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[無理は全くしていない――人のベットに半ば無断で寝転んでおいて無理も何も無い――だろうけれど、ナサニエルの動く衣擦れの音に意識は其方へと向くも、口許に引かれた薄い笑みは直ぐに消え去る事無く、掌で解ける雪の如く緩やかに解ける。
短い問い掛けの声と傍らに落ち着くらしき気配に、目許から腕を退け緩やかに瞼を下ろし、おろした腕ははたりと傍のナサニエルの方へ倒れ込み、其処に彼の在るのを確認する如く指先は軽く其の頬をなぞりおりる]
――…
[何か紡ぎかけた口唇は音を発する事無く、若し更なる説明を求められたとしても、返るのは規則正しい静かな寝息と、幼子の如きあどけない*寝顔だけで*]
また減った…。
[ぽつり]
[ひとけのない通路で零す。ほどなくオペレーションルームに到着し―ここもひとけがない―]
無責任で不用意。
…そんな人もともとこの船には必要ない。
[低重力の室内で、揺れるおさげ。シートに腰をおろしてモニタを正面に見据える。ログを辿っても補給衛星までの距離・日数が出た様子はない]
還れるの…?
[今いる場所と体勢からでは相手の顔をうかがい知ることは出来ないけれど、問いの答えを待つ間はずっと宙を見つめていて、けれどふいに何かが頬に触れたのに視線をそちらを向けると、そこにあるのは指。]
……ギル?
[立ち上がり、彼の顔を覗いてみたけれど、紡がれなかった言葉を読み取るには至らず、あどけない寝顔を見つめて溜息一つ。]
こんな半端な体勢で……ったく。
[そう言って、きちんとベッドに乗せてからブランケットの一つもかけて頭を一撫で。
別段熱があるとか、身体に異常があるというわけでなさそうなのを確かめると、その表情を再び見て暫し考える素振りをしてから、テーブルに水とコップを置いたまま部屋を後にする。]
[パネルに触れて、遠く在る太陽をズームするが他の一恒星とかわりないほどに小さい。地球など当然見えもせず。しばらくの間、ぼんやりと見入っていた]
…遠い。
[その口は事実しか述べはしない]
[ぽん][軽くパネルに触れて画面を閉じる。表示されているのは現在の宙域の状態だ。デブリも無く良い状態と言える]
上々。これで食糧不足と脱走が無ければ最高。
軌道は………
[陽気な同僚のとったデータを呼び出して]
[画面上に弧を描く軌道が表示され]
交差軌道上に異物無し…。
――――…退屈。
退屈で死ねたら、とっくに死んでるわ。
[シートの背凭れに体を預けてモニタから目を離す。その視線は宙を彷徨って何も捉えず]
[闇にも光にも抗うのをやめたのは何時の事だったのか、気付けば見えない事が普通だと感じる様に成って、見るのを止めた目を補う如くか聴覚や触覚は――別段に視覚も肉体的に問題は無かったのだけれど――発達したのだから、研究は本来の予想を超えるこの上ない成功例を創りあげたのだろう。
そんな身体の何処かに闇に侵食される何かが残っているのかも疑わしいのだけれど、久しく感じる事の無かった視界の揺らぐ感覚は新鮮で、あの時から眠り続けてきた本能は微かに身じろいだか]
[――闇に?]
[眠気に抗いもせず声は返さない儘]
――…ナサニエルに。
[口唇だけが侵食の主を微か囁いた]
[部屋で流石に煙草を吸う気にもなれず、今は体力の温存も大事だから睡眠の邪魔をしないよう出てみたものの]
えーっと?
とりあえず出たけど、どうしようかな。
[などとさして興味もなさそうに呟いてみる。
減った人間を考えるよりも居る人間を認識した方がもはや早いくらいにはなっていて、ふと煙草嫌いな同僚はまだいるだろうか――いるだろう――と、時折遊びに行くオペレーションルームに足を運んで。
減った人通りを考えつつ、部屋の前までくると何の確認もなしに入り、彼女を見つければ一言。]
退屈そうだな。
/*
一人で色々移動してるとどうもダメ人間な気が(笑)
中核部行って頭撫でられてチェスして煙草吸って吸わせて
相手が意識飛んだら外でて別の人。
皆と絡むってなかなか馬鹿っ子ルートだ(くすくす
[どのくらいの間、宙を見上げていたろうか。気づけば同僚がシートの後ろに立っていて。首を反らし見上げるように]
…見て分かるでしょ。すること、ないの。
そっちも暇ね。ここが暇なんだから。
[すん、と鼻を鳴らし、元の姿勢に戻る。今度は振り返って]
―――煙草臭い。
まーな。
こっちが暇なら俺が暇なのも当たり前か。
[ふー、と息を吐いて、紡がれた言葉に]
ああ、さっきまで吸ってたから。
[悪びれた様子もなくしれっと。]
そう、当たり前。
[眼鏡のブリッジを持ち上げながらやや上目遣いに軽く睨み]
非常識だって、言わなかった?
