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[女の側で其の動向を見詰めていたが姿は揺らぎコマ送りに消えて現れては其方へと手を伸ばしていき、白い毛並みの機械を擦り抜ける辺りで止まるも指先には生前に触れた折の様な柔らかな感触も伝わらない]
他は、未だ居た。
[生前の自室で殺し合っていた男達も、自室の隅に蹲っていた男も、そして目の前の女も、この船から消えたのは一人だけ]
広い宇宙で、迷い子に成らないと好い。
[呟きが零れては宛てるべき者に届かず消えていくばかりで、女の声にまた姿は揺らぎ一旦は消え失せ少し離れた辺りに立ち、座り込む姿を首を傾け見下ろしている]
〔マスクの中で生欠伸が出そうになるのを噛み殺す。
研修医時代ですら経験したことのない、吐気の前兆。〕
っ…
〔どうにか堪え切ってトレイへ器具を置くと、がしゃんと神経質な音が鳴る。常になく毒づきかけたところで、ローズマリーから通信が入り…手首でインカムのマイクを引き寄せ〕
……
そう、か…。
消去法の手助けをするならば、Nathaniel Regelは居る。
Cornellius Northanlightsは、
〔作業台を見下ろす。剥出しの赤。皮を剥がれた〕
――解体済みだ。
[気分が最悪だと言う彼女に瞬き]
そういえば、そうだった。
[表情は笑っていたけど感情はなく]
……少し違う。
俺は預かったものがあるから、降りないよ。
[言いつつ、動く様子のないのに歩を進め、
通りしなには硝煙の臭いがしたかもしれず
コントロールパネルを触り始め]
――……解体。
[インカム越しのハーヴェイの声に暫し目を閉じる。
漂う硝煙の臭い。推測が正しければ。
――インカムのスイッチを切る。]
……そう。
君のことはわかった。
だが……
[ソレは?と問う視線はラッセルに向けられている。]
……食べられるかもしれないものを逃がすの?
食べられるかもしれないけど――
[ぐい、とラッセルの腕を引く。
セシリアの時のような抵抗はなく
抵抗がなかったことが心苦しくもなったけど]
大人の男二人分、肉はある。
……二人なら暫くもつだろ。
[二人――ハーヴェイとローズマリーの二人。
自分は食べなくても人間より生きられるから
無意識に人数からはずし。]
[――死んだフリかね?]
[白い毛並みの機械へと問い掛ける女の貌に引き攣った笑みが浮かんで消えるのを見詰め、姿は揺らぐ事無く静かに女から少し離れた場所に立ち続け]
どちらも肉塊。
君は、そう云った。
[漆黒の眼差しだけを恐らくは女の言葉からは肉塊ではない白い毛並みの機械へと向けた]
[大人の男二人分――コーネリアスとギルバートだろうか。
ラッセルの腕を引くのを見つめて、首を傾げる。]
……食料は多い方がいい。
私がソレを食うとは限らないし、
私がソレに食われるのかもしれない。
どちらにせよ、それを逃がすのは賛成しないな……
[ウサギを抱き寄せる。
その腕にもあまり力は入っていないようで。
ウサギは落ち着きなく二人の間を見比べている。]
――……やめる気は、ない?
〔血と脂に塗れた器具を独りで片付ける気にはなれず、
どさりと椅子へ腰を落とす。指先に摘んだ肉片を、眩しい白色光へ透かして目を細め――〕
…真に受けてやる。
〔低く呟いて、未だ鮮血の滴る心臓の肉片を緩慢に舌の上に載せる。感染症から身を守るというギルバートの血肉――実験動物たちに人肉の味を覚えさせるわけにはいかない。自らの身で試すまでと噛み締めると、血腥さよりは甘味が勝って―思わず*溜息を漏らした*〕
……殺されてまで甘いのか。阿呆が…
[ローズマリーに向けた顔は無表情で、
相手が邪魔をしてくるかどうかをうかがいつつ]
やめる気は、ないよ。
[口元だけに笑みを出し]
誰かに賛同を求められる行動なら
[瞳は無機質で]
――セシリアの時に相談でもしてたよ。
[言い放つ。]
[気配が近づいて来て扉が開き眼球を預けた男が部屋に戻るのに姿は揺らぎ、カプセルの傍らに置かれる髪の毛にコマ送りの映像の如くゆっくりと俯く]
そう――…
[予想していた展開に零されたのは溜息に混じった如き小さな呟き一つだけで、部屋の主たる男が出て行く姿も見送らず身じろぐ事も無く]
……そう。
[呟いて、ふと、腕の中のウサギを見る。
きょときょとしていたウサギはいつの間にかぴたりと動きを止めていて。
主が小さく名前を呼んでみても反応しない。]
……なら、何も言わない。
私は私なりの遣り方で生きるだけだ。
[ウサギを抱いて、緩慢な動作で立ち上がる。
引きずるような足取りは通路へと向けられて。]
……だけど、もし。
ハーヴェイを逃がすというのなら――
[君を殺すよ。
小さな囁きは、ひそやかに通路に反響して。]
そ、よかった。
邪魔するんなら少し乱暴したかもしれない。
[さらりと言い、ラッセルに声をかけて船を出す]
今はもう、皆各々の価値観で動いてるらしいから
ローズマリーはローズマリーの生き方をしてくれ。
[動かないうさぎに目を細め、女を見守る。
呟きには瞬き一つ]
どうかな。
でも彼には患者達がいる。
患者は彼に命運を託してるから
俺に邪魔することは出来ない。
[そう答えて、硝子板の向こうをただ*見つめ続けた*]
[眼球を預けた男の部屋で揺らぐ姿の俯く頃にも、白い毛並みの機械を連れた女の傍らには同じく揺らぐ姿が在り、程無く近づく気配と声に向き直るでもなく漆黒の眼差しだけを向ける]
[――二人揃って逃げる気?]
