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[シーツを背もたれに掛け、ナサニエルは2人の様子を観察している。]
んー………
俺もヒューバートには話したいことあるんだけど、それは後でいいや。
[露になった性器を気に留めることなく、そのままの姿で居る。]
“人狼”の血脈――
[ギルバートを見据えながら、図書館で知った事実、バンクロフト家に伝わる奇習を思い浮かべながら言葉を紡ぐ。]
その力は、時に鋭敏な感覚や常人には持つことのできない身体能力となって発現される。
完全な人狼ならずとも、それは一族の者に力を与え、家の繁栄をもたらしてきた。
だが、完全な人狼になり、更にその力を律しきれない場合は破滅がもたらされる。私はそう聞いてきた。
だから一族は、その血を飼い慣らすよう努めてきたんだ。
閉鎖的、と云えば閉鎖的なんだろうな。
たとえば、ボブのような黒人が住むことは、これまではありえなかった。
彼の母親が土着の者で、外部の者に身ごもらされたのでなかったなら。
[目線をギルバートから外さないまま、口の端でナサニエルに笑いかける]
ナッシュ。
君の友達はなかなか荒っぽい歓待をしてくれるようだ。
私も、心当たりがないではないが、ちょっと落ち着くように云ってはもらえないかな?
──墓地──
[久しぶりの外は月夜だった。
安置所の冷たく澱んだ空気に慣れきっていた私は、夜空と普段から見慣れたヘイヴンの森の奥に広がる闇に目を細めた。
新鮮な風が私の髪を乱す。
夜の墓地は静まり返っていて、私は私が安置所に居た間に世界が滅んでしまったのではないかと、不安に駆られる。あるいは、私は実際は死んでいて、人狼として生き返ったと言う突拍子も無い夢を見ているのでは無いかと。]
[その時、僅かに眉根を寄せて、ちらりとナサニエルを見た。
一瞬その面を何かに気付いたような色が走ったが、]
──────。
[ほんの一瞬でそれは消えて、すぐに視線をヒューバートに戻した。]
[パパが着せてくれた埃と血に塗れたお気に入りの衣服。
乾きかけた体液の匂い。
片手に握りしめた触れただけで切れてしまいそうな鋭利なナイフ。
──それだけが今の私の持ち物だった。
墓地の入口付近の短い石畳に、私の歩くヒールの音がコツコツと小さく響く。華奢なヒールで一歩あるく度に、つま先から内臓にかけて軋むような痛みが走るのは、私の身体が回復しきっていない所為だろう。当然だ。私は一度仮死状態に陥ったのだから。]
[墓地を出ると、急な勾配の山道が続いていた。
いつもの自転車があればラクなのにと私は思う。
山崩れの災害があったのは何時の事だったのか。今夜の空に雨雲の影は無い。私には全てが遠い昔の出来事のように思える。]
…誰かに出会ってしまったらどうしよう。
「私が死んだ」と知っているような誰かに──。
ううん、そもそも誰が生きてるのかな。
ソフィの熱は回復したのかしら。
[此処から家まで歩いて帰るのは遠いなと、車一台通らない寂しい道路の中央を歩きながら私は首を傾ける。
私はパパに逢いたかった。
それに、この町に厄災をもたらした切っ掛けの旅人、ギルバートを探さなくてはならなかった。]
────何処へ。
何処へ向かえば良いのだろう。
足はひっぱらないようにしないと駄目、ネリー。
[ネリーは包みを家宝のように大事に両手に持ち、3人がいる部屋へ近づき始めた。]
[ヒューバートの答えに、笑みが崩れた。]
人狼──か。
なるほどね。そうか。アンタのご先祖様は同族のことを少しは知ってたんだな。
血の源となった、大元の同族が誰かは知らんが……
これ程大規模な「血族」のコミュニティが今まで知られなかったことの方が奇跡みたいなもんだ。
ギルバート。
“お友達”が居るなら答えづらいなら――
いや、そもそも答えてもらえるとしたら望外のことなんだろうが……
私は真実が知りたい。
君は、この町で“なにをした”んだ?
そして、とどのつまり――
なにを“糧”としたのか
[『誰と誰を手にかけたのか』とその問いに言外の意味を載せる。]
その答えが聞かせてもらえるなら、君の指定するどこへでも赴くよ。
“コミュニティ”
……他にもあるのか……?
[“同族” ……ギルバートの言葉が耳に残った。]
“同族”なら、もう少し優しく扱ってほしいものだが……
[皮肉めいた笑みが唇に浮かんだ]
まあいいさ。
アンタが「血族」として知識を持ってるのは分かった。だったら教えてやってもいい。
[浮かべた嗤いは口の端で、素早く閃いて消えた。
後に残るは、恐ろしく静謐な瞳。]
──俺はこの町に同族となりうる血族が居ないか探しに来た。
この町には同族の血を引いた血族が居る可能性が高いと踏んでだ。
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