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やれやれ、食らうのも面倒だ。
そこの店主、番傘ひとつ貰おうか。
[飛ぶ礫に構わずに、
露店から番傘一つ引き抜き、刃物を弾き
ばさり開いては礫を弾く。
握る手力込めれば傷跡から滴る墨。
滴るままに吐息かけて、地に落ちては這う蔦の様]
そら、未練が無いよう林檎飴も奪っておけ。駆けるぞ!
[蔦は人ごみの足を絡めとり、転ぶ物の怪。
雪崩れる隙に傘差し常葉を急かして人気のない方へと連れて行く]
そンじゃ遠慮なく貰ってこうかィ。
[ひゅうい] [振るう白の手] [見えぬ糸]
[掴み] [寄せて引く][紅い] [苺飴] [林檎飴]
[ひらり] [返す手] [中空に] [留まる刃]
[カラリ] [刃は落ち] [青鬼と共] [駆け出すか]
此処まで来れば大丈夫かネェ。
[木々聳える] [森の奥] [歩を緩め] [両手に飴持ち]
手は大丈夫かえ?
数揃わずに追って来るほどのものは居なかろう。
あぁ、面倒じゃ面倒じゃ。
いくつか喰ろうてやったほうが大人しくなったかのう。
[木立歩み、適当な切り株。腰を下ろして番傘捨て置く]
手は仕方あるまい。
余り雑に扱うと良くない減り方をするがなぁ。
お前さんの方こそ何処も怪我はなかろうな?
傷でもつけたら赤鬼に合わせる顔が無い。
喰うンなら飴なんざァ要らなかったさァ。
[歩み寄り] [小首傾げ] [覗く藍]
[林檎飴持つ白の手] [つぃと差し出し]
減り方ってェ、本当に茄子の兄さんは墨絵かえ?
おや、赤鬼青鬼は仲違いかィ。
怪我でもしときゃ面白かったかネェ。
飴も物の怪もお前さんには同じものか。
[呆れ顔で返す。手の平に滲む墨。
息をかけるとさらり、煤に還り傷跡残すか]
さぁて、己の正体は如何かの。
気が向かぬから教えてやらん。
[手を伸ばし、林檎飴受け取り齧る]
……馬鹿を申すなとさっきも云うただろうて。
お前さんの戯言は戯言に聞こえぬわ。
それとも仲違いでもさせたいか。
美味しければ其ンで好いヨゥ。
おや、つれないネェ。
哀しい、淋しいと泣いて見せようかえ?
[言葉と裏腹] [コロコロ笑い] [カリリッ] [苺飴齧り]
本気も本気の鬼ごっこするンなら其れも面白いネェ。
いっそ此処で茄子の兄さんを喰ろうて喰児と鬼ごっこでもしようかィ。
逆に喰児を喰ろうたら茄子の兄さんはアタシと遊んでお呉れかネェ。
はいはい、はい。
泣くのなの字も見えんぞ。
[しれっと飴齧る]
それならいっそ此処で己がお前を食らうてやるか?
しかしそれでは己が喰に喰われてしまうわ。
どちらにせよぐるりひと巡りの鬼ごっこになるじゃろうて。
己の気に入るものを喰われれば己が食い返す。
それとて他も同じものだ。延々喰うか喰われるか。
どちらか食い尽くされるまで終わらぬ。
生憎アタシァ喰う専門さァ。
[吊り上がった] [薔薇色の唇] [戻った筈の] [碧の双眸]
[やおら潤み] [ニィと笑んだ侭] [白い頬伝うは] [透明な雫]
せっかくだから、酒場の看板娘 ローズマリー は 冒険家 ナサニエル に投票するぜ!
***
アタシァ負けた筈さァ。
何故喰わぬかえ?
[舌を噛み切ろうとした折] [噛み付いた指] [滲む紅眺め]
[小首傾げ] [揺れる常盤] [白い手] [すぃとかきあげるか]
「気に入った者を何故喰らう?」
***
[瞬けば益々零れるから] [長い睫毛] [震えるばかり]
[藍を見詰め] [薔薇色の唇] [尚もニィと笑んだ侭に]
厭だヨゥ、笑ってるさァ。
其れとも泣けば慰めてお呉れかえ?
[藍の瞳は困惑を浮かべ][常葉の女を計りあぐねている様]
笑っているなら、頬を拭え。
泣かれるのは嫌いじゃ。
煩くて、煩わしくて、泣き止むまで如何にもし様が無い。
お前は泣いているのか笑っているのか。どちらだ。
……せいじ、せいじっ
子供が泣く。
昨日はけらけらと笑っていたと思えば
今日は何が悲しいのかわんわんと泣く。
猫やら犬やら解けて消えてしまった煤をいつまで離さず。
それでも腕の隙間からするする解けて解けて。
子供の着物は煤にまみれて、
男の姿にひしと抱きつき涙で濡らす。
やめろ、濡れると解ける。
男はぐいと子供を引き離す。
子供は泣く泣く。わあんと泣いた。
それでも離れずに小さな手は袂を掴む。
男はただ立ち尽くし途方に暮れた。
茄子の兄さんに嫌がらせ出来るンなら、では泣こうかィ、喚こうかィ。
欲しけりゃ目玉一つ呉れてやるヨゥ。
[笑み] [崩れる前に] [俯き] [雫] [はらはら零れ]
[白の袖] [顔を覆い] [声も無く] [震えれば] [袂の墨も揺れ]
[するり手を伸ばし、袂を除けると落ちる涙、指に当たる。
涙の痕に浮かぶ薄墨、眉根を寄せて、指握りこむ]
[次いで伸ばす手、頭に置いて]
では好きなだけ泣け、喚け。
それでも触れてくれるな、痛くて痛くて解けてしまう。
墨がぱきりとひび入ってしまう。
泣き止んだら顔を上げろ、それからじっとしていれば良い。
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