[女の問い掛けに漸く姿は揺れて其方へと向き直り、眼球を預けた男と少年の面差しを残す男を交互に見遣り、視線は腕を引かれている少年の面差しを残す男に留まる。
白い毛並みの機械を持つ女と眼球を預けた男の会話を聴きながらも、視線は少年の面差しを残す男から逸れる事は無く、漆黒の眼差しが静かに見詰め続けて]
――……いっそあそこで邪魔をして殺された方が良かったか?
彼に勝てる気はせん。
[かつんかつんと思うようにならない足が刻む足音。
半ば転げるようにメンテナンスルームへと入る。
端末にうーくんをリンクさせると流れる、紅い文字。
――ERROR。]
……思考ルーチンのバグか?
いや――
[最後にうーくんが何を行っていたのか。
残っていたメモリをサルベージして確認して――]
……原因はナサニエル、か。
アレは……
[喰えない。
尚も紅い唇だけが、にぃ、と孤に*ゆがんだ。*]
[生前に眼球を摘出した白衣の男の元へも揺らぐ姿は現れ、生前の肉体が解体されていく様を見詰めるも、施された義眼と良く似た漆黒の眼差しは何の感情も浮かばず]
[――記録は…いらんのだったな]
要らない。
俺には、無意味だ。
叶うなら――…
[鈍く跳ねる体液の飛沫すら漆黒の双眸に色を添える事は無く、肉と体液の絡み合う粘着質な音の響く中に立ち尽くし、生前の肉体が肉塊へと成り変わっていく様を見守る。
神経質な音を立てる器具と白衣の男の様子に姿は揺らぎ、コマ送りに消えては現れながらゆっくりと首を傾け]
喰うなら、早い方が好い。
[死して尚も死んで逝く細胞達からは徐々に薬も失われて逝くから、届かぬと判っていながらも忠告の言葉を零し通信の様子を眺め]
[声は届かずとも白衣の男は心臓の切れ端を其の口に運ぶのに、揺らぐ姿は微か安堵の面持ちを浮かべるもあり]
[――…殺されてまで甘いのか]
――…
[白衣の男の言葉に向かいに立つ姿は揺らぎ、何も映し込む事の無い漆黒の双眸は微か見開かれて、刹那其の貌に浮かぶのは仄かな微笑み]
やっぱり人間は――…
[嘘吐き、と小さく零される囁きは何処かたのしげですらあり、白衣の男を見詰める施された義眼に酷似した漆黒の眼差しは微か哀しげに弧を描く]
[――阿呆が…]
そうだね。
[誰より其の愚かさを自覚しているらしき穏やかな囁きを零し、施された義眼と良く似た漆黒の双眸は、其れを施した白衣の男を静かに見詰め]
阿呆の血肉は、君の一部に成った。
信頼の分は、阿呆なりに君を護る。
[生前の言葉を信じ生の肉を口にした白衣の男へと届かない言の葉を紡ぎ、揺らぐ姿は半ば肉塊と化した眼窩に漆黒の瞳の義眼を宿す*男を見詰めた*]
――食堂――
〔嬉々として調理を受け持ってくれるセシリアはいない。慣れない此方が食事を用意した結果は――骨付き背肉のオーブン焼き、という如何にも原型を留めたものに。胡椒が強めに効き過ぎた其れに噛みつきながら、二人を見遣る。〕
…減ったな。
〔資源が。呟いて、指先で口元を拭う。〕
Rosemary Muller――白いあれはどうした?
〔食事の知らせを受けて姿を見せた彼女が、パートナーを連れていない様子を訝しんで尋ねる。〕
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