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ううん、大丈夫よ。
ギルバートさんとは大事な取引かかしら…私は深入りしないほうがよさそうだしね。
「ネリーはギルバートとナサニエルを順番に見た。
パスタと缶詰を見て少し驚く。何かのおもてなしなのだろうか。」
ギルバートさんも気をつけて下さいね。
私…じゃないけど、襲われてはいけないから。
[出会った時の「襲われた」という言葉を持ち出してギルバートに語りかける。 そのままギルバートを見送った。]
取引……?いや。特に何も。
俺は商売やってる人間じゃあ無いしな。
[ネリーがパスタと缶詰を見つめていることに気付き、パッと表情を変える。]
ああ……これか?
いや、腹減ったからメシでも……と思ったんだが……。
パスタとアンチョビとダークチェリーの缶詰じゃあ、何もできねぇよな。
――違った。
それは、シャーロットではなかった。
[指先に伝わる感触は、記憶に刻まれたそのおもてと一致しなかった。よく似たところもある。だが、彼女よりはやや年嵩の女性だ。骨格、肌の細かな水分の含有量や油分によって変化する質感、それらが正確に一致するものではないことを私の指先は感じ取っていた。
それがシャーロットではないのだ、という確信を軸に視覚を再構成する。鮮明すぎる過去の記憶が書き換えている現実を顕わにするために。
意識を集中すると、次第に像が定まっていった。ぼやけた像が明瞭になったその時、そこから姿を顕したのは――]
ナサニエルさんはこんなの…ご、ごめんなさい。
このようなのをいつも口にしてるの?
[ネリーは可笑しそうに笑う。]
そうそう、こんなの拾ったのだけど…ナサニエルさん、何か副業か持っているのかしら…?
「ネリーは名刺を取り出し、当たり障りのないように聞いた。」
俺はあんまり料理しねぇし、だいたい腹減ったらアンゼリカ行くし。面倒臭かったら食わないし。
………って、副業?
[ネリーから差し出された名刺を見て、ナサニエルは目を丸くした。
それは、自分の名刺。
"Nathaniel Oliver Mellers"と名前と、「契約」の二文字……]
ああ、これか。
これは俺のペンネームだ。
こう見えても俺は文筆活動というものをしててな。
……とは言っても、全く売れずに開店休業状態になって久しいんだが。
[封を開けたワインの瓶を、わたしは二つのグラスに交互に継ぎ足す。
一つはわたしの体内へ。もう一つは彼女の心臓へ。
そしてその行為はアルコールが尽きてしまうまで繰り返される。]
嗚呼、愛しているわ…ローズ――
[仄かに酔いが回ってきた唇で、わたしは何度目かの誓いをそっと呟く。今までのどの言葉より今が一番真実に近いだろうと、西にゆっくりと傾き始めた太陽の中で確信を*得ながら*――]
成程、アンゼリカね。ローズさんは私の3倍レパートリーがあるから羨ましいわ。
ナサニエルさん、字を書いてるのね。ただ読み書きができる私とは
大違いだわ。契約か…契約って何なの?
[興味本位という部分もあったが、その根底にあるものを聞いてみたくて尋ねた。]
「契約」………
[迂闊だった、とナサニエルは心の中で舌打ちした。この快活な娘に「契約」のことを教えたら、いつ誰に言いふらされるか……
だが、その思いを軽く外へ追いやる。自分の評判を思い出してのことだ。]
………ん?
あァ、いや。
[まるで品定めするように、ネリーの瞳を見つめた。]
………………………。
[刹那、ナサニエルの口の動きが止まり、瞳に力がこもる。
しまった、入りすぎたと一瞬頭をよぎったが、ネリーの翡翠の瞳は逸らさず、ナサニエルを見つめていた。
この目の動き、ネリーは幾度と受けている類ではあった。]
…………………ふぅん。
[メンソールの煙草を咥えたまま、ナサニエルはしばしネリーの瞳を凝視する。]
………抵抗、しないのな。
まいっか。
[咥えていた煙草を灰皿に押し当て、火を揉み消した。]
もし目の前に居る男が獰猛な「獣」なら、お前はとっくに犯されてンな。
[自分の両腕を組み、少しだけ思案する。]
それはお前の……「望み」か?
[ナサニエルが突如激しい言葉を口にしてもネリーは動じなかった。
ネリーはしばし沈黙した。その時間は次の発声をするための準備期間だからだろう。]
…いいえ。私は必要と思えば抵抗もするわ。獣が相手でも、望みでないものは。
私は…いろいろ確かめたい事があるの。
とは言え、だいたいはあなたの言っている…通りよ。
私はそれを余儀なくされる事が多くあった。
でも私はその…それを打破することはなかなかなかった。私の中にそんな気持ち…というものがあるのか、分からない部分が多くあるわ。
[同時にネリーは、ナサニエルがこの昨今、主にギルバートからどんなやりとりがあったのか、或いはどんな知識、どんな姿勢なのかを知りたいとも思った。
だがそれは、よほど気づかれずに事を運べる時以外は踏み込むまいと。]
ふぅん。そっか。
ならばいいんだけどなァ。
[ナサニエルは名刺をヒラヒラさせ、ネリーを見やった。]
まぁ、俺には他言無用な副業ってヤツならあるんだが。
……聞きたいか?
[ネリーの瞳をもう一度だけ見つめると、ナサニエルは着込んでいた白いシャツを脱ぎ捨てた。]
………俺の副業は、「天使」だ。
[そう言って、後ろを向いて両腕を肩の高さまで上げた。
肩甲骨を抉るようにラインを描いた、タイトなタンクトップを纏う背中。その背中には、一対の翼のタトゥー。ナサニエルのそれは、羽ばたく直前の翼のように、ネリーの眼前に現れたかもしれない。]
俺は、満たされぬ者の心を満たす、「天使」――
[首だけ後ろを振り向いて、ナサニエルはネリーに告げた。]
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