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[内的必然性に駆られたセシリアが気付く事は無かったが、シャロンは、セクサロイドでもあり、その他AIとしても偏ったセシリアに、教団脱会を促すためのひとつの試みとして「駄洒落が酷い男」の未公開映像を、送ったのかも*しれなかった*。]
―― 電脳世界<Utopia>/Closed・魔窟 ――
[グルル]
[三つ首の魔獣の唸り声をBGMに、黒は目を閉じている]
[揺り篭で眠るように静止/溜まった情報(データ)を最適化]
[手紙/贄/光点の有無/生身/犯人/夢の神(ネオイロス)]
[得たキーワードを組み合わせ、現在の状況と対策を演算]
[目指すべきは、最も速やかなUtopia(楽園)の奪回手段]
[グルル]
[電脳魔獣ケルベロスは低く唸る/諌言する]
得た獲物(データ)の価値と同じだけ負傷(エラー)が大きい。
いつUpperやPublicのように断絶され、バックアップが効かなくなるかもわからん。
出来るだけ回復してから動け。
[動くなとは言わない/残り時間は確実に減っていっている]
[漆黒の睫毛が開き、黒目が現れる/瞳孔は小さい]
《ワカッテイル》
[一言だけ返し、膝を抱えていた姿勢を解く]
[腕は2本/本来の位置より低めに生えた右の手は指先まで漆黒]
[食い千切られた腕の破片(クラスタ)は腹の中]
《召喚管理PGM(目次)ガナクテハ、
魔窟(データ領域)カラ魔獣(データ)ヲ召喚(呼ビ出セ)ナイ》
[電脳通信と同時に、左腕の漆黒に0と1の魔法陣が浮かぶ]
[羽毛のクラスタが舞う背に跨り、長い首に漆黒の腕が巻きつく]
[魔獣の回復PGMをもっても、修復にはまだ時間がかかるだろう]
[それでも優先されるのは、魔窟への侵略前に要因の解明/排除]
行クゾ。
[三つ首の番犬を残し電脳世界の海を渡る]
[多くの要因が集う場所、*現実世界<Mundane>へ*]
そう?
トビーの義体が走ることに特化してるなら別だけどね。
じゃ、あたしも自分の足で走ったげる。
[笑うトビーに対し、自信ありげに口の端をにっ、と上げて]
んじゃ、先行くよー。
[跳んで、方向転換すると、一角獣へと向けて走り出した]
[風を切る。走る事は余り慣れていない為か、膝が軋んだ]
さすがに滑るのと走るのは、違うなぁ。
でも。
[振り返れば、トビーはまだ後方]
……なんか、投げてる気がする!
[言葉にする間にも、一角獣の元へと辿り着く]
[一角獣を撫でようと手を伸ばす]
ユニコーンって清純な乙女じゃないと嫌われるとかそんなのあったよね。
清純じゃないかもだけど、ごめんね?
[鬣をそろりと撫で、逃げる様子がないのに*にこりと微笑んだ*]
[白亜の階段を翔ぶように降り、暫く走ったかと思うと走りを緩めた。]
[彼方へ走り続けるメイの後ろ姿を眺め、頬を緩ませる――笑み、それはある意味不要な行為。動作の労力。]
――Stella.
――Daiaconus ;urbs ;T ;060531.
[パイプを取り出し、]
Mayをどう"思う"かね?
また、自身の設計者製作者(神たる父)を。
工業製品と同じく、相似なる存在は数限りなく存在している。
[鷲のパイプを取り出し口にくわえると、ホログラムの煙が立ち上る。パイプの基幹Systemに這入り、その身(PGM)を煙の魔神のように現す事も可能だが、その身がパイプに宿る事はパイプに封印される危険性もある。]
[勿論、単なるAccessによる出現も可能だろうが、強引なAccessはこの"指揮者"の好むところではない。]
[ドリス、黒<カーリー>と名乗ったAIに渡した連絡用CODEは、用心の為だろう電脳への直接会話ではなく、一旦対話前に時間を置くものだった。
相手が譜を開き求めるなら、88の鍵盤達にコールサインが届き、会話自体は容易く行える。
が、今は此方からは働きかけをしようとは思っていないようだ。]
ユニコーンは、コルプス・アルベフィカティオニスの古代象徴。
彼の白は純潔の象徴、三日月、イシュタル、イシス、アルテミス、天の母なる処女を表すけれど、ユニコーン自身が純潔とは限らない。
[頬の向こう側でホログラムの煙が立ち昇っている。]
これで都市を移動しても速いだろうね。
― 現実世界<Mundane>/南部電脳街:SBY109 Theater前 ―
「姉様もすこやかに。」
「またお会いしましょう――」
[双子はセシリアの姿を見送った。]
《姉さまはどうやって人間に――》
《――その秘密が知りたい……》
[後ろ姿に向けて呟きのように発せられた思念は、少女に届いたかどうか――。
双子のMannequinは彼女の姿が見えなくなるまでそこに佇んでいた。]
― 現実世界<Mundane>/南部電脳街:SBY109 Theater ―
あるえー
セシリアちゃん?
