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人間に恋して幸せに暮らしていく筈だったのに。
裏切られて傷ついて――
奇跡は、あったんだろうな。
でも其の先に、幸せがなかった。
[薬を塗る掌は未だ赤さを残していて]
[彼の肌は冷たさを感じていると知れようが]
[彼の心は其れを感じているかは解らずに]
…ありがとう?
[唯、少女の唇から礼の言葉が紡がれるのには瞬き]
昨日お昼間、聴こえてきた声は、楽しそうだったよ。
雪遊び、してたのかな?
[続く言葉に小首を傾げ]
…どうだろうね?
神様なんて信じない。
若し神様が居るならなんでこの手を冷たく作ったのか訊いてみたいけど。
泣き寝入りも何も何処にも行けないよ。
だから手の届く中でモアベターな答えを探し続ける。
[小さな溜息]
カミーラって、受け取るの、下手糞そうだものね。
[少女の答えにも、矢張り解らないと言った様子で]
[薬を塗り終えれば、薬箱の蓋はぱたり、閉められて]
…メイが、御礼…言う事じゃ、ないと…思うよ?
……あれはクインジーが雪玉ぶつけてきたから……
[泣き顔を思い出して、眉間に皺が寄り]
……結果的には楽しくなかったな。
神様なんか、私も信じてないけどな。
居るんなら、問い詰めたいことが山程ある。
[ふん、と鼻を鳴らし]
more betterを沢山積み重ねていったら、いつかmostに届かないのかな。
……。
何を受け取るんだよ。褒め言葉か?
[どう致しまして、と答えるのも躊躇われて]
望む事…
…駄目、だよ…望むのは、自分の為に…しないと…
[覗き込む碧い瞳に映し出される青は僅か揺れたろうか]
[不思議そうに揺れる青を見詰めて]
………自分の為だよ?
ナサニエルが傷つくの厭なのも、ナサニエルを大切にしたいのも、自分勝手な我が侭だよ?
嬉しい事も、厭な事も、全部あって温かいよ。
[続く言葉にくすくす笑い]
きっと神様は何も答えては呉れないんじゃないかな?
[小首を傾げ]
どうだろう?
何時かなるって信じて前に進み続けるのは、悪い事じゃないと思う。
褒め言葉だけじゃなくて、差し出された温かい手を取るのとかもね?
そうなんだけどな……
でもあーゆー顔させたかったわけじゃねぇし……
[かりかりと頭を掻いて]
答えてくれないならいいさ。
一発殴らせてくれりゃ。
……じゃあメイも、何時かそうなるって思っとけばいいじゃねぇか。
思うだけならタダだ。
私の前に手が差し出された覚えはないけどな。
…メイと、俺は…違う、よ?
[呟くように言って、すい、と視線は逸らされて]
[未だ半ばも料理の残った皿を手に、立ち上がる]
俺が…如何、なっても…
…………メイには、関係…ない、だろうに…
[かたり、引いた椅子が、小さく音を立てた]
/中/
こんな時だけども。
…ハーヴェイは寝ているとは言え、ネリー、いると思うんだ。
何やっているのかな、とか…。
…そう思うなら元気付けてあげれば良いのに。
殴ったら、気が済むのかな。
[瞬き]
触れる事が傷つけるように、望む事が傷つける事もあるよ。
カミーラは全部流してきちゃったんじゃないの?
其れに、若し差し出される手が無くたって、カミーラには差し出せる温かい手があるよ。
そうだね、だから身勝手な我が侭。
でもね、ナサニエル。
[逸らされた視線に残り僅かな皿のうどんを見て
それから頬杖をついて立ち上がったのを見上げ]
自分より大切にしたい人が居たらいけないかな?
何より一番にナサニエルを大事にしたいのは変?
[見上げて来る碧い瞳]
[けれど彼は俯きがちにして]
…解らない。
[微かに口唇を振るわせ]
[青の瞳は伏せられ睫が影を作る]
でも、俺は…それに足る人間じゃ、ないよ。
[少女の顔を見ない儘に厨房へと足を踏み入れ]
[ナサニエルを見詰める碧い眼差しは静かで
厨房へ入っていく後姿にゆるりと瞬いてから
もう一度皿を見たけれど結局は食べ終えずに
立ち上がれば食器を持って厨房へ後を追い]
ナサニエルがナサニエルを如何思ってるかは知らない。
でもナサニエルをそんな風に言われると哀しくなるよ。
[眼を合わせるでもなく食器をシンクに置いて]
[かちゃり] [食器を置く音]
[赤らんだ手を見遣れば洗う事はせずに]
…メイが言う“ナサニエル”は…
まるで…俺じゃない、…別の誰か…みたい、だね。
[遠く感じられて][ぽつぽつと言葉を零す]
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