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マスター……
私には、もう、自分の行いが正しいのかどうかすら、判りません……
平和の具現の話をした時から、貴女は様子がおかしい。
[カタリ、音がしてドアが開く。
思いの外元気な様子のソフィーに、安堵した。]
ごきげんよう、マスター。
沖田敬一郎に会ってきたのですか。一人で敵の元に赴くなんて……
[なぜ自分を連れていかなかったのか、と、ソフィーを責める言葉を言いそうになり、口をつぐむ。追いかけなかった自分も同罪なのだから。]
ケネスさんが病院に?
一体、昨日何があったのですか?
(一番知りたいのは、ケネスの事よりも……)
何故倒れたのか、定かではありませんが……、昨日倒れる前と今朝と、魔術回路の状態が思わしくないようです。
戦闘には支障はないと思いますから。
たぶん、ですが。夢を見たことと関係があるようです。
ああ、それで、地下でお父様の遺品を見つけたのです。
ここで立ち話もなんですから、リビングまで行きましょう。
昨日教会で起きたことはお話ししておかないといけませんから。
[シャルロットの横を通り、リビングへと向かう]
魔術回路……
[それは、サーヴァントである自分にとっては、マスターからの大事な魔力の供給源でもあり、しかし自分にはないものだ。己のマスターが不調である、という事だけは理解する。]
夢……どんなものですか?
いえ。それよりもマスター。
貴女は何故、私の絵を?
[地下に置かれた自分の肖像画。その傍にあった写真。噛み合わないピースがひとつづつ揃い始めるような、不思議な違和感を感じながら、ソフィーの後に続いてリビングへ向かう。]
[リビングのソファへと座り、シャルロットを見る]
その絵が、お父様の遺品です。
お父様は、シャルロットの絵を欲しがっていた。
おそらく、ですが、夢と、思い出してきた記憶から、お父様はフランス革命について調べていたようです。
そして、シャルロット、貴女に行き着いた。
他の遺品を調べれば、もっと詳しいことがわかるのでしょうけど、それはお爺様がお父様のお墓に一緒にいれたのだと、手紙には書いてありました。
お父様は、平和を愛していた。
だから、シャルロット、貴女のことを尊敬していたのだと思います。
そしてその絵は、私がお父様にねだったもののようですね。
裏に、私の名前が書いてありますから。
お爺様も、きっと貴女を呼び出せるように、その絵をあの魔方陣の下へいれたのでしょう。
だから。
私が貴女を呼び出すことは必然だったのだと思います。
感覚として残ってはいませんが、私はその絵が、とても好きだったのです。貴女が成したことをお父様に聞いて、その絵を見て。
……マスター。
[それは、思っても見なかった話だった。
ソフィーが持っていたのは、処刑される直前、自ら望んで描いてもらった自分の肖像画。
平和を乱すものに天誅を与え、神に対して誇らしく胸を張って処刑されるのだと思っていた、あの時の自分の姿。
史実は、シャルロットの行為を否定した。
けれど、その私の肖像画を、こうして所持する人物がこの時代、遠いこの国にいた事に。
シャルロットは、驚愕していた。]
お父上も平和を愛していた。
私が為したことは、結果あの時代の人々にさらなる混乱を呼んだ、というのに、ですか……。
[言葉に力は無かった。]
結果ではなく、その課程を見たのだと思います。
シャルロット、貴女は平和を愛し、それを夢見て実現しようと、その手を血に染めた。
その精神こそが、お父様にはとても尊敬できるものだったのでしょう。
そしてシャルロット、お父様だけではなく、貴女がしたことを認めている人は、もっといるのだと思います。お父様や、私のように。
だからこそ、その肖像画はありのまま美しく描かれているのではないでしょうか。
……マスター。
[余りにも予想外の言葉だった。
この数日、史実の下した自分への評価、マスターとのやりとり、様々な事で自信を見失っていた自分に対して、そんな言葉がかけられるなどと、どう予想出来ただろうか。]
あの肖像画は、私が断頭台にかけられる直前に描かれたものなのですわ。
私が望んで……そして、私を描きたいと望んで下さった殿方が描いたもの。
[思い出した。
シャルロットの事を誹謗した民だけでなく
熱い支持をしてくれた
人々が居た事を。]
[シャルロットの言葉に目を伏せた]
その方もきっと、貴女のことを尊敬していたのでしょう。
だから。貴女が真の平和を望むなら、私はその手助けをするのだと決めました。
私個人の願いは、命を賭してかけるほどの願いはありません。
ですが、人のためであれば別です。
お父様が聖杯に願うのは私の未来だと言っていた。
だから私も、貴女のために願いましょう。真の平和の成就の、その先を。
それは、マスターの聖杯に対する望みが、決まった、という事ですわね?
