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お前さんは味で見分けがつくのか?
[首筋、顔を離さずちらりと赤鬼見遣る]
かっかっか、良かったなぁ小娘。
己に唯喰われるよりは、身の潔白示して喰われたほうがまだ良かろうて。
――どのみち散りて終わるに変わりはないが。
[赤鬼喰ろうて此方に散る赤、毀れる墨色。
己の体に飛び散る前に赤を取り込み煤と変わる。
娘の体を伝う墨は蔦の如く娘の体を這いずりまさぐる]
あぁ、子供のその顔、久しぶりに食欲をそそるわ。
己は甘露な魂ひとつで充分よ。血肉は赤鬼が食らうと良いさ。
さぁて、――攫いて戻れよ。
[からり笑えば、娘の身体に巡る墨。
魂さらい青鬼の口へと滑り込む]
わらわを童よばわりとは――面白いことを言うのぅ。
わらわはいつも笑うておる。
[口元にあてた袖][見える緋色は笑みたたえ]
手の鳴る方――か。
[同じく見上げた山吹の月]
伊達に喰い散らかしちゃいねぇさ。
[にいと笑って食む血肉、べろりと舐めた己の手
山吹色を緋に染めた。
這いずり回る墨の色
白い喉が仰け反った]
旨ぇなあ。
その辺の子鬼とは違う味さあ。
土産はこいつにするかねぇ。
[引き出す臓腑は月夜に光り]
[ゆらり、魂攫えば、身を離し。
離れた木の幹背持たせて眺める。
呑まずに口の中転がす甘露は飴のよう]
かっかっか。
随分と趣味のいい土産だ。
喜ぶか頬叩かれるか見ものだねぇ。
[注ぐ月光、赤黒染めて藍の目ゆらり細く弧を描く]
相も変わらず血塗れのままか。
[くつくつ、相棒へと肩ゆらし。カラコロ幹離れ]
ああ。少しばかり血酔い覚まして帰るとするさ。
先に呑んでてくれよ。
[ふらり、カラコロ下駄鳴らし。散歩の心算で赤鬼別れ遠回り]
[浮く山吹に目を細め]
[笑みたたえたまま立ち上がり]
今度ははかないか――それもよかろう。
[カラリ][ココロ]
わらわはそろそろお暇しよう。
[泉に向かってあゆみだす]
おう、そんじゃあ待ってるぜえ。
[ひらっと手を振り櫻へと]
鬼さん此方、
手の鳴るほうへ。
[節つけ低くわらべ歌。]
目隠し鬼さん手の鳴るほうへ。
[さて鬼は誰なのか。
櫻の花びら近づいて]
[家へと戻る最中に]
[気配感じて下駄鳴らす]
――喰児と一緒ではなかったんかえ?
[いつものように][くすりと笑って近づいて]
[されど――嗚呼] [近づくにつれ笑み消えて]
[カラリコロリと下駄の音は][ふいに途絶えてしまうだろう]
――――――青司。
汝れの中に何ぞおるな。まさかそなた……
[眉を潜めて暫し見る]
[はらり][一筋伝った雫]
[ゆるりと首をふれば]
[霧の壁を作って泉への道へ*引き返す*]
[静まる宴] [転がる瓢箪] [白い手伸ばし] [一口煽る]
[空の瓢箪放り] [紅い番傘] [くるうり] [積もる花弁] [はらり]
嗚呼、嗚呼――
[番傘傾け] [覗き見る薄紅] [零れる吐息] [酒のせいか] [微か甘く]
[潤む隻眼] [すぃと眇め] [わらべ歌の声] [身を捻り] [顧みるは赤鬼]
嗚呼、喰児かィ。
お帰りィ。
[薔薇色の唇] [浮かぶ笑み] [艶を孕み] [濡れた隻眼] [弧を描く]
よう、碧。
戻ったぜえ。
なんだい、大分はけちまってるなあ。
[視線巡らす宴会場、残り香漂う櫻色。]
ほら、土産だ。
喰うかい?
