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[ややあって、感情の昂ぶりが治まった私は安置所の錠を下ろし、コードヴァンの靴底を穿って作った隠し場所に鍵を滑り込ませた。
安置所の扉が目に入る灌木の陰に隠れるように寝袋を敷くと、身を横たえる。
真夜中の墓所。そして、安置所。
おどろおどろしくも凄絶な古い記憶を嫌がおうにも思い出す。
あの時見た光景――]
ミッキー……
[鮮血を噴水のように迸らせる脂肪に鎧われたぶよぶよとした肉塊を――軽々と抱き上げていたのは――]
……ぁあ……ナッシュ……
教えて欲しいんだ……
あの時……
……俺た……ち……は……
[このような場所で眠りにつくなら、せめて悪夢は見ないように――
意識を別のものへと向ける努力も虚しく、私の意識は幽冥の奥底へと堕ちていった]
――――――
遠くでなにかの音楽が鳴っている。回転数をひどく遅く設定してあるレコードプレイヤーにかけられているかのように、どんよりとした唸りとして響いてくる。
「ぁん…… …ぃい…… …気持ちいい」
耳に絡みつくような嬌声と、ぬぷっ、ぐちゅっと粘り気のある水音が断続的に響く。平静な時は玲瓏とした佇まいもありながら、感情が入れば少し高く甘い響きを帯びるその声音はひどく聞き覚えがあった。
忘れるわけがない。それは――
「シャロ、素敵だよ。ほら、先生にもっと――」
聴かせてあげなよ、と語尾は笑い声に包まれた。
「ハァアアァアヴ!!!」
私は喉が裂けるほどに叫び、螺旋階段を滑り降りていた。
シャーロットの語尾の【et】の音が舌足らずに掻き消える特徴的な発音は、間違いなく彼の――友愛の情を信じて疑わなかった愛弟子のものだった。
階下の作業場に降り立った私の眼前には、信じられない光景があった。
透明アクリルの作業台の上で、ハーヴェイがシャーロットを後ろから抱きかかえた背面座位の姿勢で交わっている。
シャーロットの両足はハーヴェイによって抱え上げられ、シャーロットの陰部を開陳させるかのように曝け出させていた。綺麗にそり上げられ陰一つないヴィーナスの丘はハーヴェイのしなやかな屹立に蹂躙されている。
勢いよい彼の突き込みに儚い花片は歪むほどに押しこまれては引き出され、しとどに濡れそぼった秘唇はぬらぬらとハーヴェイのファロスに纏い付く。
「……あんっ! ああっ…」
シャーロットが怺えきれないように短い叫びを上げた。
作業台の下には業務用の大型の鏡が横たえられ、交わりのその様を真下からまざまざと見せつけていた。おぞましいほどに淫らな光景に、グラグラと視界が揺れた。
「やめろ! なにをしているんだ、二人とも――」
邪気のない表情が答える。
「俺、先生のこと、尊敬してるんです。恩師の“知ってること”はなんでも知っておきたいって思って――」
“知ってること”だって? 思わずその言葉に胃が収縮しヒリつく。
「これって、愛――ですかね」ハーヴェイはいつもするように、きょとんとしたような表情を作り――それはすぐに天使のような笑顔に綻んだ。
「知ってるんですよ。先生が時々、この台の上でシャロにポーズをとらせていること」
やめろ、やめろ!と叫びが囂々と頭蓋に反響する。
そしてこれも――とハーヴェイは腰を突き入れる。
「――先生のしてることですよね」
声にならない叫び声に、私は身を波打たせた。
「ロティ、何をしているんだ。やめないか!」
彼女はハーヴェイに抗うどころか瞳は夢を見るように彷徨い、半開きになった口元から雫を滴らせながら妖艶な笑みを浮かべていた。
「パパぁ、つらいでしょ? 苦しいでしょ?」
あたりまえだ、もうやめてくれ、と懇願の叫びが迸る。
「でも、パパはこの苦しみからこそいいものを作ってくれるわ。それがとっても――」
気持ちいいの、とその言葉を聞き終えるまでもなく私は台の上に飛び乗り、二人を引き倒していた。
――ああ……なぜこのようなことになったのだろう。
決して交わりを止めぬ二人に怒り狂った私は、シャーロットを後背位で犯すハーヴェイの薄い臀部を割り開き、怒張を突き入れていた。
「先生、きつ! ぁあぁ……っ」
激しい抽送を繰り返し、ハーヴェイの首筋に歯を立てる。彼の唇は戦慄に震え、熱い吐息が零れた。荒々しい呼吸音が周囲に響く。
