が船内に"ない"。
調べたほうが良さそうだ。
〔事務的に伝えた後で、額を押さえ目を閉じる〕
……そう。
[咎めることもいぶかしむこともない声音。
空の注射器に目をやり、ゆるく瞬いて。]
――死神の真似事?
[静かな問いかけ。
どこまでも穏やかに。]
[ローズマリー宛の通信。
目を僅かに細め、見守って。
口は開かない。
ただ、額を押さえて目を閉じた彼の髪に手を置いて、静かに梳くだけ。]
僕が何であるか、お前は知っているはずだ。
〔問う声への応えは半ば応えで、半ば黙秘で。
梳かれた髪が解れるのへ気が至ると、薄目に睨み〕
…不快ではないが、癪だ。
お前たちの在り様は。
〔あくまで耳触り良い相手の声音に、僅かに被りを振る。死神と彼を一括りにした理由の断片を呟き〕
――……ハーヴェイはハーヴェイだ。
それ以外の何者でもない。
[あくまでその口調に棘はなく。
けれど、次に紡がれた言葉はほんの僅かに違い]
換えのきかないいのち。
[薄目に睨まれてもひるむことはなく、]
――癪だったか。
気付かなくて悪かったな。
[言って、最後に髪を掬うようにして手を引く。]
ハーヴェイはハーヴェイ、俺も一人しか居ない。
[゙達゙という言葉に首を傾げつつ。
一人でも、換えはいくらでもきくいのちに
瞳には僅かに何らかの色が含まれ。]
ああ。換えは利かん――僕の患者の命もな。
選択は今や、各々の価値観で為される。
〔ギルバートの血肉が本当に彼の言った効果を齎すのならば、実験動物たちの為に伏せておかなければならなかったが…ナサニエルの纏う雰囲気に僅か胸の内も漏れ〕
悪い? …違う。それも記憶の一部だ。
〔持ち上がる髪が彼の手指の動きに従って降りてくる。
その陰で目元をむずつかせるような気配があり〕
その通りだ、Nathaniel Regel.
だから僕、はお前、を殺して喰わないと――
〔「決めている」。口にすることが甚だ不本意そうに、だが彼の奥へ翳りゆらめくような双眸を見据えて*言い置いた*〕
そう……だな。 いいんじゃないか?
お前はお前の守りたいものを守るといい。
[各々の価値観。重きを置くものの差。
彼女を逃がしたのも自分の下した判断。
食料を逃がしたと思うやつもきっといる。]
記憶の一部……?
[反射的に聞き返した声は無理に問うようでもなく、
けれど確かに興味は惹かれて小さく首を傾げた。]
[続き紡がれた言葉には純粋に驚いたような目で見返し、すぐ取り繕うように室内の別の場所へと視線を彷徨わせた]
託されたものがなければ殺されてもいいと思ってた。
でも、今は託されたものがあるから、死ねなくなってさ。
……だから、命を取りに来る奴に容赦はしない。
[室内のそこかしこにはわせた視線を再び戻し]
……ハーヴェイを殺さずに済みそうで良かったよ。
[不本意そうな声音にくすりと*笑って*]
――Got it.
[ハーヴェイからの通信に短く答えて。
ウサギを抱き上げたまま暗い部屋を出かけて――]
……。
[一度部屋の中に戻ると、テーブルの上の首輪をポケットにいれる。]
……壊れたか、無くしたか。
うーくんトレースできる?
[きょとりと首を傾げるウサギに、こちらも首を傾げて。]
[照明を消した暗い部屋の隅にじっと蹲って]
―まだ大丈夫。空腹は感じていない。後1日は持つ―
[ギルバートを喰らう―それが何故か躊躇われて。食堂にも部屋にも行く気が起きなかった―]
[呟いて数歩歩いてから足を止める。]
――……船内に無い、といったか。
ということは必然的にセシリアの端末は外……か?
[軽い眩暈のようなものに眉間を抑える。
アーヴァインを喰っていくらかマシになっても極度の飢餓状態には変わりない。]
……端末が君みたいなのなら兎も角。
アレの端末が一人歩きするなんて話はついぞ聞いてない、な?
[軽く首を捻った後、足を脱出艇の格納スペースへと向ける。]
〔容認し合う先にある矛盾には今は言及せず、額へ当てた手を浮かせて大丈夫だと伝えるように振る。自分のように鈍感ではない筈のナサニエルを逆に案じる沈黙があって〕
記憶。…思い出と言うのかもしれん。
〔口数少なに付け加えて、手にしたままだった注射器のキャップを戻す。そんな些細な仕草で相手の動揺は見ない振りを〕
託されたもの、な。…
〔一度ギルバートの屍を見遣るも、そればかりではなかろうと朧に感じ取った紫苑の行方には口を噤む〕
殺さずに済みそう、程度にしておけ。
〔愛想の欠片もなくナサニエルへ答え、コーネリアスへと視線を向ける。今の遣り取りで自分に殺意が向けられていることを彼も気づいたのだろうから〕
――お前は、僕が守りたいものに含まれない。
〔銀の髪持つ青年の膝元へ、タブレットを放る。義務は果たしたと告げる代わりに、常の突き放したような視線で彼を見下ろした〕
……誰もアンタに守ってくれなんていってない。
[少し赤くなった瞳で緩やかに睨み付けながら]
…そもそも、誰かに守ってくれなんて頼んだ覚えなんてない。
ニコルにも代わりに死んでくれって頼んだ覚えもない!
[感情の高ぶりのままに強く声が響くか]
……みんな、勝手だ。
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