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[彼女の所作に、きょとんとして。
ようやく言いたいことを理解する。]
お母さんが、子どもにする、みたいなことだね。
いけないこと、じゃないけど
仲のいい人じゃないと、厭かもしれないよ?
あ、それと男の人だったら、ドキドキしちゃって困るかもしれないね。だって恋人同士がすることみたいなんだもん。
[そういうのって憧れるなぁ。と願望を付け加えた]
「そっか、厭、だったんだ」
[謝らないと、と唇は更に小さく呟き、続く言葉にきょとんと瞬き]
「恋人、同士」
[不思議そうに少女を見詰め]
………
[思案気に瞳を覗く]
普通はしない、こと、だから。
びっくりしちゃったのかもしれない。
厭だったかどうかは、わからないよ。
[けれど、謝らないと――その言葉には、小さく頷いて。]
そう。恋人同士。逆にナイジェルだって、相手が好きな人じゃないと、そんなことしたくないでしょ?
……ナイジェルはその人のこと、好きなんだね。
[誰かのかな。と笑みを浮かべて、
着替えを手にナイジェルに背を向ける。
彼女の見えない角度。
ふっと寂しげな表情を浮かべていた。]
[――普通はしない、こと]
[紫水晶の焦点は刹那遠退いて瞬き、頷く少女にこくりと頷き返し、続く好きなのかと言う問いにも頷いたけれど其れは一度目より何処か曖昧で]
「シャーロットも、好き
でも、厭なら、舐めない」
[誰かと問われれば隠す様子も無く]
「ナサニエル」
[少女が背を向けるのに服を抱えて其の様子を見詰め]
[――かたり。
グラスに指が触れる音で浅い眠りは破られる。
体を起こせば静寂を保ったまま誰もおらぬ室内を見渡し。]
――……何も無さ過ぎるのも、な。
[アーヴァインがあれから来た様子もなく。
体を起こすと、カウンターに追いてあった灰皿を引き寄せ。
細い紙巻煙草に火をつける。]
え、あ、ぃぁ……――
[ちら、と菫の少女を見ては、呟くように言う。]
わたしは、厭じゃない。
ナイジェルのこと、好きだから。
[――ナサニエル。
其の名に、複雑でありながらも、何処かで安堵。彼は良い人。彼なら。ナイジェルにも優しくしてくれると。そう思うから。]
わたしは。
ただ、ナイジェルに幸せになって欲しいだけ。
もう傷ついたりしないで。優しい人と一緒にいて欲しい。
ナサニエルさんなら……
[いいと、思う。
呟き。彼の多くを知っているわけではないけれど
印象はとても良い男性だから。――彼なら。]
[夕べの晩餐の残りを昼食にとり、ソファで食後のティーを飲む。
何をするでもなくただ時間が過ぎて行くのにため息をひとつ落とせば、鞄の中からオレンジのラベルの薬を取り出し水に溶かして飲み干す。]
――死なないから、生きてる。
仕事も遊びも、いつだって命を゙賭げてるのにね?
[自嘲気味に笑うと、食器類を片付けて昨晩持ち帰った皿を手に部屋を出る。]
[――ナイジェルのこと、好きだから]
[きょとん]
[紫水晶に浮かぶは驚愕か恐怖か]
「シャーロットは、傷つけ無いって、言って呉れた」
[自身へと向けられる好意は暴力だとでも思っているのか、其れでも目の前の優しい少女を信じたいと、何処か縋る様に身を竦めた侭に見詰め]
「幸せ」
[微かに脅えは残ってもまたきょとんとすれば、其れが何かも判らぬ様子で首を傾げ、一緒にいて欲しいと言う言葉にはふるふる首を振り]
「ナサニエルは、最初から、無ければ、良いって」
……どうしてそんな顔するの?
わたしのこと、こわい?
[悲しげにナイジェルを見つめる。
彼女の感情は、未だわからないことがたくさんあって
どうしたら笑ってくれるのか。一体何に怯えてしまうのか。
否定するように首を振り、唇が紡ぐ言葉。
思わず、声を荒げた]
そんなの――ッ!
ナサニエルさんが間違ってる。間違ってる!
わたしは幸せになりたいよ。でもなれなかった。
幸せにしてくれる人に会いたかった。でも会えなかった。
わたしはずっとずっと、幸せに、なりたいだけだった、なのに
――……。
幸せが無くなっちゃったら
何の為に生きているかすら、わからないよ。
最初から何も無いなら――ずっと幸せになれないよ。
[誰ともすれ違うことなく厨房へ皿を戻し、広間に少し立ち止まる。]
――そういえば、バーカウンターがあるとか言ってたわね。
[ぼんやりと思い出して、気まぐれに行ってみようかと歩み始める。]
[シガレットを咥えたまま、気紛れにキューを手に取ってみる。
これも結構上等のものだ――恐らく。]
……ビリヤードを嗜む人間もいないのに。
囚人に与えるには破格じゃないか?
