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[不意に振り返ると薄墨桜は枯れているか]
嗚呼、有塵の兄さんも逝っちまったンかィ。
本懐遂げたンかネェ。
[髑髏を持ち上げ枯れた木を見せ傍らから覗いて囁き]
散り際は見られなかったがさぞ見事だったンだろうさァ。
[緋色の髪の髑髏を抱いて、常盤が目の前に現れた。]
常盤様…その御首は……
嗚呼、喰児様でいらっしゃいますか……。
しかして、「遅れた」とは……こはいかに?
もしや常盤様、わたくしを狩るおつもりで……?
[常盤の赤い傘が、くるり。
じぃとその目を見つめて、遥月は息を飲んだ。]
アタシァ無事だヨゥ。
嗚呼、折角貰った華さァ。
枯れるまでは大事にさせて貰うヨゥ。
司棋の兄さんも無事かえ?
[司棋の様子にニィと笑み浮かべるも]
[問いに瞬いて髑髏をひょいと見せる]
[微か緋の残る白い手を胸元に置いて]
喰児ァ此処に居るヨゥ。
有塵…?…あぁ、あの黒衣黒髪の…
結局、お話する機会もなく…。
あの方、桜の精だったのですね。
皆、逝かれてしまいました…か。
[寂しそうに、ぽつりと]
嗚呼、喰児の髑髏さァ。
流石に骨全部は持って歩けないからネェ。
[遥月の言葉にコロコロ軽やかに笑い]
[息呑む様子にゆるり首を振って瞬く]
[緋に染まる面に残り翅揺する黒き蝶]
アタシァ司棋の兄さんの恋路を邪魔する気は無いヨゥ。
主様をなんとかしないと蝶が五月蝿くってネェ。
喰児様…貴方が…食った…のですか…?
[いつの夜だったか、大きな掌で頭を撫ぜられたこと思い出し。胸がつん、と痛むけど]
いえ、何も申し上げませぬ。
これが、僕らの仕事ですゆえ。
喰児様と翠の御方が満足なら、それでよろしいのでしょう。
[『恋路』の言葉と共に顔を紅葉に染め上げて]
何を…今更、からかうおつもりですか!?
恋路……
左様、ですか……。
[ぽつりと呟き、司棋をじぃと見つめる。]
いえ……
司棋さ……いえ、司棋はわたくしを殺さぬと申しておりましたが、果たしてもう御一方の狩人様は如何なものかと思って居りましてね……
そうですか………。
[紅を失くした遥月の視線は、常盤の蝶をとらえて揺れる。]
嗚呼、有塵の兄さんの桜も綺麗だったヨゥ。
喰児は誰ぞ本懐遂げたってェ謂ってたけどネェ。
有塵の兄さんの事だったンか判らないけどさァ。
喰児も最期に好い顔してヨゥ。
[司棋の顔見て浮かぶ笑みは柔らか]
其ンな顔おしじゃないヨゥ。
逝くンは寂しいばかりじゃないさァ。
[問いにひとつ頷いて髑髏を頬に寄せ]
嗚呼、全部喰ったヨゥ。
アタシも喰児も是で好いのさァ。
[頬染める様子にコロコロと笑って]
嗚呼、もうからかわないから安心おしヨゥ。
そろそろ往かないとだろゥ?
喰児様………
嗚呼、あの時にあんなに……童のように笑んでいらっしゃったのは、常盤様との「鬼ごっこ」が……
嗚呼……そうですか……。
[何かを思い出したように笑み、先ほど喰児が居た場所に視線をやった。]
司棋の兄さんは優しくて良い子だけど手がかかるからネェ。
お守役が居れば安心だヨゥ。
[紅無き遥月の眼差しを受け]
[黒き蝶の奥で漆黒が揺れる]
[白い手は蝶をなぞり瞬いて]
喰児を喰ったからもう鬼ごっこは満足したヨゥ。
ただ、結界解いて蝶を如何にかしないとアタシァ帰れないからネェ。
[暫し翠の言葉、目に涙を溜めつつ聞いていたけれど、そろそろ時間と思い立ち、涙をぬぐい、頷いて]
はい、取り急ぎ、為すことは為しましょう。
[遥月へ振り向き一言問い]
遥月…はどうする?これは僕らの仕事だから。
遥月にやることがあるなら、どうぞそっちに行ってきて?
往く……どちらへ?
喰児様は、常盤様が討たれた。
有塵様は枯れて消えた。
白水様は何処へと消え、気配は無く……
わたくしを狩るおつもりも無いとなると。
……残るは……。
…そうかィ、喰児は笑ってたンだネェ。
[遥月の視線を追い其処を見詰める眼差しは優しい]
[すぃと髑髏へ視線を落とし額辺りにひとつ口接ける]
残るは……主。
[視線を落とし、しばし逡巡した後、言葉を紡ぐ。]
………わかりました。
どうぞ、お往き下さい。
司棋。
……今から、わたくしの「主」が消え往きます。
わたくしに掛かった、ヒトの形の呪いが解け……わたくしの姿は、元に戻りましょう。
司棋……
わたくしがたとえ、どのような醜い姿に為ったとしても……決して驚かれないよう……
ええ……常盤様。
あの方の、あの時の笑みは、わたくしが見た中で一番幸せそうな笑みで御座いました……。
わたくしの理解を超える話では御座いますが……きっと、喰児様は幸せでしょうねぇ……。
[喰児の額に口づける常盤を見て、優しげな笑みを浮かべた。]
あ…。
[主の結界が消えることは呪いも解けること。言葉をつむぐ遥月へ、不安そうな目を向け。抱きしめたい衝動は、真理の前でもあり、懸命に押さえ]
…大丈夫。
「遥月」でいてくれるなら、どんな姿でも、僕は大丈夫。
[懸命に、笑顔で応えるけども、握り締める手は震えていたか]
主の憑代(よりしろ)たる狐さえ狩りゃ主も鎮まるさァ。
[愛おしげに髑髏を撫ぜ]
[遥月の優しげな笑み見]
[ふわりと柔らかに笑むか]
喰児の幸せが何かは判らぬが、アタシァ幸せだヨゥ。
だからこの身でひとつになった喰児も幸せさァ。
そう謂やァ遥月の兄さんは呪いで人に成ってるンだったネェ。
赤鬼さんは呪い解けたらどンな姿だったンだかネェ。
[髑髏を見詰め楽しそうにそう謂って]
なンなら一足先に向かうから司棋の兄さんは後から来るかえ?
夜斗さえ連れて往きゃ狐さんざァ一瞬だろうさァ。
たとえわたくしが、
蝶に成り、あの空へ飛び立とうとも…
虫けらに成り、貴方を忘れようとも…
餓鬼に成り、貴方に害を成そうとも…
……それでも、良いのですね……?
[司棋の頭をそっと撫でる。そして……]
……わかりました。
では……わたくしは、或る用事が御座います故、貴方の「仕事」は手伝えませぬ。
そちらに行き、事を為してから……
……もし司棋のことを覚えていたら、この社でおちあいましょう……
[ふと司棋に笑み、踵を返す。
そして遥月は、林の奥へと消えて行った――]
[冗談口のような言葉を残して去る遥月に言葉を返せず見送って。真理の言葉に我に返り]
あ、あぁ、狐の力量など知りませんが…とりあえず夜斗なら大丈夫かと。
一緒に参ります。さっさと終わらせたい。
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