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―回想・仕立屋の前―
[仕立屋の前に、1台の黒い車が止まる。黒いコートを着込んだ男はトランクを開け、ナイフを取り出し、コートの奥にしまった。
カーラジオからは、CARPENTERSの"TOP OF THE WORLD"]
Such a feeling's comein' over me
There is wonder in most everything I see
Not a cloud in the sky
Got the sun in my eyes
And I won't be surprised if it's a dream
―――コン、コン。
[扉をノックし、家主を呼び出す。]
ソフィー、いるか?俺だ。ナサニエルだ。
イアンが見つかった。早く来てくれ!
[――子どもじみた嘘だ…と、内心で自嘲しながら。]
[――しばしの後。
血相を変えた家主――ソフィーが、大慌てて扉を開けた。]
[男の口許が、歪む。]
――――――。
[扉に手を掛け、抵抗できぬソフィの腹めがけ、鈍い音を立ててナイフを突き立てた。]
………なァんてな。
俺、あんたの父親の顔なんて、ロクにしらねぇし。
[ソフィの身体に蹴りを入れて薙ぎ倒し、続けざまに何度もナイフを刺してゆく。]
「………………………」
[口を開けて何やら抗議している彼女のことなど、お構いなしに。]
[仕立屋の玄関先に、夥しい量の鮮血が舞う中、カーラジオは呑気に世界の頂上を歌う。]
I'm on the top of the world lookin' down on creation
(私は世界のてっぺんにいる 全てのものを見下ろして)
And the only explanation I can find
(そして私が気付く事のできた唯一の理由は)
Is the love that I 've found ever since you've been around
(あなたが私の近くに存在してから見つけた愛)
Your love's put me at the top of the world....
(あなたの愛が、私を世界のてっぺんに連れていってくれたのよ)
[―――数分の後。
ナサニエルの足下には、無惨に刺し殺された金髪の女の遺体が転がっていた――]
[男は返り血を拭い、コートとナイフをトヨペットクラウンのトランクの中に放り投げた。]
…………………へぇ。
人を殺すのって、意外と………
[ナサニエルは煙草をふかしながら、エンジンを掛けた。無惨な屍体を残し、男は導かれるように、森へと向かった――*]
[ナサニエルと、誰かが会話をしているらしいというのはどことなく掴めたが、内容はおろか誰かもまだ分からない。
少しでも身軽になり、ギルバートの足手まといにならないようにしなければならない。
コーヒーを淹れに行った時に、キッチンナイフのひとつでも失敬しておけばよかったと思った。
歯軋りもしたくなったが、余計な音になるので*それは慎む*]
いいか、ヒューバート。
あんたが俺に言ったことを、「俺が俺の耳で聞こえたままに」言ってやろう。
あんたはまず、娘を殺したのは俺じゃないかと嫌疑をかけた。
次にお前は、「何の根拠も提示しないまま」、「天使とは何だ」と聞いてきた。
……何の話だかさっぱりわかんねぇよ。
あんたの話を聞いてると、俺にイチャモンつけて嫌疑掛けてるようにしか聞こえねぇ。そのくせ「俺に頼るしかない」って、どういうこと?
だいたい、「ネイ」って誰?
ミッキーなんて全然知らねぇし。
墓ごっこって何のこと?
悪ィけど、昔話がしたいなら、余所あたってくんない?
俺、3年かそこら前に車で事故って、頭打って記憶機能がブッ壊れたらしくて、3年前くらいからの記憶飛んでンだよね。……それ知らないンなら仕方ないけど、それ知ってて俺に聞きに来たンならアンタどんだけ残酷な人間なんだよ。
なァ……
偶然来たにしちゃあ、随分とでき過ぎてンな、ヒューバート。お前が言いたいことを、イチから説明してもらおうか。……きっちり、「理由を明示して」な。
ああ、すまない。
嫌疑をかけた――そう感じたとしても仕方ないだろうな。
[私は眉を蹙めて、髪を掻いた]
シャーロットが、エリザと君とのことを気にかけていたのは話した通りなんだが、それはこれが切欠になっている。
[私は、テーブルの上に、エリザの日記を置いた。その隣に、シャーロットの部屋から見つかった地図を重ねる。
そして、エリザの日記にナサニエルとの“契約”のことが書かれていたこと、シャーロットが殺された晩、彼女の机にそれが広げて置かれていたこと、その隣にはナサニエルの家に印をつけたヘイヴンの地図が広げて置かれていたことを最初から順立てて話していた]
まるっきり疑っていなかったといえば、嘘になる。
これらのシャーロットが殺される寸前の状況から、一番最初に気にかかったのは君だ。
それは事実だ。
――だから、君に直截訊いて確かめたかったんだ。
ナサニエルさんに…ヒューバートさん。
[緊張感で充満しているようなピリピリ感がある。
取っ組み合いになると分が悪いのは明らかだ。
私は喉をならすのも抑えて空気を感じる。]
記憶……
……事故……
悪い、そうだったのか。
“ネイ”のことを知らないのか?
