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また――増えておるな。
[見知った顔のいくつかと、賑わう集まりに徐々に近づき首傾げ]
[赤毛の少年に視線を合わせばゆらりゆらりと傍へ寄り]
汝れを探しておった。
――何ぞあったか?
[瞳に浮かぶ水玉に]
[酌み交わされる杯に]
今宵もどうやら賑やかじゃ。
[ふとあの白い少女と視線が絡み]
これは…白水様…またお会いできましたね。
嬉しいことです。
[何かあったか問われると]
いやなに、「酒」というものを少し頂戴しておりました。
慣れぬものゆえ、少し見苦しいことを。失礼。
僕を捜してたとは…何か御用でも?
[さらり] [梳く髪] [赤の髪] [白い指先絡め取り]
[ゆるり] [解いて] [頬なぞり] [白い手離し頷いて]
酒は呑んでも呑まれるなってネェ。
林檎飴も初めてなら酒も初めてならゆっくり覚えると好いヨゥ。
焦らずも桜はまた来年もそン次も巡って咲くさァ。
[増える気配] [振り返り] [白水の姿] [一つ笑み]
[チャプリ] [掲げる] [瓢箪は揺れ] [小首傾げる]
白水の姐さん今宵は随分と綺麗に飾っておいでだネェ。
何なら白水姐さんも一献如何かえ?
[黒を纏う女が、こちらに近付いて来る。]
………おや。
これはまた、美しくも儚く揺らめく色がひとつ。
今宵は妙な夜ですねぇ……。いつも静かなこの境内とは、空気の揺れ方が違いましょう……
[盃をそっと降ろし、女に微笑む。]
社交辞令なんて器用な真似
俺には出来ねぇよ。
[肩竦めてもう一杯]
名がなきゃ不便なもんさ。
偽名でも何でも呼名があるとないとじゃぁ違う。
ま、礼儀を欠いちゃなんねぇな。
俺は喰児。
クイだろうが喰児だろうが好きに呼びな。
真名かどうかは想像に任せとくぜ。
[くすり][くすくす]
[口元に袖を当てて、愉しそうに光る紅。]
――いやなに、華の礼にと手土産を。
[取り出だしたる水の珠。
――珠の中には揺ら揺ら流るる清い光。]
詰まらぬものだが、妾はこれを眺むるのが好きじゃ。
ゆえに、汝れにも此れを与えよう。
泉に湧き出でた清き水――穢れなき清き結晶じゃ。
[常盤の少女に振り向いて]
酒は妾も嗜むが――今宵はちぃと止しておこう。
華は司棋が、妾にくれた。
ほぉ、アンタいけるクチだね。
いいねぇ。
[にっと唇歪めると
結城紬に杯掲げ]
まぁそう謂うなって。
ぱっと見じゃアンタの方が子供に見えら。
夜斗もそう思わねぇかい?
[傍に傅く使い魔に
冗談めかして問いかけた]
酒の匂いに惹かれたかい?
こりゃあ華も蝶もかくやってとこだなぁ。
熟れた林檎みたいに綺麗な色だな。
雪に椿、
そんなところか。
白水ってぇんだな、アンタは。
呑むかい?
[半ばそれは挨拶代わり。
常盤の女に断りいれる言葉を聞いて肩竦め]
つれねぇこった。
[相変らずの調子で笑う。]
喰児……さん、と申されますか。
[傍らにいる大男についと視線をやる。]
(……ああ。それ故に気配に「深い赤」を……。成る程、名は体をよく表したものですねぇ……)
貴方様から名乗られたのなら、わたくしも名乗らねば、盃を受けた恩義を返せますまい。
わたくしの名は……遥月。
「遥」かなる「月」と書いて、「はづき」と申します。
以後御見知り置きのほどを。
汝れと見えるのはお初かの?