[持ち上げてみれば腕輪がしゃらりとシャツの上を滑る。
ここで隠しても無意味だと判ってからは気にしていない。
ただこれを外されないということは、釈放されたというわけではないのだろう。]
「痛い事、しない」
[少女を窺う様に首を傾げ傷だらけの手は着替えをきゅうと抱き、急に声を荒げる様子に更に身を竦めるも、紡がれる言葉にか少女の様子にか服を掴んだ手は僅か動き、暫く逡巡してから恐る恐る震える手を伸ばし中空で頭を撫でるふりをして]
「シャーロットの、欲しいもの、もう、何処にも、無いの、かな」
[呟く言葉に幸せが何かも判らぬからか曖昧に首を振り]
「シャーロットは、優しい」
[ビリヤードがあった部屋だと思い出しながら、ノックもせずにノブを回し、扉を開ける。]
――あら失礼。先客がいたのね。
[咥え煙草でキューを持つ牧師の姿を認めればさして悪びれた様子もなくそう告げる。]
ビリヤード、お好きなの?
[首を傾げながらそう聞いて、ゆっくりと中に入る。]
[唐突にドアが開く音に、身構えかけて。
女の姿を認めると、一つ、紫煙と一緒に息を吐く。]
……貴方ですか。
驚かさないでくださいよ。
[かたりとキューを台の上に置くと]
別に好きってわけじゃないですよ。
暇つぶしにやったことならありますけどね。
……しないよ。
……ナイジェルには、しない。
[もう何度も繰り返した気がする。
それでも伝えたくて。真摯に告げる。
ふわりと。菫の少女の手が宙へ。
撫でるような仕草に、弱く微笑んだ。]
罰が与えられているなら、もう幸せになんて、
なれないんだと思うよ。
幸せにして欲しい人が居たの。大好きだった。好きで好きで仕方なくて、わたしは彼女と『同一』になりたかった。でも、彼女はわたしを『拒絶』した。
――そこからの記憶は曖昧だけど。気づいたら、わたしの目の前で、血まみれで死んじゃってた。わたしが、殺しちゃった。
[すい、と追憶のように視線を上げ、
忘れかけていた涙が滲む感覚に、唇を噛む]
優しさなんて、偽善と表裏一体、だ。
人がいると思ってなかったの。
[ごめんなさいね?と告げる声はいつも通りで。]
ビリヤードは、私もやったことがある程度ね。
自分からやろうなんてのもまず思わないし。
[賭け事として楽しんだくらいか、と頭の中で過去を振り返る。]
……まぁ、そりゃそうでしょうね。
[灰皿にシガレットを押し付ける。
台の上に散らばったボールを手で弄びながら]
何事にも受身なんですね。
――そうして何にも興味を惹かれなさそうな貴方が。
どうして囚人なのか、理解しがたい。
[別段、追及する様子ではなく、単純にそう思っただけな様子で。
ころりと白い玉を転がすと他の球にぶつかる硬質な音が響く。]
「好き、でも、殴らないの」
[真摯な声音は届いたけれどそれこそが以外だとでも言う様に瞬き、中空を撫でた手をおろせば何処か儚い微笑みにふわと微笑み返し、少女の紡ぐ言葉を聴き唇を噛む様子をじっと見詰め]
「幸せって、良く、判らない、けど
悪い事、したら、怒られる、けど
シャーロットは、良い事も、してる、から
罰が、当たる、なら、ご褒美も、貰えると、思う」
[一つ一つ言葉を選びたどたどしく唇に言の葉を乗せ]
「若し、偽善でも、シャーロットが、優しくて、私は、嬉しい
其れじゃ、駄目、なの」
[彼女の唇の紡ぐこと。彼女の意外そうな表情。彼女の考えていることの一端が、見えた気がした。
ナイジェルの肩をぐっと掴み、片手をひゅ、と振り上げた]
貴女を好きな人は、貴女を殴るの?
じゃあわたしは、貴女を殴るべきなの?
[振り上げた手。――震えて。すとん、と、彼女の肩に落ちた。弱い笑みのまま、ゆるゆると首を振る]
そんなのおかしいよ。
好きだから、傷つけたくないんだよ。
そう思うことはナイジェルにとってはおかしいのかな。
[両肩に置いた手。そのまま、そっと少女に緩く、抱きついて]
ご褒美――うん。貰えたら、いいな。
[へらりとしまりのない笑顔で相槌を打って。
続く言葉に、ぱちりと、瞬き]
……駄目?
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