[じっと目の前のソフィーを見つめた。
写真の中で笑ったり泣いたりしていた幼い少女。
そして、事務的に話す出会った時の女性。
そして……]
平和の成就の、その先……。
神々の御心に、沿う理想郷。
[ソフィーの言葉に、目を閉じた。
昨日までの心のすれ違いを思い、考える。
変わったのは、マスターなのか…それとも]
そう言えば、沖田とは何をお話になったのですか?
そして、ケネスさんは一体。
沖田敬一郎には、聖杯のことを聞きに行きました。
そしてケネスさんは……。
[言い淀み]
バーサーカーが、昨日教会で亡くなりました。
その時にケネスさんが火傷とケガを負っていたので治癒を施し、病院に連れて行ったのです。
彼の令呪はもうありません。
そして。
彼自身ももういないのでしょう。
「滝田真」に戻るのだと、言ってましたから。
バーサーカーが。そうでしたか。
[目隠しをしていた、妙ちきりんな侍の事を思い出した。
そして、次に浮かぶのは美樹の顔。天真爛漫な彼女は、今一体どんな想いで居るのか……。]
脱落したマスター、という事になったのですね、ケネスさん。
滝田とは、戻る?
[続く不可解なソフィーの言葉に、眉をひそめて首を捻る。]
ケネスさんは、本当は「滝田真」という方で、5年前にある魔術師によってその人格と魔術を与えられたそうです。ケネス・グラントという名前も。
そして、聖杯に元の人格である「滝田真」の消滅を願うつもりだと仰ってました。
そして昨日、「ケネスさん」としての人格は限界だった様子で、眠りにつかれました。
折角病院に運んだのに、抜け出して。つかまえたと思ったら、その話をして下さいました。
今はもう、真さんが目覚めているのかもしれません。
……なるほど。
魔術師としての現存の限界が、ケネスという人格の現存の限界、という話だったのかもしれませんわね。
[新聞を片手に押しかけた時に事を思い出していた。
次は教会の勧誘に行こう、それが果たせなかった事に、僅かな後悔を覚えた。]
皆、色々な境遇や思いを抱えて、この戦いに身を投じているのですわね……。
[若返りたい、と言ったキャスターの言葉もそうだ。
人の願いなど、本来他人には完全に理解し得ないものなのかも、しれない。
判ってほしいというのこそ、エゴなのかも、しれない……。]
写真……、私の小さい頃の、ですか?
それも、絵と一緒にお爺様が入れていたものです。
お爺様は、その写真を見ることで私の精神状態に何か起きるのでは、と危惧したのかもしれません。
幼い頃は何度もカウンセリングや催眠療法などを受けていたようですから。
私は、きっと幼い頃には感情があったのでしょう。それが、突然なくなってしまった。
お爺様は、私が感情がないことに対し魔術師としてならそちらの方がよい、といってましたので。
私は、記憶もありませんでしたから、両親のことも、自分のことも知らなかった。
それなら、知らない方がよいと、判断したのかもしれません。
だから。
そのアルバムにも両親の写真はないでしょう?
お爺様の写真と一緒に飾っている一枚は、魔術学校にいるときに学校の先生から頂いたものです。
両親の写真だと言われて。
お爺様が、私に一番思い出させたくなかったのは、両親のことなのだと思います。
どうしてなのかはわかりませんけど。
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