そこな赤毛の男も――
確かに、確かに。
いつも静かな境内とは思えぬな。
[くすり][くすくす]
[瞳の紅は] [愉しそう]
されど――不可思議なこともあるまいに。
今は祭の時期ゆえに。
其いつァ失礼したネェ。
アタシァ女だからか嘘が巧いのさァ。
[コロコロリ] [軽やかな笑い声] [喰児の杯に瓢箪から酒注いで]
本当に名乗るなんざァ、随分と律儀だネェ。
クイ、喰児、喰い、くい。
名前なんざァ何だってアタシはアタシだけどネェ。
呼んで呉れるンなら其れも好い。
アタシの名は―――
[そぅと] [喰児の耳元] [寄せる] [薔薇色の唇]
[真理と囁く声小さく] [他の者の耳には届かぬか]
[弧を描く碧] [白い指は口許へ] [秘め事の合図]
喰児の好きな名で呼んでお呉れヨゥ。
[白水から受け取った水の結晶。
それを写す...の瞳、
蒼は更に鮮やかさを増し
黒はいよいよ深く]
…綺麗ですね。ありがとうございます。
その華も、ぜひ大事にしてあげてください。
[にっこりと嬉しそうに]
[喰児の問いかけに、ダルそうに頭を上げる夜斗は
肯定したそうに頭を擦り付ける]
…夜斗、そこで頷くンじゃないよ…。
[一睨み。夜斗はそ知らぬ顔してまた眠りへ]
[白水と名乗る女に紅色を帯びた視線を送り、三つ指をついて姿勢を変え向き直る。]
ええ。お初にお目に掛かります。
わたくしの名は、遥月。
……そうなのですよね。
わたくし、今日が祭だということをすっかり失念しておりまして。お恥ずかしゅうございます。
[喰児、遥月――刻み込むように]
[聴こえた名前を他と同じように小さく繰り返す]
悪いな。
禊の直後とあっては、さしもの妾とて控えてしまう。
[喰児に返したいたづらな答え]
[暗に普段は酒好きだと言っているようなもので。]
これで知らぬは汝れの通り名だけかの?
[常盤の少女に視線を向けて]
[されど問うたわけでもなく]
恩義なんてたいしたもんじゃねぇけどな。
まぁ貰えるもんは受けとくさ。
[頷き耳に届いた言葉
唇のみで反芻し]
了解、アンタの名前覚えたぜ。
罪だといった月と同じ名か。
それこそ、お仲間って所かもな?
[からかうようにまた謂った。]
[2人の名前を交互に呟き]
揺月…どのような文字を?また奥ゆかしい響きで。
[またいつの間にか注がれていた酒の杯、
少しだけ口をつけながら]
[喰児の言葉に振り向き、ゆっくりと微笑んだ。]
いいえ。わたくしの名に「月」の一字が在るのは偶然の成せる業。さる方から戴いた名を、未練がましく棄てられず名乗っているだけでございます。
「月」の一字を戴けたのは、至極光栄ではございますけれど、……ね。
[そっと喰児から視線を外し、祭囃子が響く虚空を見つめる。]
[振り返る白水] [ころころ笑い]
[掲げた瓢箪] [薔薇色の唇に寄せ]
勧められた酒くらいは呑んだって罰ァ当たらないのにネェ。
華は司棋の兄さんで、蝶は青…藍の鮮やかな茄子の兄さんだえ?
[遥月の名乗る声] [長い睫毛を瞬かせ] [酒を一口]
嘘かい、
まぁ綺麗なアンタに騙されんのも
また面白ぇかもしれねぇな?
[片目を細めて常盤を見つめ。
近づく顔に首傾けて、
耳に口寄せ囁かれるのは秘密の名前]
綺麗な名じゃないか。
……呼ばせてもらうぜ。
[ふっと笑って頷いた]
[司棋に頷けばゆるく微笑み]
――大事にしよう。
[白に咲いた黒い華]
[また一撫でし、感触に僅か目を伏せ穏やかに]
祭だと気付かなんだということは――
汝れが此処に居るのもまた、別な縁ということか。
結構結構――。
[遥月の様子に目を細め]
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