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「契約」の内容、ねぇ……
[ティーカップの中身をほぼ飲み干し、それを灰皿替わりにしている。]
……ま、生者だろうが死者だろうが、「なって欲しい」モンになるのが俺の「役割」だ。確かに死者の方が、ホンモノさんが死んでる分、ラクにやりやすいが……必要とあらば生者の役割もやるよ。
[ヒューバートの目をじっと見て居る。]
………で?
ひょっとしてアンタ、俺と「契約」結びたいの?
演じて欲しいのは、亡くなったエリザ夫人?それとも、愛娘シャーロット嬢?
カラダは改造できねぇけど、投影するならご自由に。
……人間の想像力ってのは、案外すげぇぞ。
望めば、目の前の男が10歳に満たない娘にも見えるくらいだからなァ。
だが、“ネイ”のことを覚えていないのに、彼女に“なる”ことができるものなのかい?
様子を訊いたとは云っても、簡単なことではないんじゃないか?
いったいどうやって――
[ひどく渇きを感じる。暑い。ポロの襟元を引き、喉元を外気にあてた。
掠れた声が喉の奥から絞り出る。]
できることなら――
――聞きたい
……彼女の言葉を……
喪って悔いばかりが残る。
彼女に伝えたいことがたくさんあった。
私の娘を――
ふぅん……
ま、娘も父親から離れる時期なンかね。
あんたの娘……歳いくつだったっけ?
[微かに褐色の水が残るティーカップの中に灰を落とす。]
……まあいいや。
ああ、「ネイ」の話な。
「ネイ」の様子は……多分、あんたが想像しているより、もっと深く訊いてる。好きなモンや嫌いなモンだけじゃなく、もっと細かい所もな。……ま、その辺の詳しいことはいわゆる「企業秘密」ってヴェールに包ませて貰うが。
あとは、「契約」相手がどれくらい相手を激しく求めているかにもよるな。ポイントは、「いかに正確に再現するか」じゃあない。「いかに相手の『理想』を具現化するか」にあるんだ。相手の想像力に頼り、それをさらに掻き立てる。
……そういう意味じゃあ、あんたの奥方はすげぇ人だったがな。
………残念ながら。
俺は直接「あんたの娘の声」を再現できるワケじゃァない。どっかの島国のシャーマンとやらは、祖先の霊をその身に下ろすことができるらしいが……あいにく俺は、そういう類の人間じゃねぇ。
俺が演るのは、「あんたの理想」に過ぎない。
あんたが「許して欲しい」と言って欲しいならそう言うし、「許さず罵倒して欲しい」ンならばそうするまでだ。
結局、全ては「契約」相手次第ってヤツだ。
それに………
その日記を読んだなら、分かるはずだが。
[間を置き、紫煙を吐き出す。]
俺との「契約」は、必ず「肉体関係」を伴うモンだが……なァ?
あんた、それ知ってて俺に「娘を演ってくれ」って、言ってンの?
[ブルーグリーンの瞳で、ヒューバートの目を凝視する。]
[ナサニエルの言葉に耳を傾ける。“契約”についての一言も聞き漏らさぬように。
今は、追うべき“人狼”のことよりも事件の謎のことよりも、契約のことで頭が一杯になっていた。
「どれくらい相手を激しく求めているか」――
――ああ、それは疑問の余地がなかった。
私は呪わしいほどに彼女を求め続けていたからだ。]
ああ、わかった。
霊を下ろすわけではないということも――
だが、私はそれでも……
ただ、言葉を聞きたい――
そそ、そうなのか――っ
[「肉体関係」と聞いて、思わず目を白黒させた。瞬時に顔が紅潮する。]
あ、っと……
えぇ……っと……
……そいつは…考えてなかったな……
[少しだけ、眉を蹙めた。しばしあって、動揺に声を上擦らせながら、おずおずと問いかけた]
へ、変則的だが……
SMの一種でその代わりとすることはできないだろうか
[我ながら、何を云っているんだと思った]
……すまん
私は娘に懲罰を与えたいらしい。
[今までの人生で、これほどまでに羞恥に満ちた瞬間があっただろうか。恥の多い人生を送ってきたとはいえ。
内心、消え入りたい気持ちでぽそりと口にしていた]
オーケイ。
[白いシャツを脱ぎ捨て、タンクトップと黒いズボンという姿になった。左腕に薔薇のタトゥー、背中には羽根のタトゥーが現れる。]
………なんなら、今すぐでもいいけど、ね。
道具欲しい?必要ならば、あるけど。
ま……俺を殺したり身体のどっかを奪わないなら、好きにすりゃァいいさ。
[カップの中に、煙草を放り込んだ。]
[肩からかかっているホーンブックに一瞬手を触れ、
すぐに手を離すと、ふるふると首を振った]
ああっくそっ!
で、できるなら頼んでもかまわないだろうか――
[シャーロットの服装・格好を伝え、右手には包帯を巻いていたことを語っていた]
りょーかい。ちょっと待ってろ。
[ナサニエルは部屋を出て、救急箱から包帯を取り出し、ヒューバートが指定した通りに巻いた。]
服、は………
[準備時間が足りない……と、ナサニエルは舌打ちした。そこにいるネリーから服をはぎ取っても良かったが、ギルバートの手前、それはできない。]
………………。
[上半身を裸にし、しばし考え込む。そして――]
[ナサニエルは、ヒューバートの待つ部屋に戻ってきた。
扉を静かに開けたその表情は、伏目がちに――]
[少し躊躇したような様子を見せて、「娘」はふと顔を上げた。]
[服の代わりに纏うのは、肌触りの佳さそうな、まだ使われた形跡の無い純白のシーツ。尻の奥には、ローションをたっぷりと塗り付けてあった。]
『ああ……やべぇ。
これ、最高に恥ずかしいぞ。
俺、どうすんだ……』
[女を買ったことも、いかがわしい店に遊びに行ったことも、ないではない。だが、これはそれらのどれとも違っていた。
心を丸裸にされるようなものなのだ。
私にそんなことが耐えられるのかどうか、動揺しながら煩悶していた。
ナサニエルは、包帯を取りに行ってくれた。
服はこの際着ていなくても問題のないものだったが、包帯だけはこの瞬間必要なもので、私はそれがここにあったことに安堵した]
―小部屋―
[ナサニエルが部屋に入ってきた時、その雰囲気は一変していた。
伏目がちな表情、少し首を傾けた時の繊細な為草――]
ろ、ロティ……
[思わず呟いていた。
一瞬、泪で視界が滲みそうになる。
私の記憶の中に焼き付けられた彼女の姿が、そこにありありと甦っていた]
[ヒューバートの「娘」は、哀しげな表情で椅子に座る。――先ほどまで悪態をつきながら、無礼極まりない表情で居た、その椅子に。
身に纏ったシーツが肩から静かに落ちそうになるのを、右手の指先でそっと掬い上げた。]
[「娘」は、月明りが覗く窓の外を、無言でじぃっと見つめて居る――]
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