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…ナイジェル。
[目覚めたナサニエルはその次の瞬間から、近くに居てくれたのだとわかる少女の寝顔を見つめ、そっと手を取る。
幸せな夢を見たように思った。
広いだけの暗い世界、光も暖かさも無くそれを求めて彷徨い――]
手を差しのべてくれた天使が、おまえの顔をしてた気がする。
[神聖なものに口付けるように少女の手へ触れるか触れないかのキスを落として、ベッドで眠るシャーロットと揃いの青いワンピースを身に纏っていることに小さく笑う]
そうしてると、まるで…姉妹みたいだ。
[夜の闇の中に色を失ったシャーロットの白い頬が浮かび上がる。
染めるあかを除けば、シーツにくるまるその姿は、待ち人から目覚めるための口付けを待つ姫のようですらある]
…おまえがキスしてやったら、今にも起きてきそうだなナイジェル。
[――瞬間のフラッシュバック。
彼女を永遠の眠りにつかせた少女は、揺れる瞳でナイフを胸に突き立て……
ナサニエル.はゆるり、首を振る。
まだ体温の残るブランケットで少女の体を包み]
水、飲んでくるね…
[机の上に小瓶を並べて。現状残っている香水の量を確認する]
…この辺はここでは使わないわね。
使うものだと…火炎、火滅、加速、それに不可視かしら。
この辺りは追加出来るから大丈夫ね。
問題は、赤死と爆炎…量も少ないか。
手元の材料では追加は無理ね…回数も残り1回ってところだわ。
無駄遣いは、禁物ね。
[最初の4つをホルダーに据え付け、残りの2つをひとまず横に置く]
後使いそうなのは…催眠と時限?
時限よりは、腐食かしらね。
[新たに出した小瓶をまたホルダーに付け、しばらく悩んでから爆炎の小瓶をホルダーに付ける。ホルダーには7つの香水。己が愛用する獲物──毒香水]
トマトケチャップじゃあ、なさそうだ。
[血を拭っているらしいルーサーに皮肉な調子で声をかけても、顔は色を失っていき、声が掠れる]
…他にも誰か、死んで――?
[心臓はごとごとと音をたててナサニエルを苛む。
壁に手をやり広間から顔を背けても、喉の渇きはより激しくなった]
[やはり夥しい量の血は拭き取れるものではなく。
さてどうしたものかと思案に暮れながら]
……トマトジュースでもありませんね。
ネリーさんが死にました。
恐らく人狼に……
[小さく首を振る。]
昨日使ったのは打ち止めかしらね。
次やる時は催眠で眠らせてやるしか無いかしら。
眠らせてしまえば、抵抗も出来ないわね。
[クスリと口元に笑みを浮かべ。使わない小瓶を革カバンに仕舞い込んだ]
赤死が使えたら…綺麗な紅を一気に溢れ出させることが出来るのに──。
ネリーが……!
[湯気のたつ料理を抱えて広間へ入ってきた時の、彼女の姿がありありと浮かび上がる。
たくさんの者達に手伝われて楽しそうに笑っていたのは、ついこの間のことだったのに。
恐らく負っていたのであろう辛さや悲しみを洩らすことなく、ネリーを思い出す時浮かぶのは、彼女の人を気遣う微笑ばかり。
――だがそれが二度と還ってこないことを悲しく思うよりも、ナサニエルは今]
人狼がネリーを殺すところを、……誰か見たのか?
……いえ。
ほんの一瞬、目を逸らしていた間に。
殺されてましたよ。
あんな一瞬の間に人一人殺せる人なんて……
普通いないでしょうよ。
[ネリーの首を裂き、それを悟られずに居られる者など。]
そう、か…。
[ナサニエルは小さく息を吐く。
…少女が昨日シャーロットを手にかけたのが中に居るセシリアのせいではなく、人狼の薬のせいだったなら?
そう生まれた思いからか、人狼がネリーを殺すところを見た者がいないと聞き、がっかりしているのかほっとしているのかわからない]
ほんの一瞬目を逸らしていた間に。
確かにそれは、普通じゃない。
[いや、ほっとしているのかもしれない。
そんな人狼が屋敷に潜んでいるという恐怖よりも何よりも、尋常ならざる殺し方は、少女のそれと合致していない]
ネリーはどこか、別の場所に移したんだな。
…血を拭くの、手伝おうか。
[ベッドの中で身を縮めた状態でゆっくりと瞼を開く。眠れた感じがしない。目をつぶれば昨日のネリーの姿が浮かんできて。その度に涙を流して。今ではもう出ないのではないかと思うくらいに零し続けた。ゆらりと起き上がれば浴室へと向かい。鏡で己の顔を見れば眉を顰める]
…酷い顔。
[涙の痕を流し、泣きはらした眼を癒すかのようにシャワーを浴び、クローゼットから黒のワンピースと同じく黒のジャケットを取り出し着替える。それはまるで喪服のように見えるか]
[部屋を出れば皆の居そうな場所──広間へ足を向けるが、入り口手前でぴたりと足が止まる。昨日の事が甦り、足を進めることを拒む。一度深呼吸して気を落ち着け、どうにか一歩踏み出して]
…こん、ばんは。
[中に居たルーサーとナサニエルに挨拶する。その顔には強張った微笑が張り付いているのだが]
[目覚めると部屋は仄か月明かりに照らされ暗く、男の姿はソファに無く変わりにブランケットに包まれていて、移した視線の先で青の少女は目覚める筈も無く眠り続けて居て、ゆらりと立ち上がればクロークからレースのポシェットを取り出し、其処に入っている首輪を確認して硝子細工の聖母を入れ、肩から斜めにかけてベットへと歩み寄り、青の少女の頬をそっと撫ぜ]
「行って、来る」
[囁いて広間へと向かい其処に居る人達の声に入り口で立ち止まり、ゆっくりと瞬いて一拍の間を置きぺこりと一礼して、あかの残るソファへと視線を留めて微か眉根を寄せ瞑目]
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