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[豪奢な屋敷の一室。
そこもまた自身にとっては生まれてはじめての
まるで物語のような世界だった。
疲弊していたのだろう。
あの後菫の少女に一言二言かけてから、意識を休ませていた。
目を覚ましても、ぼんやりとしていた時間が長かったように思う。]
……あ。
[ソファーに眠っている菫の少女を目に止めれば、
困ったように、ぅー。と小首を傾げ]
わたしが、ソファーでいいのに……
貴女がベッドを使えばいい……けど
寝ちゃってる、かな。
[微苦笑を浮かべ、菫の少女にそっと毛布をかけた]
[シャワーを浴びようと思い立って
するりと衣服を下ろし、浴室の扉を開く。
微かな違和感。
――途切れ、途切れ――断片的――水に流れ――
それでも残っている、あか。]
……ッ。まだ、怪我酷いんじゃ――
[居た堪れない気持ちに襲われる。
彼女は無理をしてはいないだろうか。
それとも、痛みは感じないというのは本当なのだろうか。
わからないけれど。散った赤は、やはり悲しくて。
シャワーのコルクを開き頭からお湯を浴びる。
その流れ湯で、血の後も、流れてしまえ……と]
[どのくらいの量、水を流し続けたか。
赤は目立たなくなった。
すっきりした浴室に、ふ、と息を吐き。
血に気を引かれて身体をしっかり洗うことまで頭が回らず
時間にして数分で、浴室を出た。
バスタオルで水気を吸って、青のワンピースを纏う。]
……、
[呼び名が無いのはやはり不便だな、と。
微苦笑した。
ソファーで目を伏せた菫の少女へと寄り、
そのソファーに凭れるように腰を下ろし、*膝を抱いた*]
[結局は見つけた弾薬も猟銃も再度箱に仕舞って。
鍵を掛けなおす。合鍵でもない限り、開錠できるのは自分だけだろう。
そのまま物置で転寝した後、目を覚ますとこきりと首を鳴らして]
……。
背中が痛いな……歳か?
[他の者に比べたら頭一つくらい抜けているであろう自分の年齢に苦笑。
物置を出て、厨房へと向かう。]
[湯を沸かしながら食料を検分する。
生物は少ないが、日持ちのするものが沢山ある。
しばらく食うのには困らないだろう。無論、調理する人間がいれば。]
ポケットからシガリロを取り出し、湯を沸かす火を失敬する。
ゆらゆらと紫煙が立ち込め始めるのにあわせて襟元を緩め。]
出ようと思えばここから出られそうだが……
それを簡単に許してもらえるのだか。
[厨房の窓の外、広い屋敷の周りは薄暗い。]
[深い水底から引き上げられる様にすぅと意識は覚醒して、震える睫毛はゆっくりと持ち上がり、直ぐ傍の息遣いに思考が追いつかず身を竦めるも、其処に少女の姿を見止め微か胸を撫で下ろせばそろりと身を起こし、肩から落ちていく見覚えの無い毛布に思い当たり、ひと時は膝を抱え目蓋を下ろした其の横顔を見詰め、浮かぶ表情は柔らかい]
「おはよう」
[起きているかは判らなかったけれど唇は挨拶の言葉を告げ、毛布をたたんでソファの隅へと纏めると、朝の光には寝間着に散るあかが幾らか目に付いて、少女の邪魔にならない様に出来るだけ静かに立ち上がり、クロークから黒ぽい服を一式取り出して、シャワーを浴びれば綺麗に洗い流されているタイルに今度こそは浴室を汚さない様に使い、着替えて少女の傍らへ遠慮がちに距離を取り腰掛け]
………
[何時も顔を隠している濡れた長い前髪も今は顔を隠してはおらず、黝く腫れていた右目周辺は幾らか腫れも引いてきた様子で、首元も手首も隠れる黒いシルクのブラウスと、スカートは歩き難いと判断したのか借り受けたジーンズを履いて、クッションを抱いて刺繍の入ったトゥシューズを揺らし、窓の外と時折は傍らの少女を見詰め]
[煙草の火を消して、厨房の換気を済ませる。
自分についた煙草の香りはどうしようもなかったが、すぐ消えるだろう。
紅茶を入れたカップを片手に広間へと戻る。]
……食器も真新しい物、か。
屋敷自体はそう新しいわけでもなさそうなのに。
[まるで中だけが。
モデルルームか何かのように。作り物めいた違和感。]
[あかの散らされた衣類を洗面所で丁寧に洗い干してみるも、淡い色合いの寝間着に着いた染みは落ちきらず、修道女に借り受けた服も眼に見えぬだけできっと同じだろうと、返すのも申し訳ない気がしたのか微か俯く]
………
[ソファに身をもたせ休んでいる様子の少女にブランケットをかけ、空腹を思い出してか無意識のうちに傷だらけの手を薄い腹部に当て、部屋を出れば厨房へ向かうべく広間へと降り立ち、微か鼻先を擽る香りに視線を移し牧師の姿に頭を下げる]
[人の足音に僅か身構えて。
姿を現したのが少女だと知れるとカップをテーブルに置く。]
……おはようございます……というには少し遅いですかね。
ええと、ナイジェルさん。
[幾許か逡巡した後、少女につけられた名前を呼んで。]
[カップを置く牧師の様子をじっと見詰め逡巡の後に紡がれる名に瞬き、少し遅いと言われれば一拍の間を置いて口を開く]
「こんにちは、煙草の、香り」
[疑問系を表す音は無い代わりに首を傾げ]
……。
気のせいじゃないですか?
[にこりと。
慣れたように浮かべられる笑顔。]
……ああ、貴方も紅茶飲みます?
紅茶でも珈琲でも何でもあるみたいですけど。
………
[牧師の笑顔を見詰め唇は「そう」と伝える気も無い程に微かに動き、紅茶を勧められれば一つ頷いて、ちらと厨房へと視線を投げ]
「食べ物も、一緒に」
[一応は断りを入れて右足を引き摺り厨房へと向かう]
[緩めっぱなしだった襟元を締めると厨房へと少女が消えるのを見送り。
袖口を鼻先に持ってくると。]
……意外と判ってしまうものかね。
そう何本も吸ったわけではないのに。
[煙に慣れた鼻ではわからない、と足を引き摺っていては熱いお湯の類は危なかろうと厨房へと足を運ぶ。]
―とある一室―
[昨晩は着替えるのも億劫だったため、下着姿で眠ってしまったようで、ん〜、と伸びをすれば既に昼も過ぎていた。]
体調は万全。
もうお昼なんてとっくに過ぎてたのね。
寝すぎたわ・・・効果に眠気も足しておこうかしら?
[ベッドからゆっくりと出れば窓辺へと歩み、外を眺める。]
・・・出ようと思えば出られそうね。
出たいと思う理由もないけど。
[同様に、居たいというほどの理由もなく。]
あら。外側の壁はなかなかに硬いわね。
[そう呟き、冷水を入れてクイと飲み干し、着替えにかかる。]
[料理など出来る筈も無くなんとは無しに視線は食べ物を探し彷徨い]
………
[視線は籠に盛られた林檎に釘付けになりそっと手を伸ばし――]
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