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ロティ――
[間もなく、陰鬱たる森林に分け入る。安置所からわずかに隔たった処にある廃屋の陰に目立たぬよう車を停めると、人の気配を伺いながら安置所へと歩みを進めた]
―安置所―
[「新しい作品?」 そう好奇心に目を輝かせて問いかけてくれた娘に、今は私は最初に作品を見せたかった。
死そのもののように冷たく厳粛な冥暗の中で、私はそこに奈落へ通じる穴が口を開けているかのように一歩一歩慎重に歩みを進める。
どれほどおぞましい深淵がそこに横たわっていても、彼女を求める歩みは小揺るぎもしなかった。
私はシャーロットがどこに居るか知っている。一度辿り着いたその場所を忘れ去ることなどありえない。
やがて、常闇の中に延ばした指先がそっと柔らかな肌に触れ――
――私は彼女を抱きすくめていた]
…ギル……
[風をさえぎっていたシャツが肌蹴られる。
あらわになった白い肌が僅かに震えた。
暖かさを求めるように腕を首に回し、自分から深いキスを送る。銀の糸が細く垂れた]
いいよ…全部……お前に……
[バンクロフト邸から─恐らくヒューバートとハーヴェイを乗せた─車の音が遠ざかると、ソフィーは客室を出て、マーティンに一言断ってバスルームを拝借した。
浴室に入ると温度調節もせずにシャワーのコックを捻る。
降り注ぐ冷水が火照った肌の表面を滑り落ちて行った。]
[シャーロットの身体を抱きしめたヒューバートは、彼女に着せたドレスが所々泥と埃に塗れ擦り切れ、真新しい鮮血が染み付いている事に気付くだろうか。
ただし、彼女自身の身体には何処にも新しい傷は見当たらない。]
[トヨペットクラウンのハンドルを握るナサニエルの口許は、先ほどの曲の歌詞を朗読するかのように小さくパクパクと開く。]
[彼には、或る望みがあった。
――恍惚を求めるが故に。]
[ナサニエルの口許が、歪んだ。]
『我々は、等しく「獣」――
己が身を焼き尽くさんと猛る程に純粋な、「思慕」の奴隷なのだ――』
[安置所の床には、何故か粉々になったガラスの破片に塗れている。
シャーロットの姿は衣服の異変に気付かなければ、ヒューバートが安置した時とそれほどの違いはなかっただろう。彼女の目蓋は眠るように閉じられたまま。]
――ロティ
[ドレスをなぞる指先が幽かな汚れに触れる。
此処でなにがあったのか知るよしもなかったが、彼女の身は少なくとも損なわれていないことに心から安堵した。]
明朝になればニーナもここへ連れてくる。
その時に新しい服を持ってくるよ。
ソフィーに仕立てを頼んでいたドレスもできあがったんだ。
君にできたら――着て欲しい。
[自分の体を這い回る手に肌は熱を持つ。
体に経験は十分にあった。しかし背中に手が触れた時だけ抵抗したのは条件反射なのだろう。
それでもギルバートの首に回した片方の手で彼の手をとり、導くように体に触れさせる。
もっと、とねだるように。そしてそれは徐々に下へと導かれた]
……ロティ。
もし、私を拒むなら――
どうか、君の腕の中で私を喰ってくれ。
私は、君が居なくて生きてゆけるわけがない。
君の居ない世界の終わりに
取り残されるくらいなら、いっそ――
――この身を捧げ、君の血となり肉となりたい。
[シャーロットが再び動き出すための力となるなら、この身を捧げても惜しくはなかった。
彼女の閉じられた瞼にそっと口吻をした。]
[ナサニエルが詞を朗読するその頃――床に蹲るネリーの耳に、音の触手が伸びた。]
Death seed blind man's greed
(死の種 無知なる者の強欲)
Poets' starving children bleed
(詩人は飢え 子供達は血を流す)
Nothing he's got he really needs
(だが 欲しいものはなにひとつ得られない)
Twenty first century schizoid man....
(21世紀のスキッツォイド・マン)
だが私を少しでも愛してくれているのなら――
どうか――
――どうか、私の元へ……
――戻ってきてくれ
[閉じられた瞼から熱い泪が零れ、頬を伝う。
そのまま、寝台に彼女の身を横たえ、重なった]
私は生きている限り、夜毎この場所に君を迎えに来るよ。
君が目を開けてくれるその日か――
――この身を君に捧げる時まで
……ハーヴェイ。
[黄金の光で満たされた瞳が、欲情に潤んで語り掛ける。
尻の丸みを、女のそれとは違う腰骨の形を慈しむように指がなぞった。]
ギルバート………
[ブルーグリーンの瞳に、艶やかな一陣の黒が走る。]
『俺は、お前の………………』
[古めかしいトヨペットクラウンは、吸い込まれるように森の中へと――]
[手は前に至り……欲望の印を柔らかく撫で擦った後、邪魔な着衣を脱がす為に立ち働いた。]
[ハーヴェイを再び抱き寄せ、覆い被さり、湿った落ち葉の散り敷かれた大地に押し倒した。]
[突如触れられた所にびくりと反応し、甘い吐息が漏れた。
潤んだ目は悔しそうにギルバートを見上げる]
……ぁ……っ!
[最後に抱かれたのは数年前とはいえ体に深く刻まれた記憶は簡単には消えない。
敏感な部分はあっさりと、いつか兄と感じていた熱を思い出し、声で知らせた。
熱を与えられるばかりで、幾分悔しいのか、ギルバートの手を導いていた自分の手が、彼の同じ箇所に触れた。
そこも自分同様に熱い。]
…ギル……これ……
[耳元で囁き、先をねだる]
[トヨペットクラウンを停め、ナサニエルは落ち葉に靴底をつけた。
頭上には、月の光――
ネリーをひとり残した自分の家の中には、今ごろ"MOONCHILD"が流れているだろうか――そんなことを考えながら、ナサニエルは歩き出す。]
Call her moonchild....
(あれは月の子)
Dancing in the shallows of a river...
(川の浅瀬で遊び)
Lonely moonchild....
(孤独な月の子)
Dreaming in the shadow of the willow....
(柳の木陰で夢を見る)
[哀しげな旋律を唇に乗せながら、かの「声」が聞こえる場所へと足を向けた。]
[ハーヴェイの触れた部分は既に硬く熱く息づいていた。
ハ…と軽く息が洩れる。
かぐわしい香りが誘うままに、首筋や鎖骨、胸にと舌を這わせながら、自らももどかしげに身を捩り衣服を脱ごうとする。]
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