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――少なくとも、記憶の持続に
興味が深く関わることは確かだ。
お前についての記録に、その言葉は足しておこう。
〔下らなくはないと言外に含ませながら、胸ポケットからボイスレコーダーを半分引き出す。マーカー代わりの信号音を入れると、また元に戻し〕
…喫煙者の10人が10人、そう言うだろうな…
ストックがなくなるまで生きていられたら考えろ。
〔此方の眼差しは、ナサニエルの其れが映す生気を測るように絶えず注がれている。手探りにラッセルやギルバートへ渡したのと同じブドウ糖のタブレットを彼に投げ渡し〕
了解した。では僕は――
自分の腕を落とすのは暫く我慢しておくとする。
記憶の持続、ね。
[自分の記録に足されているのを目線に捉えつつ]
ストックがなくなったら、そうさせてもらう。
[それも恐らくもうすぐなれど。
投げ渡されたタブレットを受け取り笑み一つで礼を返せば、紡がれた言葉に相手を見る目はいささか複雑な色を含んで]
……腕のない医師に苦痛への配慮は望めないし、
我慢出来るんならそうしてくれ。
[そう言ってタブレットを胸ポケットに*しまった*]
[ウサギを解放して後は自室を目指し、通路の幾らか広く成っているスペースでまた足を止め、良くそうしている様に――自覚があるかは不明だが、半ば癖か習慣なのかも知れず――透明な板の向こう側に広がる闇と、点在する数多の光を瞬きもせずに見詰め]
――…
[骨ばった手を透明な板に――其処に在る板に遮ら其れ以上は伸ばせないから、板に手を置いたと云った様子で――つき、暫くはそうしていたけれど俯き加減に額も板に押し当て、ゆっくりと目蓋を下ろす。
指先は開かぬ扉に爪を立てる獣の様に、透明な板を引っ掻き脇に落ちて、吐息を零す如く震える口唇は音も無く何事かを囁く]
―メンテナンスルーム→通路―
[戻りの遅いウサギを迎えにいこうと億劫そうに起き上がる。
通路へ出ると奥からぴょこぴょこと戻ってくる白い姿。]
……遅いから心配した。
何か見つけた?
[持ち歩いてる携帯端末にLINKするとギルバートとの接触記録。
将棋のプログラムをインストールされた形跡。]
将棋を覚えたのか。良かった。
後で遊ぼう?
[ウサギは一つ首肯。
ホログラムの盤面を展開しようとするのを指先で留めて。]
後で、といった。……ところで崩し将棋とは何だ?
[記録に残るギルバートからの伝言に少し首を傾げる。]
……まぁいい。それにしても。
[携帯端末をポケットに仕舞いこみ、ウサギを抱き上げる。
ふわふわした毛並みに顔を埋めながら]
見つけるのがコレとは。
コレを食えとでもいうのか君は。
[別にウサギが見つけてきたわけではないけれど。
軽くウサギの鼻先をつついて。]
素体分析にでもかけてみるか?
食えるか食えんかくらいは判別できるかもしれん。
[ギルバートを捕食する様でも想像したのか。
堪えきれないように笑みが漏れ。]
……ナンセンスだがな。暇つぶしにはいい。
[ラッセルの問いかけにチラりと視線を投げ]
どうかな?
食べたことないからわからない。
[真面目に答えてはみたらしく]
確実に不味そうだけど。
―自室―
[無重力状態の室内でゆっくりと目蓋を持ち上げ、確認するかの様に目線の高さに骨ばった手を掲げ、握って開いてを幾度か繰り返す。
包まっていた錆鼠色のブランケットをベットの方へ放り、伸ばした手は臙脂色の椅子の背を掴み、無重力状態の中で腰掛ける]
闇、か。
[微かな呟きと共に喉を逸らし、何かを探す様に思案気に――意思疎通の困難らしき同僚の問いに対し、紡ぐ言の葉を探して居るらしい――照明の光を見詰め緩やかに首を傾けると、褐色の髪が揺れ広がり緋色の煌きを零す]
―通路→食堂―
[最早食べるものも食べる人も無い食堂で。
テーブルの上にウサギを乗せるとその横で頬杖を付く。
ウサギは忙しなく毛繕いでもする真似をしている。
こつこつと長い指先がテーブルの表面を弾いて不規則なリズムを刻み。]
My mother has killed me.
My father is eating me.
My brothers and sisters sit under the table
Picking up my borns.
And they bury them under the cold marble stones.
[やがてぴたりと毛繕いをやめたウサギがLINKさせてる端末に
将棋の盤面を出すのに瞬いて。]
……辛気臭い歌はやめろって話?
