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[気配が近づいて来て扉が開き眼球を預けた男が部屋に戻るのに姿は揺らぎ、カプセルの傍らに置かれる髪の毛にコマ送りの映像の如くゆっくりと俯く]
そう――…
[予想していた展開に零されたのは溜息に混じった如き小さな呟き一つだけで、部屋の主たる男が出て行く姿も見送らず身じろぐ事も無く]
冒険家 ナサニエルが「時間を進める」を選択しました。
誰かを逃がそうなんて考えるのは
人じゃないから、か。
[餓死の危機にいるものならきっとしない。
精神異常が酷くなれば親友とてむさぼるだろうか。]
この感情はきっと――
……そう。
[呟いて、ふと、腕の中のウサギを見る。
きょときょとしていたウサギはいつの間にかぴたりと動きを止めていて。
主が小さく名前を呼んでみても反応しない。]
……なら、何も言わない。
私は私なりの遣り方で生きるだけだ。
[ウサギを抱いて、緩慢な動作で立ち上がる。
引きずるような足取りは通路へと向けられて。]
……だけど、もし。
ハーヴェイを逃がすというのなら――
[君を殺すよ。
小さな囁きは、ひそやかに通路に反響して。]
そ、よかった。
邪魔するんなら少し乱暴したかもしれない。
[さらりと言い、ラッセルに声をかけて船を出す]
今はもう、皆各々の価値観で動いてるらしいから
ローズマリーはローズマリーの生き方をしてくれ。
[動かないうさぎに目を細め、女を見守る。
呟きには瞬き一つ]
どうかな。
でも彼には患者達がいる。
患者は彼に命運を託してるから
俺に邪魔することは出来ない。
[そう答えて、硝子板の向こうをただ*見つめ続けた*]
ありがとう、今まで。
最後も、俺の我が儘きいてくれて。
[うつむき]
俺はお前に何か返せてたかな。
[彼が船の外に出た今、届いてるか判らぬ*感謝を*]
[眼球を預けた男の部屋で揺らぐ姿の俯く頃にも、白い毛並みの機械を連れた女の傍らには同じく揺らぐ姿が在り、程無く近づく気配と声に向き直るでもなく漆黒の眼差しだけを向ける]
[――二人揃って逃げる気?]
[女の問い掛けに漸く姿は揺れて其方へと向き直り、眼球を預けた男と少年の面差しを残す男を交互に見遣り、視線は腕を引かれている少年の面差しを残す男に留まる。
白い毛並みの機械を持つ女と眼球を預けた男の会話を聴きながらも、視線は少年の面差しを残す男から逸れる事は無く、漆黒の眼差しが静かに見詰め続けて]
――……いっそあそこで邪魔をして殺された方が良かったか?
彼に勝てる気はせん。
[かつんかつんと思うようにならない足が刻む足音。
半ば転げるようにメンテナンスルームへと入る。
端末にうーくんをリンクさせると流れる、紅い文字。
――ERROR。]
……思考ルーチンのバグか?
いや――
[最後にうーくんが何を行っていたのか。
残っていたメモリをサルベージして確認して――]
……原因はナサニエル、か。
アレは……
[喰えない。
尚も紅い唇だけが、にぃ、と孤に*ゆがんだ。*]
[生前に眼球を摘出した白衣の男の元へも揺らぐ姿は現れ、生前の肉体が解体されていく様を見詰めるも、施された義眼と良く似た漆黒の眼差しは何の感情も浮かばず]
[――記録は…いらんのだったな]
要らない。
俺には、無意味だ。
叶うなら――…
[鈍く跳ねる体液の飛沫すら漆黒の双眸に色を添える事は無く、肉と体液の絡み合う粘着質な音の響く中に立ち尽くし、生前の肉体が肉塊へと成り変わっていく様を見守る。
神経質な音を立てる器具と白衣の男の様子に姿は揺らぎ、コマ送りに消えては現れながらゆっくりと首を傾け]
喰うなら、早い方が好い。
[死して尚も死んで逝く細胞達からは徐々に薬も失われて逝くから、届かぬと判っていながらも忠告の言葉を零し通信の様子を眺め]
[声は届かずとも白衣の男は心臓の切れ端を其の口に運ぶのに、揺らぐ姿は微か安堵の面持ちを浮かべるもあり]
[――…殺されてまで甘いのか]
――…
[白衣の男の言葉に向かいに立つ姿は揺らぎ、何も映し込む事の無い漆黒の双眸は微か見開かれて、刹那其の貌に浮かぶのは仄かな微笑み]
やっぱり人間は――…
[嘘吐き、と小さく零される囁きは何処かたのしげですらあり、白衣の男を見詰める施された義眼に酷似した漆黒の眼差しは微か哀しげに弧を描く]
[生前其の肉体にどれ程の処置をされたのか、詳細なデータの閲覧権利など非検体にある筈も無く、まして己を喰らう様な狂行を取る様な事も無かったのだから、其の肉の味は知らないけれど――…]
――…嘘吐き。
[生前と同じく口唇だけが繰り返し零しす姿は揺らぎ誰にも読み取られる事も無く、まして目の前で溜息を漏らす男に届く事も無い儘に]
[――阿呆が…]
そうだね。
[誰より其の愚かさを自覚しているらしき穏やかな囁きを零し、施された義眼と良く似た漆黒の双眸は、其れを施した白衣の男を静かに見詰め]
阿呆の血肉は、君の一部に成った。
信頼の分は、阿呆なりに君を護る。
[生前の言葉を信じ生の肉を口にした白衣の男へと届かない言の葉を紡ぎ、揺らぐ姿は半ば肉塊と化した眼窩に漆黒の瞳の義眼を宿す*男を見詰めた*]
――食堂――
〔嬉々として調理を受け持ってくれるセシリアはいない。慣れない此方が食事を用意した結果は――骨付き背肉のオーブン焼き、という如何にも原型を留めたものに。胡椒が強めに効き過ぎた其れに噛みつきながら、二人を見遣る。〕
…減ったな。
〔資源が。呟いて、指先で口元を拭う。〕
Rosemary Muller――白いあれはどうした?
〔食事の知らせを受けて姿を見せた彼女が、パートナーを連れていない様子を訝しんで尋ねる。〕
/*
ラッセルの見せ場作りにもっと配慮が
できたらよかったんだけどな。
どうも場面転換が苦手でgdgdしてしまう。
ラッセル済まん。
[――君を殺すよ]
[動かなくなった白い毛並みを持つ機械を抱いた女が立ち上がり通路へ向かうのに、揺らぐ姿は刹那消え失せるも同じ処に立ち透明な板の向こう側を見続けるもあり、けれど同時にもう一つの姿は消えては現れコマ送りに女の後を追い、メンテナンスルームで動かなくなった白い毛並みを持つ機械を前に作業する女の傍らにも立つ]
[――喰えない]
彼は――…ヒューマノイド…
[届ける気の無い確認の為の如き小さな呟きを零し、弧に歪む女の口許を見詰めまた姿は揺れた]
[同じ頃に眼球を預けた男の傍らで同じ様に透明な板の向こう側を見詰め続け]
黒は――…安息の死を齎す死神の色?
[零される問い掛けは誰に投げた訳でも無い口振りで、何も映し込まぬ漆黒の眼差しは依然、脱出ポッドの飛び立った透明な板の向こう側に注がれていた]
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