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嗚呼、開耶様。ごきげんうるわしゅう。
今日も佳い香りですねぇ。
[ほんのりと紅潮した頬と首筋、盃を持つ白い手首。遥月は、紅を纏った視線を開耶に向けた。]
いつにも増して色香が漂うなぁ、遥月。
謂っても会ったのはついこの間だがねえ。
[真理が勧める甘露の酒に
己が手にある杯差しだし]
そんならこれから乾杯だ。
花びらも呑みほすくらいに呑んでやれ。
有塵は騒がしいと睨むかもしれねぇがなあ。
[僅かに顔上げ櫻を見上げ、
泪の話に及ぶの聞けば]
そいつぁいけねえ、それこそ甘露さ。
佳い女の泪の前には形無しさあ。
[真意の見えぬ物言いで]
[出された杯][とくりと満たす]
飲んでも酔えぬが――よく飲んでおったな。
この身に湧き出る泉の力が酒を綺麗に流してしまう。
難儀よのぅ。
[司棋に視線を這わせれば]
あれからずっと寝ておるか。
わっぱと言われても仕方なきことやもしれん。
[くすくす笑う]
ええ、白水様。
キリリと辛い刺激を持つ果実……。
白水様の纏う色――上質な絹を思わせる黒と、目の醒めるような鮮やかな白、その色其のままですよ。
毒持つ蝶に遊ぶ蜘蛛かえ?
蜘蛛を厭わぬ蝶たァ嬉しいヨゥ。
遥月の兄さんの毒に焼かれぬ様に気をつけないとネェ。
[乾く遥月の盃] [白の手伸べて] [とぷとぷり]
[視線に瞬き] [問いに] [また瞬き] [益々潤む碧]
蝶はアタシに成ったのさァ。
晒しはせぬが遥月の兄さんの胸と同じく蝶が翅を休めてるヨゥ。
[青鬼の声] [つぃと顔向け] [ニィと笑み]
アタシァ恋われりゃ誰でも喰っちまうさァ。
謂うならアタシじゃなくて相棒に釘をお刺しヨゥ。
[遥月の声かけるに] [濡れた碧の眼差し] [向き直る]
[常葉の女に苦笑を浮かべ]
直ぐに忘れるとは鶏か。
やれやれ余計な事ばかり憶えてもしかたなかろうに。
では童の次にわからぬわ。
[浮かぶ笑みにこちらの瞳も細く弧を描く]
さあてなぁ?
食われたならばお前さんが決めればよかろうて。
[言い終えてからり笑うと、くつくつ笑う赤鬼へ]
ああ、よきかなよきかな。
桜咲くのは良い事だ。
夜斗はあれから見てないのう。
芸を気張りすぎて今頃何処かで寝こけておるかもしれんな。
育ってもこの有様ではいつまでもわっぱよ。かっかっか。
俺の心配してくれるのかい、
泣けるねぇ相棒。
[すいと杯呑み乾して
藍を見つめて笑い顔。]
強くないが受けた杯は乾すんだなあ。
そりゃあいい、
そういう心意気は好ましいぜえ。
[遥月は更に酒を呑む。
紅眦はいよいよ赤く。
また赤鬼も酒を乾す。]
呑んで酔えねぇのは難儀だねえ。
騒ぐ白水も見てみたいがなあ。
歌を歌ったりするのかね。
――くつくつ。
いやですねぇ、喰児様。
わたくしを褒めても、深みある甘露は出せませんよ?
わたくしは男、寄る辺無き身。女人の涙には敵いますまい。
――くつくつ、くつくつ。
なんなら、お好きな味を試されてはいかが?
甘露に、ハッカ……毒の蜜。
――くつくつ、くつくつ。
[白に差し出す杯満たされて、
水面に落ちるは桜のひとひら]
飲んでも酔えぬか、それもまた難儀だろうて。
泉……ふむ、触れれば濡れるか?
