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[――君を殺すよ]
[動かなくなった白い毛並みを持つ機械を抱いた女が立ち上がり通路へ向かうのに、揺らぐ姿は刹那消え失せるも同じ処に立ち透明な板の向こう側を見続けるもあり、けれど同時にもう一つの姿は消えては現れコマ送りに女の後を追い、メンテナンスルームで動かなくなった白い毛並みを持つ機械を前に作業する女の傍らにも立つ]
[――喰えない]
彼は――…ヒューマノイド…
[届ける気の無い確認の為の如き小さな呟きを零し、弧に歪む女の口許を見詰めまた姿は揺れた]
[同じ頃に眼球を預けた男の傍らで同じ様に透明な板の向こう側を見詰め続け]
黒は――…安息の死を齎す死神の色?
[零される問い掛けは誰に投げた訳でも無い口振りで、何も映し込まぬ漆黒の眼差しは依然、脱出ポッドの飛び立った透明な板の向こう側に注がれていた]
[皿の上の肉をひっくり返したり、眺めたり。
これはどっちの肉なのだろう。
問うてみても意味はないことだが。
手はつけないまま、ハーヴェイの言葉に軽く肩を竦める。]
……メンテナンス中だ。
[減った、という言葉に小さく頭を振る。]
減ったというより……
減らされた、というべきか?
[呼び出されて足は運んでみたけれど。
部屋に付いても尚、壁際に立ったまま闇を見つめて]
……そう、だな。
[減った、という言葉にも視線は変えず。]
…当ててみろ。
〔白く痩せた手が食材の検分をする様子へ、冗談でもなさそうに水を向ける。よく焼けた骨髄の端を齧り〕
そうか、…大事にしろ。後で1件分析を頼みたい。
〔声には僅かだが労いが混じる。ローズマリーが僅かに
表現を違える言葉にか、食事の手を止めて思案する〕
〔食料もなしに宇宙空間へ送り出す行為。それはただ――殺し合いを止めるためだけの意図。全滅の可能性は跳ね上がる――〕
では誰が、と尋ねる必要もないわけか。
……Nathaniel Regel.
話しても仕方のないことか?
〔食事に手をつけることもなく佇むナサニエルへと静かな問いを投げ〕
[かけられた声に目をやや伏せて、一拍の後顔をあげれば振り返る。]
3人しか、いないよ。
もう。
[目だけは真っ直ぐにハーヴェイを見て。
話しても仕方がない、には困ったような笑みだけを向けて。]
当たろうと外れようと食べてしまえば同じだ。
当てる必要もあるまい。
強いて言えば昨日君が解体作業を行っていた人物ではないか?
[肉の端に噛み付く。やや強い塩味に眉間に軽く皺を寄せる。
空腹ではあるのだが、肉を噛み千切るだけの力もない。]
……Got it.
できればあんまり難しくない仕事にしてくれ。
腹が減るのは勘弁だ。
[残りの食料は君しかいないのだから――
そんな呟きは胸中に留められて。]
……
Russel Saulには、期待していたんだがな。
〔船を降ろす役割を。緩い瞬き。〕
知っておきたいと思っている。
お前が生きて為そうとしていることと、
其処へ含まれる感慨を。
〔普段、相手の真意には余り関心を持たない。尋ねかたがわからない様子で、友人たるナサニエルへ興味の所在を伝え〕
この三人なら――ローズマリーにでも頼んでみる?
[腹が減るのは勘弁だと言った彼女をチラリと見遣り]
降りさえ出来たらご飯は食べられるし、頑張ってくれるんじゃない?