[薄い笑みをウサギに向けてもきょとりと首を傾げるだけで。]
>>重力室
[染み付いた煙草のかおりも無重力の中では気にするものではなくて、それよりも気になったのはデータとして上がってくる、軽く絶望を通り越した内容ばかり]
…機械だったら空腹なんて関係ないのにねぇ。
[ため息と共に馬の尾のような髪を指先で払えばその勢いで中指の細いリングが抜けて宙を漂う。
音なく壁に当たったそれを広いながらふと、けれどしみじみと*呟いた*]
…こんなに痩せちゃったんだ。俺。
〔囁くような女性の唄声が、がらんとした食堂に響いていた。来合わせた此方はその音色が途切れるまで入口に佇み、やがてローズマリーとその連れの元へ歩み寄る。〕
状況に即した選曲だと思うが。
〔感想を呟いて、ローズマリーの唇を見遣る。引かれたルージュの所為で本来の色味は見て取れず――見下ろす視線を彼女の瞳へあて〕
――済まんな。会議中だったろうか。
〔微塵もそうは思っていない声音で口を開くと、医療キットの入ったアタッシュケースを椅子のひとつに乗せた〕
確かに。
[肩をすくめて同意し、ふいに変わった話題には]
またどこかで届かないラブレターでも書いてるかもしれないけど
中核部か、ギルの所か、通路のどこかとか?
[喫煙スペースではない"喫煙所"のことらしく。]
コーネの部屋は知らないし。
[急かすように並べられる駒に肩を竦める。
こちらはまだルールも理解していないというのに。]
……似たようなもの。
[向けられる視線にゆっくりと瞬いて。]
私の話す相手は大半がうーくんだし。
それを会議というなら常に会議中だ。
[動かされる駒を追いながら首を傾げて。]
――……誰か殺して食べる?
…では、少しの間三者会談とさせて貰おう。
程度の差こそあれ、皆電気信号で
動いていることに変わりはない。
〔東洋のボードゲームよりは、うさぎを模したロボットに興味を示してちらと見遣る。うーくんと呼習わされるらしきは聞き及んでいるのか、取立てて尋ねることもせず〕
…
おそらくそうなる。
死なん程度に切り取って喰う、では間が持たん。
〔そうする、ではなくそうなる、と。〕
[会談の席に混ざった男に興味を示したように、
本物のウサギとは唯一違う黒いガラスのような目がそちらを捉えて。
ぴょこぴょこと寄るのはとめないまま。]
何とも素敵な極論。
私とうーくんが同じモノなら幸せだ。
[頬杖をついたまま、盤面を放棄しているウサギを視線だけで追い。]
切り取って食うのは勘弁してほしい。
後の生活が面倒だ。
……ああ。
私を食べるときは痛くないようにしっかり殺してから食べてくれ。
[何処まで本気かわからない、相変わらずの笑みを貼り付けたまま。]
遊戯盤を何になぞらえて呈したのか
――訊きたいところだが。
〔近づく仕草に、重心がどうなっているのかと手を伸ばしかけるも留め――黒々とした眼に問い掛ける。それは観察するためのレンズに過ぎないのかもしれないが〕
この生きものは、お前が診る。
僕は僕に理解できる生きものを診る。
それで十分だ、Rosemary Muller.
〔うさぎが此方へ寄ってどうするかは知らず…座したローズマリーの細い肢体を眺め遣る。卓へ置いたアタッシュケースへ肩肘をかけて溜息をつき〕
…同感だ。希望は記録して記憶しよう。
薬は使ってやれんが…善処はする。
逆に僕を喰うときは、――そうだな…
…まずい、とは言われたくないな。
その程度だ。
〔微かに目を眇めて、白磁の頬へ笑みを浮かべるローズマリーを見詰める。一度言葉を切って暫し思案を置いた後に、緩く被りを振り〕
――ああ、否…
その時は…僕の"声"を、これにやってくれ。
〔胸ポケットのボイスレコーダーを少し引き出して見せながら、うーくんを視線で示して*告げた*〕
―通路―
[人工的な照明の光を見続けていたが、緩やかに瞬き傍らを漂う重力装置のスイッチへと手を伸ばして、無重力状態を解除し身支度を整え部屋を出る。
音の無い常の夢遊病者の如き足取りで通路を進み、話し声――離れているのか内容までは聞き取れない――と複数らしき人の気配に歩みを止め、確認する様に周囲を見回すも、未だ近くに人の姿は見当たらず緩やかに瞬く]
あと、八人。
[小さく呟き思案気に首を傾けた]
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