[彼女も電脳に接続できるだろうかと問おうとマシンルームの戸口を振り返ると、そこにセシリアの姿はなかった。
階下に降りれば、エントランスの前に双子が行儀良く並んで通りの向こうを見つめている。]
(ああ……)
[今はオーキッドパープルの髪を揺らしていたが、そのシルエットはセシリアのものだった。小さな影は角を曲がり、消えた。]
帰っちゃったのか……。
[ゆるくウェーブがかった髪を、少しバツが悪そうに掻き混ぜる。
双子がこちらに向き直ると、別れ際の映像を転送してくれた。]
……また会えるかな。
聞きたかったことが――たくさんあったんだが。
[失ってしまった機会に、少し残念そうに肩を窄めた。]
― 現実世界<Mundane>/
南部電脳街:Theater内 Machine Room ―
[マシンルームにあるコンソールを操作し、施設のセキュリティをオンにした。この事態だ。ダイブ中突然の来訪者があった時対応できる場所でなければ、長時間安心しての接続は求められない。
ここSBY109 TheaterとKosha Cyberneticsの間には、広帯域トラフィック用に専用線が引かれてある。壁面にはサーバマシンのラックが並び、室内にはコクーンの外観の遮蔽式のバーチャルリアリティマシンがいくつも設置されてある。
劇団メンバーのAIの調整や新規プログラムのインストール等々の目的にこうした設備が必要とされた。
双子とともにシートに横たわる。電脳化されている俺にはヘッドマウントディスプレイは必要ない。延髄の位置にあるコネクタにプラグを接続する。
すぐに意識はユートピアへと落ちていった。]
― 電脳世界<Utopia>/Under:遊園地 - Neverland ―
― 牧場 - Mudskipper Animal Kingdom ―
[鴉の群れがヒトガタの影となり、そこにインバネスマントを羽織った男が姿を現した。すぐ後方に幽鬼のように白髪をおどろに散らした双頭の老婆が佇んでいる。]
「おうおう、お前らよう。こいつは一体どうなってるんだ!」
[そこに“座長”が姿を現すや否や、板塀の影から学ランを身につけた猫がシルエットを浮かび上がらせた。]
「いつもにシケた牧場だけどよゥ。今日ときたら誰も来やしねェじゃねえか――」
[一定時間その場所へ管理者が存在しなければタイムアウトし、closed領域へ退避される設定にはなっていた。だが、接続中も人影一つ目にしなかったという。
都市の様子を見れば察しのつく状態ではあったが、改めて、世界の静寂が実感された。]
「ぁあ……」
「…ぁあぁあ……」
[双頭の老婆が首を揺らし、苦悶に喘ぐ。見れば、乾ききった肌は今や罅割れている。]
「……ひもじいぃ…」
「…喉がぁあ……」
[座長は無言で頷く。]
客が居ないならば――
……探しに行く他ないねェ。
[車輪のついたストリートオルガンを押し出した。]
― 電脳世界<Utopia>/Under:back alley 裏路地 ―
<<< ブンワッワ♪ ブンワッワ♪ >>>
<<< ドゥ〜ララ ラ〜ラ〜ラ〜 ラ〜ラ >>>
<<< ラ〜ラ〜ラ〜 ラ〜ラ ドゥ〜ララ〜♪ >>>
[ストリートオルガンを押しながら、街路を練り歩く。
音に誘われるように通りの角から人のかたちをした影が姿を現しては、一つ、また一つと増えていった。
どの影もこくり、こくりと首を揺らし、どこか定まらぬ姿勢のまま列をつくっている。
男は一区画を廻ったころ一区切りをつけ、音楽を止めた。
ストリートオルガンのミュージックロールを交換し、やにわに、集めた列の先頭の影に、ノズルのついたホースを近づける。]
サァさ。いただくよゥ
ちゅるりとな。
dream broadcasting system、始動――
[ハンドルを回す。軽妙な音楽と共に、影はつるつると機械の中へと吸い込まれてゆく。ストリートオルガンの上に載ったガラスの水槽のドームの中を、ゴボゴボと濁った澱みが昇ってゆく。
水槽の中の濁りはやがて沈殿しタールのような真っ黒な固まりとなって底に溜まった。ドームの天蓋には光の粒が小さくまとまって仄かな光を放ちながら浮かび上がっている。]
ぁあ――少ない
少ないねェ……
[男は残念そうに首を振った。
後ろに佇んでいた双頭の老婆が、耐えきれなくなったように急いた所作でガラスの球体に手を翳す。光は差し伸べられた掌に吸い寄せられ、消えた。
その刹那、ひび割れた肌がほんのわずか元へと戻った。]
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