食料と同じでいつ空気清浄機が壊れるかわからないのに、無駄に空気を汚すなんて。あなたが排出したケムリまみれの空気を清浄にするのにどれだけの時間とエネルギーがかかるか、今度計算してみたら良い。
それと、依存性・体に及ぼす影響は多大。呼吸器系に問題が出たら宇宙(そと)に出られなくなるのはあなた。もっと自分の仕事に対して、責任と管理意識を持つべき。
[淡々と言葉を紡ぐ。淀みなく言い放って視線をそらした]
****
黒は闇に似てる
闇は黒に似てない
黒の侵食は死の足音
闇の侵食は無の足音
似て非なる異物に
――…侵食される
****
[上目遣いに睨まれても平然と相手を見据えて]
非常識だって、言われたな。
でも生憎と常識なんてのはその場の環境が作るものであって
喫煙スペースや個人の部屋があるという時点で俺が吸うことに一応の正義はあるわけだ。
吸ってはならない区画で吸ったこともないし。
――計算なんて面倒くさい。
[別段怒った様子も何もなく、理屈を並べて返す。
続いた言葉には僅かに瞳の色が揺れて]
依存性……わかってて吸い始めたんだから仕方ないだろう。
ニコチンがきれたらそれこそきっと手元が狂うかもな。
仕事が出来なくなったら――その時はその時。
どのみちもう、そんなにたくさん残ってないんだけどさ。
[長い長い旅の復路。
彼の部屋の棚がすかすかなのは殆ど煙草だったのかもしれない。]
[軽く伸びをして、もしかしたら更なる反論もあったかもしれないけれど、其の件でお互いに理解しあうことは不可能だろうから、適当に返事をするか軽く流して]
まあなんだ。
俺が退屈なことは船にとっては良いことだけど……
こっちが良い意味で退屈じゃなくなるといいな。
[そうしていつものように頭に手をぽん、と一度だけ置いてから後ろ手に手を振って――とはいえ正面を見て座ったままでは見えないだろうけど――部屋を後にする。]
―夢―
[暖かな日溜りの中で浅黄色のベンチに座り若草色の芝生を見詰めていると、瑠璃色の空から吹き抜ける風は優しく芝を舐め、癖のある柔らかな褐色の髪も攫っていくから、幼い彼は伽羅色の双眸を細めて其れを見送る。
不意に降り注ぐ柔らかな光が遮られるのに視線を移すと、目の前には幼い彼を覆いつくして余りある大きな影の持ち主が立っていたけれど、逆光に遮られ闇を纏う人物の貌は見えない]
誰?
[首を傾げ問い掛けるも答える声は無く、刹那瞬く瞳は緩やかに闇に侵食され、ベンチも草原も空も飲み込まれて何も見えなくなり、気付くと何時の間にか闇の中にぽつねんと立ち尽くして居る。
少年の彼は途方に呉れ前後上下左右を見回すけれど視界には何も映らず、瞬けども瞬けども瞼をおろしてもあげても何も変わらなくて、自身が目を開けているのか如何か不安に成っていく]
この船に喫煙スペースが在ること自体非常識。
有限な資源である空気を何だと思ってるのかしら。
……面倒なら今度計算してあげる。
[真っ直ぐにモニタを見つめる。眼鏡にはモニタの光が映りこむ]
手元が狂った時のフォローには限りがあるんだから、自己管理意識を持って、と言ったの。
それに、信頼できる船外活動員は今のところナサ一人。他はアテにならない。技術はいいんだからもったいない。ナサのオペレーションをできなくなる日が来ないことを願うわ。
[ぽん、と頭に置かれた手はあたたかかった]
……―――そうね。
その時用にそっちも準備だけはしておいて。
[振り返らず、気配が去っていくのを感じていた]
[眠った儘に伸ばした手は何かを探す様にふらりと彷徨い、重力装置のスイッチを手に取ると――常の癖なのか――電源をオフにし、一度だけゆっくりと息を吐くと宙に漂うスイッチを気に留める事も無く、何事も無かったかの様に変わらぬ規則正しい*寝息を立て*]
[去り際の声を頭で反芻しつつ、少し瞳は楽しげで。]
煙草がある方が効率上がるってヤツも多いけど
最初から吸わなければそうでもなかったかな――?
[呟きは静かな通路に溶けて。
以降の言葉は妙に頭に残って、ふぅ、と溜息。
彼女の頭に置いた手を一拍見つめてから部屋に戻る。]
……――ただい……ま?
[部屋に戻った直後の自分は多分今までにないくらいにきょとん顔で、彼が起きていたならまた不思議そうにか見つめられたかもしれないけれど、数度瞬いて違和感に気付く。]
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