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── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
あなたは、何処かに還りたいのですか?
[けれども、問いながらも感じる違和感──。
バスの外で、その時、澄んだ美しい音を奏で88の鍵盤が呆気なく崩壊した。音楽が途切れ、沈黙がおちる。セシリアは窓の外を見遣り、瞬きをする。]
【もうすぐ、この場所も崩壊する】【おそらく】
[輪廻] [愛] [結合] [命が爆ぜる]
[Morganの 真実の終焉を望んだ 魂が 行く場所は──]
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
【本当は、私は──】
【PGMに制御/支配されない──かつて人間だった私は】
【Masterも、Morganも 生きていて欲しい と願っている。】
【けれども、A girlが、名もなき市民のかりそめの死を悼むように、私はその感情が絶対不可侵の己自身である事を確信する事等、出来ない。
PGMと人格が衝突する事の無い、平凡な人間である彼女が羨ましい。マインドコントロール等を受けた事も無く、断絶の後、再生される事も無い(バックアップの無い)下層民である彼女に──羨望か。】
[しばらくの間をおいて口を開く]
つまり、俺にあの“手紙”を送って寄越したのも、アンタだ、と。
そして、その言葉――『今回の計画』という事は。
全体の企図を明かすつもりになったと考えて良いのかな。
[もはや殆どの対象物(オブジェクト)が消滅した空間に、
"Blue Water"からの検疫結果を表示した]
【01/Conductor】 ――positive.
【07/mortal】 ――positive.
"Ο ν ε ι ρ ο ς (オネイロス)"を俺に組み込んだ理由も?
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
「俺が犯人だよ――。」
[ヴィンセントの言葉にセシリアは笑いを止める。]
…貴方が犯人ならば、A girlの魂を奪って欲しかった。
永遠に──。私の前に二度とあの眩しい姿を現す事が無いように。
そもそも、犯人の意味が分からないわ。
アンドリュー・マーシュの娘の魂を奪った犯人なのか。この手紙を出した主なのか、あなたがAlchemistなのか。
それとも──また別の…
[セシリアは、睫毛を伏せ、首を横に振った。眼球が濡れている。]
貴方の事が知りたいと言った事は変わらない。
でも、ごめんなさい。
私は、このバスの中に満ちている“もの”に耐えられそうに無い──
もしあなたがボクの事を知っているなら分かる筈だ。
舞台を整え、結実する果実をもぐ浅ましき役柄を。
農夫であり観察者である事を。
破壊(タナトス)と創造(エロス)の天秤を揺らす者である事を。
[双眸を閉じ高々と]
ボクにとっては『計画』の全体像こそが主眼。
問うテーマは何だって良い。
ボク個人の欲求と欲望と計画はあれど焦ってはいない。
もたらされる再度/過去の世界に興味はあれども。
[黒/灰青の眸が男を貫く]
だがあなたは現世におき有限の存在となり果てた。
── 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ──
…滅びればいい。
すべての感傷(センチメンタル)
すべてのうつくしき悪夢──
[Morganの断片はすでに飛散してそこには無く]
[グラリ][センチメンタルを乗せたバスが、空間の崩壊に車輪を落として傾く]
[バスの横転に合わせて。
セシリアの腕が、後ろからヴィンセントの首に回される。
しろく細い指先は、現実のヴィンセントと僅差無いアバターの気管、頸動脈を引き絞る。ヴィンセントがその指先から逃れようとするのか、セシリアに何か言葉を返すのか──。]
Masterも…あなたも 大嫌い。
──人形なんて、つくらなければいいのにッ
[AIではなく、まるでただの思春期の少女のように、縋り泣き叫ぶ、セシリアの髪色は、白色ではなく淡いライトブラウン。涙で濡れた瞳の色もまた──。ゴーストになる前にスクールから盗みだされ、死んだ少女の姿に変化している。
ヴィンセントがその姿の変容に気付く事が出来るのか。]
【絶対に許せない。】
【誰も許さない 私がこうやって存在している事も──】
【ゆるさない】
[バスの内部は、何時の間にか蜘蛛の巣が張ったように、無数の漆黒の正╋字の群れ] [黒][黒][黒] [無機質な漆黒000000が、感傷を──破壊する。]
[バスは真っ二つに裂け、砕け──乗り込んでいたキャスト達が、こぼれ落ちるように空間の裂け目から──センチメンタルとは言い難い旅(ジャーニー)へ向かう。]
───…
[黒十字に縛られた仲良く座席に座ったまま墜ちていく 双子の少女たちは、何処へ辿り着くのか。崩壊した世界の光線はF/あるいは絶対零度の無機質なブルー。]
[冷たい光の中、すべてのセンチメンタルが飛散した事を確認してから、セシリアは、ヴィンセントの背に回した腕に握った「┣」「┫」の形、両手を交差させ、合わせれば正╋字を成す大槌を──ヴィンセントに強く、強く突き立てた。]
──さようなら。
ヴィンセント・キャロ。
[ヴィンセントの活動が完全に停止した事を確認してから、セシリアは╋字を引き抜く。そして、解散させられたキャスト達とも、ヴィンセントとも違う場所──何処かの空白地帯へ。
セシリア自身も漂流し墜ちて行く──。
天とおぼしきオブジェクト不在の空間に、"Blue Water"からの検疫結果が、*光って見えた*。【01/Conductor】 ――positive. 【07/mortal】 ――positive.]
