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墨絵の茄子の兄さん解かしちまおうかィ。
[歪む視界] [ぼやけた墨色] [袖に隠れ] [噛み締める唇]
[乗せられる手] [声は漏れず] [静かに] [はらり] [はらはら]
[零れる雫] [白の袖濡らし] [落ちれば墨も] [染めるか]
嗚呼、嗚呼、情けないネェ。
遊びの時間は是からだって謂うのにさァ。
ほら、もう泣いてないヨゥ。
目玉一つ持ってくが好いさァ。
[顔を上げ] [未だ濡れる] [長い睫毛] [震え] [ニィと笑み]
ほんに情けない。
誰も彼もわっぱのようじゃ。
[からり、ひとつ笑い。
顔上げる常葉の女、頭から手はゆるり離れて
変わりに動かぬようにと顎を持つ]
鼻汁は垂らしていないようじゃな。
まあ、良かろうて。ほれ屈め、そのまま動くなよ。
[するりと口寄せ、濡れる睫毛に口付け瞼を舐める。
ざらりと舌はそのまま目のふちをなぞり
涙掬って 差し入れ 眼球転がし
水音立て 唇離れ つうと伝う銀糸もひと舐め攫う。
両の目そうして舐めとれば、目玉は喰わずに置いておく]
良く泣くわっぱの目玉喰えば、
次の目玉も直ぐ食う事になろうて。
盲目の手をひくのも手間ゆえ。これで勘弁してやろう。
[顎掴まれ] [僅か眉根寄せ] [濡れた碧] [藍] [見詰めて]
[大人しく] [碧の眸] [舐められ] [片側終り] [瞬いて]
[また寄る顔] [逆の眼] [舐めて] [離れる顔に] [戦慄き]
[白い手] [空を切り] [青鬼の頬] [打つ] [乾いた音]
目玉呉れてやると謂い、何で手を引けと頼むのさァ。
幾ら情けなくとも其処まで落ちぶれちゃ居ないヨゥ。
[白い手] [己が眼に伸ばし] [片目抉り] [飛び散る紅]
[薔薇色の唇] [血に塗れた碧] [寄せて] [くちゃり] [食む]
次に泣いても目玉はやらないさァ。
変わりに墨絵を解かそうかィ。
[黒々と竜蛇を思わす幹にその身を預け]
[高枝の上で夢うつつに微睡む。]
[白き花霞に包まれて。]
[もとより耳目は飾りに過ぎねど]
[見ても視えず][聞いても聴こえず]
[夢幻のうちに揺蕩う。]
[下界を望めば、]
[物の怪どもが凶事に打ち騒ぐ様]
[穏かならぬ気配に覆われゆく様が、ありありと見えようが]
[心幽境に遊ぶ墨染めの衣には知るべくも無い。]
[じくり] [じく] [じく] [目蓋の奥]
[ずきり] [ずき] [ずき] [蠢く衝動]
どうせ放って置いても朽ちるかネェ。
[打たれた頬。飛ぶ紅。薔薇の唇添える赤]
―――っ
[藍は目を見張り]
かっかっかっか
[からからから空を見上げて笑う。
腹の底から笑う 笑う。ひとしきり底から笑った後に、
藍の目細めて弧を描く、細く細く弧を描く]
――気に入った。
目玉の無礼の代わりじゃ。
己と本気の鬼ごっこ解かすか喰うか、いつでも参れ。
さて、嘘か真か戯言かわからぬ己とお前よ、
お前は黒猫描けと言えば良い。己は黒猫描きに来たと言えば良い。
それでお前の魂食らうか己の魂食らわれるか、
鬼ごっこのはじまりじゃぁ
物の怪は所詮物の怪。
人の子とは違うたわ。
かっかっか愉快じゃ愉快。
己も物の怪、何を惑うことがあるか。
食ろうて食ろうて塵還る日まで食らい続けてくれるわ。
[片目抑え] [零れ] [白の浴衣] [紅く染まる]
[残る碧] [糸の如き弧を描く藍] [覗き込み]
一つ謂い忘れたヨゥ。
アタシの赦し無く触れた分は呪(まじな)いがかかる筈さァ。
片目と謂うに両目舐められちまったからネェ。
アタシの残るこの眼も何れ腐れ落ちる。
けれど兄さんの片目も同時に腐れ落ちるヨゥ。
[ニィと笑み] [片目抑えて] [片目瞬き]
まだまだ本気の鬼ごっこにゃ足りないさァ。
盲目になっちまう前には鬼ごっこ出来ると好いけどネェ。
[片目顰めて、残る碧を焼き付ける]
かっかっか、成る程成る程。
それもまた愉快じゃ。己の片目のひとつ解ける前に往くか。
お前の両の目潰れたその時は、残るもの全て攫いに往こうぞ。
後にも先にも約束一つ。
如何なる時にも合いの言葉で己はお前を食らいに行く。
本気になる前に、よその誰かに食われてくれるなよ。
たとえ喰児だろうて、邪魔をするなら容赦はせんわ。
[くつり笑む藍の色は強く、睨む程強く強く常葉を刻み
ゆるり背を向け歩き出す。何時の間にか落とした林檎飴拾い上げ]
はよう本気になれ常葉の娘。
[言の葉と番傘残してぺたりぺたりと木立の*向こうへ*]
お尋ね者 クインジーは時間を進めたいらしい。
[覗く藍] [真っ直ぐに] [見詰め返す] [隻眼の碧]
生憎と盲目に成ったくらいじゃそう易々と攫われやしないヨゥ。
さァてネェ、アタシァ気紛れだからさァ。
でも鶏より足りない頭でも一応は覚えておこうかィ。
[睨む程] [強い藍] [見据える碧] [弧を描く]
そンならそろそろ咲き乱れようかィ。
でも茄子の兄さんもさっさと本気におなりヨゥ。
[ぱたぱた] [紅零し] [苺飴片手に] [青鬼と逆へ*歩き出す*]
せっかくだから、冒険家 ナサニエル は お嬢様 ヘンリエッタ に投票するぜ!
冒険家 ナサニエルは時間を進めたいらしい。
[激しい痛みを伴って回顧されていた全ての想い出が]
[今はただかつてと同じく甘く優しく]
[胸塞(ふた)ぐ程切なく]
[胸の業火は消えぬ、]
[何故なら、彼のおとこを想うほどに涙流れ]
[息苦しく狂おしく身のうちが彼の男を求めて暴れる、]
[……されど]
[その痛苦の何と甘美なことよ。]
[昨日(さくじつ)までの、劫火の底でのた打ち回る]
[怒りと憎しみと嫉みに満たされた激痛とは何たる違い、]
[否、痛みは変わらぬのだ、]
[変わったのは、]
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