[訝しげに白を見遣ってから
司棋へと視線を落とす]
さてはて、何と言っていたか。
[杯口につけ、ひとつ唸る]
口付ければ起きると申しておったかのう。
気づかないほど寝こけていれば効果はなさそうだが。
[わっぱの鼻をむにりと摘む]
キリリと辛い――か。
[珍しく――心底可笑しそうに笑って]
ならば、汝れがその刺激で舌を焼かぬよう気をつけるがいい。
清浄な水の流れは毒をも流してしまうやもしれぬからの。
[告げる声はいたづらに]
[常葉の言葉に肩を竦め]
やれやれ、お前さんに云うても無駄か。
さてはて己の相棒は――
[見れば杯飲み乾し笑う赤鬼]
こちらも云うても聞きそうにないな。
心配でもして赤鬼も泣いたら青鬼は途方に暮れるわ。
かっかっか、気が向けば骨くらい拾ってやることにしよう。
[差し出される] [赤鬼の盃] [白い手伸べて] [とぷとぷり]
嗚呼、そうだネェ。
有塵の兄さんにゃ厭われようも、咲き乱れた己を恨んで貰おうかィ。
[見えぬ真意] [薔薇色の唇] [浮かぶ笑み] [変わらず]
泪の味なんざァ忘れちまったけどネェ。
喰児が形無しになっちまわない様に泣かないでおこうかィ。
[青鬼の苦笑] [肩竦め] [揺れる常葉]
鶏のが幾らか賢いかもネェ。
判らぬ茄子の兄さんも面白いから判らぬ侭で好いヨゥ。
[細まる藍] [薔薇色の唇] [吊り上げて]
其ンじゃ其ン時ァ魂ひとっつ貰い受けようかィ。
蝶よ花よと麗しいねぇ。
[言葉が飛び交い遊ぶ声。
緋色の髪をかきあげて]
愛したもんを喰っちまうとは罪だねえ。
血と為り肉と為っちまうっていうわけだ。
それはそれで甘美だな。
[人食い鬼はくつくつ笑う。
遥月の笑いが重なった。]
男だろうが女だろうが綺麗なもんは綺麗さあ。
試すなんてあまっちょろいな、
毒を食らわば皿まで、さ。
[喰児の言葉に幾度か瞬き]
騒いだ妾か。
妾とてついぞ見たことはないな――。
[真顔で思案]
歌は酔わずとも歌えるが、披露するものでもなかろうて。
[青司に視線を合わせれば]
――触れて濡れるのなら、雀はとうに消えてるじゃろうな。
内に流れる力ゆえ――ああ、こういうことなら出来るがな。
[すっと細めた目の奥に] [光る緋色は透き通り]
[――辺りは濃霧に包まれて] [暫く経てば霧は晴れ]
これを芸と言うては面白みがないかの?
[首をかしげて藍を見る]
[常盤の言葉に笑みを浮かべる。]
恋われりゃ食らう……それはそれは畏ろしい蝶々様で。嗚呼、蝶なら蝶同士、其の翅を重ねるのも悪くは御座いますまい。
――くつくつ、くつくつ。
[再び視線は白水に向かい]
ふふっ……ならば、白水様の清水にわたくしの毒を流されぬよう味わいましょうか。或いは、わたくしの身に宿った因果……毒の呪いだけ浄化願えますか?
――くつくつ、くつくつ。
[眠る司棋に近付き、唇に白い指先を乗せる。]
嗚呼、可愛らしい司棋様。
其の様に無防備な姿を晒しては、毒の蝶が貴方様を食らってしまいますよ?
――くつくつ、くつくつ。
[喰児の目を見て、紅は笑む。]
毒を食らわば、いっそ皿まで……嬉しゅう御座いますねぇ。
では、其の味を少しだけどうぞ。
……一度に味わわれては、面白みに欠けます故に。
[喰児の顎をそっと指先で上げる。]
嗚呼、移り気な蝶と笑われないで下さいませね。
[酒注ぐ白の少女] [つぃと濡れた眼差し] [なぞり]
白水の姐さんは酒には酔わぬかえ?
酒に酔わねど見事な桜に酔ったら如何かえ?
其れとも色に酔うのかネェ。
[肩竦める青鬼] [コロコロ笑い]
心配せずとも誰もアタシに本気になったりしないさァ。
茄子の兄さんの相棒もアタシと遊んで呉れてるだけだヨゥ。
[赤鬼の声] [潤む碧] [弧を描く]
愛なんて難しいもンはアタシァ判らないヨゥ。
恋われたら喰ろうてこの身、重ねるだけさァ。
[くつくつ笑う] [色めいた声]
遥月の兄さんと翅合わせるンかえ?
楽しそうだが生憎とこの身は呪いだらけさァ、寄り添うンなら大火傷じゃ済まないヨゥ。
[くつくつ笑う遥月を再び眺め]
笑い上戸か?今宵の汝れはよく笑う。
――毒の因果か。難儀じゃな。
浄化しようとして飲まれてしまっては妾が手遅れじゃ。
[浮かべた笑みは妖しくて]
泉で禊ならばいつでもするといい――。
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