奇妙なことに、シャーロットの姿は掻き消えていた。床に横たえられた鏡には、苦悶と快楽に眉を寄せ激しく身を波打たせているハーヴェイの姿がありありと映し出されていた。
その時、不意に唸りとなって響いていた楽曲が鮮明に耳に届いた。
高らかなファンファーレが鳴り響く。――『断頭台への行進』
鏡に映されたハーヴェイは実体となり、今やハーヴェイは私に刺し貫かれながら自分自身と交わっていた。否、それは――
『ユーインなのか?』
ティンパニーの連打が聞こえる。
私が犯しているのがハーヴェイであることを確認するかのように、背中の疵痕に爪を立てた。
「ひぁあっ!」
ハーヴェイは鋭く叫んだ。
足下がじっとりと粘り気の帯びた液に浸されている。気がつけば赤黒い色彩に周囲は染まっていた。
私が傷つけたのだろうか? そうではなかった。
ハーヴェイが突き上げるたびに、ユーインの下腹部が裂け、赤黒い血糊と共に内臓が零れ落ちる。ハーヴェイはユーインのすべてを味わいつくすように体内に手を差し入れ、内臓を引き出してはこねくり回していた。クラリネットが音色を奏でていた。
私はおぞましさに半狂乱になって腰を突き上げる。そうすることが、早くこの地獄から逃れるすべであるかのように。
幾度も繰り返された抽送に、引き出され高まりを目指す悦楽。哮る情欲のままに疵痕を引き裂いた刹那、彼は首筋を仰け反らせた。
「ああっ! 先生――」
彼の内腿がブルブルと震え、絶頂に達すると同時に――
天蓋から落下した鋭利な硝子板が重なる双子の頸を両断していた。
ハーヴェイとユーインの首は絡まりながらコロコロと台から転がり落ちる。弦のピチカートがバウンドする音に重なりながら。もうどちらがどちらかわからない。
「あーあ。首だけになっちゃった」
二つの首の発する声はステレオのように重なり唱和し、
「残った躰は綺麗に食べてくださいよ、先生?」
クスクスと嗤い声が粘りつくように耳の奥に残った。
――――
―安置所脇―
うぁああああぁ!!!
[叫びと共に、私は目を醒ましていた。
酷く生々しくもおぞましい、悪夢だった。
私の無意識が夢の中でギルバートの行為に同調していたことなど知る由もなかった。そのような夢を見たのは、安置所のすぐ側だったせいだろうか。それとも、シャーロットとの罪深い情交の後だった所以だろうか。
ただ、ハーヴェイが既にこの世に居ないことだけは直感的に感じ取っていた]
ハーヴ……
俺は君に……
[伝えたいことを伝える相手は既にいない。
悔悟の嘆きは言葉にならなかった。
閉じられた瞼が震え、一滴の哀しみが頬を伝い流れ落ちた]
[主がさったバンクロフト家の客室の卓上、1枚のメモがおいてある。
─ヒューバート先生─
─これを先生が読む頃、俺は多分、この世に居ないかもしれない。長くは書けないけども、もしこのメモを読むことがあったらどうか俺の頼みを聞いてください。
俺の家の部屋の引き出しの中、一冊の日記帳があります。
それをどうか俺と一緒に埋めてもらいたいのです。
俺の…幸せだった記憶。
ずっと大事にしていたいものだから。
先生、俺はいつまでも先生を尊敬しています。
どうか、お元気で。ありがとう
ハーヴェイ・ドナヒュー
文字は余程苦しんで書いたものなのだろうか
字は所々歪み、涙の痕のようなものすら認められる。
事実、人狼の血に消えかけていた意識をかき集めて書き記したものだったのだろう。
後日、発見されたであろう日記は一見他愛のないものだったのかもしれない。
そこには両親からの虐待や兄との近親相姦についても何も記されていなかった。
初めてヒューバートの所に訪れたこと
褒められたことが恥ずかしかったがとても嬉しかったこと
そこで出合った4歳年下の少女にほんの少しだけ恋心を持っていたこと
ハイスクールで美術展覧会で初めて賞を取ったこと
大学に合格した時のこと
祝いにヒューバートと叔父から大好きだった画集を貰ったこと
他人にはとりとめもないことばかりだったのかもしれない。
ただそこに記されていた全てのことは愛情を知ることができなかった青年が、大切にしていた思い出だった
そしてメモと一緒に形見のように置かれていたピアス。
片時も肌から離さなかったアレキサンドライト。
青年が恩師に残せるものはそれだけだった。