[指すのは先程手に入れた品
緋色よりも淡いそれ]
皆お帰りさァ。
おや、土産は心の臓かえ?
魂は何処ぞへお逃げかィ。
[漂う薫り] [紅い血] [ニィと笑み] [白の手伸べ]
[くちゃり] [紅い紅い塊] [白の手に掴み] [一口齧る]
―――嗚呼…
美味しい、有難う、喰児。
何処の誰のか知らぬが、上もンだネェ。
[紅く染まる口許] [ちろり] [紅い舌が舐め] [ニィと笑む]
魂は相棒が持っていっちまったさあ。
アイツぁあっちのほうが好きみてぇだなあ。
[謂いつつ常盤の食む様子
眼を細めて見つめては]
そりゃあ良かった。
あんガキのだからなぁ。旨いだろうさ。
[笑みに笑みを返して見せて
残った血糊舐めとった]
好みが被っちまったかィ。
なンぞ二人で童相手に鬼ごっこかえ?
[ぴちゃり] [白い腕] [伝う紅] [舐め取り]
[一口] [また一口] [ゆるり] [舌の上転がし] [味わう]
嗚呼、美味しいヨゥ。
駄目だネェ、我慢がきかなくなりそうさァ。
[口に広がる] [甘露な紅] [飲み込み] [潤む隻眼瞬き]
[残り僅かな肉片] [すぃと赤鬼の口許へ] [差し出そうか]
相棒とも気が合うみてぇだよ。
有り難くご相伴に預かったってとこかねえ。
我慢振りきっちまったら
鬼ごっこも始まるかい?
[緋色の鬼は低く笑う。
たおやかな手に良く映える肉の欠片が差し出され
其の手をとって
ひと舐め喰らう最後の欠片。]
ああ、こりゃぁ美味ぇな。
この場所選んで正解だったぜ。
さァてネェ。
そこそこ楽しい鬼ごっこくらいなら近く出来そうだけどさァ。
[取られた手] [口に運ぶ肉] [紅でも引く様] [唇なぞり]
[紅く染まる] [元は白の五指] [丁寧に舐め] [ほぅと溜息]
ご馳走さン、美味しかったヨゥ。
肉を喰らうンなら心の臓だネェ。
そこそこかぁ。
どうせだったら盛大にやっちまいたいところだがねえ。
[血潮は甘露のように甘い。
細い指の感触に鬼は金の眼光らせる]
そう謂ってもらえんなら
土産持って帰ってきた甲斐があるってもんだ。
そうだなあ。心の臓が一番美味いさあ。
[手を伸ばす先には酒精、
血と肉と酒の三つ巴。]
[甘露一つ呑み干して。腹の中で時が経てばそのうち解けるか
煤覆う、腕の傷痕ぼうと眺めていればカラコロ下駄音。
聞き慣れた声に顔上げる]
いや、喰は先に戻ったわ。
[告げるより先に、白から失せる笑み]
なんぞ居るかと問うか。
子鬼の魂ひとつ喰ろうたまでよ。
[訝しげに。けれどしれっと告げて。
はらり、白の頬伝うものに眼疑う。
去る白を追う間もなく霧に阻まれ、
伸ばしかけた腕を弾くように引く。
ころり、袂から転がる水珠気づかぬままに。
ころころと下駄元転がり、たゆたう水珠]
……何故泣く。
己は百鬼よ。喰らわぬ道理などないわ!!
[霧の向こうに叫べども、声は届くか判らずに。
返る声は聞こえぬまま。唇噛み、視線そらして踵を返す]
[コロリ、足元に転がる水の珠。
拾い上げかけ、目に映るは――]
[蒼く蒼く澄んだ水に浮かぶさくらの花弁]
[映し出すは水鏡か]
[赤く赤く深く森で赤に浮かぶ白い子供の腕]
[戻る墨絵の小鳥、迷わぬようにと繋いだ糸も切れ]
[――せいじ、せいじ。子供の呼ぶ声ばかりがこだまする]
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