― 理想郷<Utopia>/Closed:Morgan's Space - 車内 ─
[Under領域に存在していた遊園地はタイムアウトによってサスペンドモードへと移行しClosed領域へと退避しつつあった。バスの中に乗り込んでいたキャストたちは活動を停止し、虚ろな身をシートに横たえている。
――炎天下の夢――
バスの中に夏の名残の熱を感じる。
芝生の上を転がる白球を追い、駈ける――
それはきっと、俺の記憶ではない。気候がコントロールされ、また空調の行き届いた都市では、“季節”を強く感じる時はない。俺の意識がどこかで、遠い誰かの失われた夢へと繋がっているのだ。]
還りたい――……? どうだろうな……。
[セシリアの言葉を反芻する。俺はただ光に焦がれ、手を伸ばす。その強い熱を追い求めてきただけなのだ。
だがそれは、遠い日に己の中にも強く存在した光の明滅を甦らせたかったからなのかもしれない。]
――今はね。
[そう呟いた。
夢に誘われている。
話をしているのだから、意識をはっきりさせておきたいと思う。けれど、ひどく眠い。意識が蝕まれている。――夢の中へと。
霞みのように幻が浮かび上がっては、知覚している現実を薄い膜で覆っていく。]
[話をしていたセシリアが睫毛を震わせる。眦に涙が浮かぶ。
感傷は滅びればいいという。俺はその言葉に寂しく微笑む。]
「人形なんて、つくらなければいい――」
[涙に暮れる少女を俺はなんとか力づけたいと思う。彼女の背中に手をまわし、しっかりと抱きしめる。
世を儚んじゃいけねえよ。お前の中にはキラキラのピカピカがいっぱい詰まっている。俺にはそれがわかる。きっと信じてみなって――。
けれど、それを口にできたかはわからない。白い光が繭のように心を包んで、どこか遠くへ奪い去ろうとしている。ふわりと遊離した感覚に全身が持ち上がる。
言葉になったとしても、その光はセシリアが求めていないものなのかもしれない。彼女のMasterが集めた光……。
セシリアの心に俺の声は届かない。
強い熱が深々と突き立てられ、内側からいっぱいに広がってゆく。
やがて、俺の意識は消失した――**。]
──Mundane/中央部・あるビルの一室──
[瞼の裏で踊るような光。目を覚ますと、好転が一つ、消えていくところだった。否、記録画像が繰り返し流れているだけで、それはつまり過去を示す。
時刻を確認すると、眠っていた時間はほんの数分だったらしい]
光点が、5つになってる。
[地図をみて、そして記録画像へと視線を移し、光点をポイントする。番号は、12。近くにある光点の数字を確認して、自嘲気味に笑みを浮かべた]
おじさんも、いなくなったんだ。あたしがあそこで、死の乙女を停めていたら、おじさんは助かったのかな。
──ううん。それはない。あの時点で突っ込んでも、自滅しただけだし。
おじさんが、彼女を壊そうとしたのかもしれないし。
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