エリザの日記には、彼女のことが書かれていたんだ。
んっと……そうだな…
訊き方を少し変えると……
君の“契約”についてなんだが――
君は……求めがあればどんな者にでも“なる”ことができるんだろうか。
それとも、……それは生者は除いて死者に限られるものなんだろうか……
[常ならば、死の世界のことも、霊の存在も簡単には信じることのできない事柄なのだろう。
だが、今や私の愛する人の多くは鬼籍に入っていた。むしろ、信じたいという気持ちすらあったといっていいかもしれない。
また、それだけでなく私自身も通常の五感を超越した“啓示”といっていい感覚を時折感じさえした。その今の私には、彼の答えがどれほど驚きに満ちたものであれ、心に落着しそうな予感があった。]
[このような感覚を屡次感じるようになったのは、いつからだっただろうか。]
『ギルバート・ブレイク ―― カウボーイ』
[彼の顔を初めて見た時、その時流行っていたSF小説の登場人物が頭に浮かんだ。火星人の旅人。
彼はその登場人物と同じく、見知らぬ、そして根源的なドグマを持ち、それを運んでいるような気がしたのだ。なぜそんな感覚を得たのかは、合理的な説明がつかない。
その、琥珀色の瞳を覗いたためだっただろうか――。
それが事の起こりだったのだろう。――今にして思えば。]
[ヒューバートから差し出された日記を手に取り、しばし読む。]
………ふぅん。
あの奥方も、マメなこって………
わざわざ俺との「契約」を、日記にねぇ……。うわっ、何ヤッてるかも書いてあンじゃん。
[日記をテーブルに置き、ナサニエルは髪を掻いた。]
………いいだろう。
本来なら、俺は「契約」相手とのことは秘密にしてるンだがな……証拠があるんなら。
いかにも。俺はエリザ・バンクロフトと「そういうこと」をしていたよ。何やら「墓ごっこがしたい」とかいう、あちらさんのご要望に沿ったカタチでな。バンクロフト夫人は、「ネイ」とかいう乙女趣味なブリッコにもう一度逢いたいとかいう話だった。だから俺は、「ネイ」の様子を聞いて、バンクロフト夫人の前で「ネイ」を演じた。
正直、それは俺が小さい頃に関わってた何かがあるとかいう話だったけど……あいにく、覚えてねぇんだ。3年より以前の記憶が無いのは本当のことだ。
だが……
あいにく、シャーロット・バンクロフトは来てねぇよ。それどころか、俺は直接長話したこともねぇし。
だいたいあんたさァ……いつもシャーロットを連れて歩いてるようなイメージが俺ン中にはあるぐらいだ。だから、俺みたいな悪い虫がついたら、すぐ気づくだろうに。
[煙草を手にし、火をつける。]
そうだったのか。
日記を読んだのがあの日の夜だったなら……
確かにナッシュの自宅を訪れるタイミングがなかっただろうな。
[ナサニエルの言葉にその時の状況を思い浮かべ、頷く。
シャーロットがなにかにショックを受け、その目を涙で泣きはらしていたのはあの日の晩だった。日記を読んだタイミングはその時だったと解釈するのが妥当なのだろう。
私は、よく考えればナサニエルに生じた疑いの根拠が希薄であることに思い至っていた。]
いつも、連れて歩いてるってことないさ。
[表情に苦笑いが浮かんだ。その後に少しだけ物寂しさが混じり――]
シャーロットは夜、時々出かけたりもしていたようだから。
[その全てを知っているわけではなかったが]
「契約」の内容、ねぇ……
[ティーカップの中身をほぼ飲み干し、それを灰皿替わりにしている。]
……ま、生者だろうが死者だろうが、「なって欲しい」モンになるのが俺の「役割」だ。確かに死者の方が、ホンモノさんが死んでる分、ラクにやりやすいが……必要とあらば生者の役割もやるよ。
[ヒューバートの目をじっと見て居る。]
………で?
ひょっとしてアンタ、俺と「契約」結びたいの?
演じて欲しいのは、亡くなったエリザ夫人?それとも、愛娘シャーロット嬢?
カラダは改造できねぇけど、投影するならご自由に。
……人間の想像力ってのは、案外すげぇぞ。
望めば、目の前の男が10歳に満たない娘にも見えるくらいだからなァ。
だが、“ネイ”のことを覚えていないのに、彼女に“なる”ことができるものなのかい?
様子を訊いたとは云っても、簡単なことではないんじゃないか?
いったいどうやって――
[ひどく渇きを感じる。暑い。ポロの襟元を引き、喉元を外気にあてた。
掠れた声が喉の奥から絞り出る。]
できることなら――
――聞きたい
……彼女の言葉を……
喪って悔いばかりが残る。
彼女に伝えたいことがたくさんあった。
私の娘を――
ふぅん……
ま、娘も父親から離れる時期なンかね。
あんたの娘……歳いくつだったっけ?
[微かに褐色の水が残るティーカップの中に灰を落とす。]
……まあいいや。
ああ、「ネイ」の話な。
「ネイ」の様子は……多分、あんたが想像しているより、もっと深く訊いてる。好きなモンや嫌いなモンだけじゃなく、もっと細かい所もな。……ま、その辺の詳しいことはいわゆる「企業秘密」ってヴェールに包ませて貰うが。
あとは、「契約」相手がどれくらい相手を激しく求めているかにもよるな。ポイントは、「いかに正確に再現するか」じゃあない。「いかに相手の『理想』を具現化するか」にあるんだ。相手の想像力に頼り、それをさらに掻き立てる。
……そういう意味じゃあ、あんたの奥方はすげぇ人だったがな。
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