しかし、自分と恩師、そしてその愛娘と過ごした時間を全て知っているのもこのピアスだけ。
主人の肌から離れたピアスは、ただ終焉の時の到来を悲しむような青緑色の光を放っていた──*]
[ローズマリーの遺体を次に発見したのは、アンジェリカの二階に電燈が灯ったままなのにも関わらず、「CLOSED」の看板がいつまでも変化しない事を不審に思った常連客だった。
彼は、かつてローズマリーに合鍵を貰っていた<間柄>だったが、ボブ・ダンソックがアンジェリカに演奏に入るようになってから足が遠のいていた。小学生になる彼の息子が、彼が「仕事で外泊をした夜」に熱を出したのが切っ掛けだったかもしれない。
心臓を抜き取られたローズマリーの遺体を発見し、彼が帰宅すると息子が彼の奇妙にこわばった青い顔を見ただけで泣き出した。息子の泣声に何事かを案じる妻に、彼は酒場の女主人が殺されていた事を「山崩れに関して奇妙な噂を聞いたので、他にも噂が無いかあの店の常連客に聞きたかったんだ。バンクロフトさんにも来ているかもしれないと思ってね。」と後ろめたさに言い訳を添えて説明した。]
[ 「山崩れが災害を利用して人為的に起こされたものかもしれない。」
「山道の封鎖前に山道で作業をしている奇妙な救助員が居た。」
「実は町の人間が牧師に手を出したのでは無い──。彼は目撃者なのだ。」
と、と言う噂があったのは本当だった。
さらに、山崩れが引き起こされたのは、「凶悪な指名手配犯がヘイヴンに紛れ込んでしまったので彼を逮捕するため」と言うのがもう一つの噂だったが、彼にはそちらは的外れな噂に思えた。仮に本当に凶悪犯がヘイヴンに紛れ込んだのだとしても、連邦捜査局が町ひとつを巻き込んでそこまでの事をするだろうか。何処かの秘密結社でもなし、テレビドラマや映画の様な事がある訳が無い。それに、彼が把握している限り、今、ヘイヴンのこちら側に要る部外者は、ヒッチハイクで現れたあの若者だけだった。]
[彼はかつて愛人関係にあったローズマリーの遺体だけを、安置所へ早く運びたかった。遺体運搬に家の車を使う事について妻の了承を得る為に帰宅したのだが、目の前の息子は「それなら、ステラ先生が心配だ」と言って彼女の家に行くと言って聞かなくなってしまった。
「ステラ先生とはつい最近、道でお会いしたじゃないか。ちゃんとお元気そうな様子だっただろう?」
と言い聞かせようとしても、息子はイヤイヤをして首を横に振るばかりで、頑として譲らない。
確かに「黒い犬達」は始末されたらしいが、最近、山に「野犬」が出たと言う話も聞く。ゾッとしない事がこのヘイヴンで連続して起きているのは彼にも感じられていたし、息子も同様なのだろう。
彼は後部座席に彼女の部屋にあった真新しいシーツで包んだローズマリーの遺体、助手席には息子を乗せ、ステラの自宅に向かう事になる。彼と彼の息子が、冷蔵庫のローズマリーの心臓に気付く事が無かったのは幸いだったかもしれない。ただ、彼等は心臓にかわり、毒殺されたステラの変わり果てた姿、白く清純な肌に刻まれた複数の入墨を目撃してしまうのだが…──。]
──墓地(ヒューバートが訪れる以前の夜中)──
[うっすらと甘いステラの香水のラストノートが残る車の中、後部座席の二人の女性の遺体を無事送り届ける事が出来て、彼は安堵している。
流石にあのユージーンの顔にも疲労が滲んでいたなと思う。
連日の作業に加えて、昨日、安置所近くまで侵入者があったらしい。
「死人に未練を持った遺族の誰かかい?」
驚いた彼が聞くと、ユージーンは「いや、それなら理屈は分かるんだが──」と言葉を濁した。詳しく聞くと、侵入者はヘイヴンの人間ではなかったのだと言う。しかも、見回りに来たユージーンに捕えられると、監視小屋に鎖で繋いだ瞬間、何かを恐れるように、歯の奥に仕込んであったらしき毒物を服用して何もしゃべらずに死んだと…。
彼はユージーンの話と、例のFBIの噂は符合するのでは──と少し考えたが、その場では口にはしなかった。アーヴァインは既に帰らぬ人となっている。明日あたり、ヒューバート・バンクロフトに声を掛けて、小規模の会合を呼びかけるべきなのかもしれないと考えた。]
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