[問いのような、そうでないような。
彼の言葉には幾分か考えたような素振りで宙を見上げて――]
成そうとしていることなんてきっとない。
俺が誰かの糧になるのなら死んでもいいとさえ思ってたよ。
――でも、あいつが俺に託したから、俺は死ねない。
[腕を組み、壁に背を凭せ掛ける。]
成そうとしてることがあるとするなら。
出来るだけ多くの人間を残すこと――だったけど。
[言葉をきる]
くだらない感情が余計なことをさせたみたい。
二択だったんだが、まあ当たりだ。
…無論必要はない。
だが少々――わかるようになってしまったので、
心地を共有したかったのかもしれん。
〔食い尽くした後の肋骨を指先で摘んで持ち上げ、密かに祈りを捧げる。許しは望んでいなかったが、自然とそういう心境にもなるようで〕
済まんな。単なる組織検査だ。
〔ギルバートの体組織――結果が生前の彼の言葉と一致すればいいと思った。そしてローズマリーの瞳へ思惑の光を探す。
(*…お前の幸せが"ひとつ"のままなら、其の後は*――)〕
何時降りることができるのかはっきりするなら吝かではないがな。
この状況じゃ……
[苦労して噛み千切った肉を飲み込む。
胃が受け付けないような気はした。]
……判った。
準備ができたら呼んでくれ。
一度部屋に戻る。
[皿を手にすると席を立つ。
部屋に置いたままのウサギが心配だったから。]
ま、降りられるようになれば考えたらいい。
――その時に誰が残っているのか、誰も残ってないのかは
神様すらわからないと思うけど。
[神に制御出来る範疇ではないのだから。
そも、神なんて信じてない。]
……一口だけ、もらおうか。
[自分が撃ち殺した男の肉。
半ば儀礼的な食事。
作った者への礼儀として、奪った命の責任として。
言葉通り、一口齧って部屋に戻ると言うローズマリーに*瞬いた*]
[食堂で食事を摂る者達の傍らで会話を聴いているのか、卓上に乗せられた調理済みの骨付き肉を黙って見詰め、白衣の男が分析を頼むらしき言葉に姿は揺らぐ]
君の求める結果が得られるかは判らない。
けれど――…
[消えては現れる姿はゆっくりと白衣の男へ向き]
目に見えるものが全てでは無い。
救援船とドッキングできる機会もあるかもしれん。
…可能性を持つ者が諦観しているようでは困るな。
〔二人の遣り取りに浅く眉を寄せる。見込みすらないなら操船要員を"喰い残す"意味もないのかもしれない。〕
誰かの糧、か。
〔ナサニエルの言葉に、コーネリアスの最期が脳裏を過ぎる。あの時代の遺物が火を噴いたとき、この友人はああ見えて激していたのではなかったか――〕
下らないとは思わん。
…僕よりはずっとましだ。
理性と野性の両立を望んで、果たせずに居る――
〔生体実験室のケージを破って、実験動物たちを直に抱き締めてやりたい――ここ数年ずっと抱いていた願望。ギルバートの血肉を得た今、それは可能なのだが〕
…糧にもなれない無念というのはあるんだろうかな。
〔卓を挟んでコーネリアスを齧るナサニエルへ尋ねるともなく呟く。――図らずも、同じ葛藤を抱えているのかもしれず〕
――自室――
〔物が極端に少ない、生活感の薄い室内。〕
〔デスク上には、採取した体組織を収めたサンプル容器。
それから、大量の記憶媒体を並べた鈍色のケース。〕
――Rosemary,…
〔仰向けに横たわる寝台は、神経質な此方にはあまり寝心地がよくない。落ち着かなさを滲ませた声が、ボイスレコーダーへ繋いだインカムのマイクへと囁く。…通信は切ったまま、録音モードで。〕
……
Rose…ロゼ。…
〔「その時は…僕の"声"を、これにやってくれ。」〕
〔その時、が何時かはわからない。備えて記録と記憶を一致させる内に気がついた。…ローズマリーのうさぎへ声を渡すために足りないもの。〕
――ローズ…
〔親しげに彼女を呼ぶ声。それがなかった。〕
〔演技は苦手だった。…記憶の中、意味深に笑んでみせるローズマリーへ辿々しく呼びかける。妥協できるものがあるなら採用すればいいだろう、などと馬鹿馬鹿しいことも*考えながら*〕
傍観せずに済むなら全力で動く。
期を待つしか、出来ない。
[銀の髪の彼が投げ続けた届かぬloveletter。
眉根を寄せて右手を眺める。
刈り取ったのではなく、奪った命――]
ラスは、さ。
そんな俺でも出来るなら糧にしようとしてくれた。
[硝子板の向こうの闇。
視線は遠く遠く――遙か先を見ているようで。
答えた声と彼が食堂を後にしたのはどちらが先か。]
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