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妾とてずっとこのままで居たいというわけではないが……
――否、然し。
汝れの申す通り、その考えは面白いことやもしれぬ。
[嗤いかけた男へと妖艶な笑みを返し]
これも祭の力と思えば、不可思議なこともあるまいに。
[常盤色の髪の少女の声に耳を傾けて]
元の姿には何れ戻れよう――今はこのまま愉しもう。
佳い宵じゃ……。
月は人間を狂わせるらしいけど、アタシ達は如何かネェ。
今日はツイてるらしいから、兄さんにもお裾分けさァ。
[伸ばされる手] [長い睫毛瞬き]
[解れ毛梳いて] [僅か俯き加減]
有難う、お返しなんて良かったのにネェ。
見えないから兄さんの言葉を信じるヨゥ。
[ふわりふわり] [常盤色に咲く花]
[そっと撫ぜては] [声に振り返り]
兄さん、今は今でこの形を楽しんだ者勝ちじゃないかえ?
別段に何時までも此の侭で居ようなンて思わないさァ。
[白の少女の向こう] [現れる男に微笑む]
まぁ…良い宵であることは認めよう。
我も、この春とやらは嫌いではないから…。
[白の少女の言葉に嗤いを絶やさず]
不可思議なことなど存在せぬと云うのか。
ふ、ふふふ…ふふっ。ははは。
[高らかに響く笑い声は祭り囃子にまぎれ]
[刀を持つ男にやや顔を顰め]
また…物騒なものを。
それを振るうのはどうぞここを出てからに。
せめてこの綺麗なお二人には見えないよう。
[改めて月を見上げ、溜息を一つ]
あぁ、少し人酔いしたようですよ。
なれぬことはしない方がよろしいでしょうか。
僕は暫く休みに。失礼しますよ
あぁ、ところでまた会えるでしょうか?
出られないならいっそ互い暇つぶしでも、と。
それじゃ、気をつけてお楽しみを。
誰が何を見ているか、わかりませんからね。
[少年とも少女とも言えない様な、儚げな笑顔を浮かべると、そのまま人ごみの中へ*溶けて行った*]
おやおや、兄さんは難儀かえ?
[嘲り滲む男の笑み] [返すたおやかな笑み]
[コロコロ笑って] [カリリッ] [また苺飴を齧り]
春の宵、桜の香、鶯の声、好いと謂わず何と謂おうかァ。
折角の祀りさァ、楽しまなきゃ損だと思うけどネェ。
[去り往く少年] [ひらひらり]
[白い手を振り] [見送る背中]
アタシと遊んで呉れるンなら何時でも歓迎するヨゥ。
大勢が苦手なら今度は二人で遊ぼうかえ?
兄さん、またネェ。
[冗談交じり] [コロコロ笑い]
[白の手] [白の浴衣の袂] [揺れる]
[赤毛の少年に短く切って捨て]
…女に振るう刀などないわ。
我の相棒である火影と垂氷が穢れる。
其方、何も解っておらぬな…。
[遠ざかって消えた赤毛を見送った]
[カラン コロン]
我も騒がしい場所は好まぬゆえ、失礼するぞ。
[そう言うと、下駄を鳴らしながら人混みにまぎれ
目立たない場所で影となって姿を*消した*]
[男の様子に袖で口元を隠した格好でくすりと笑う目元。]
何やら汝れも幾分か楽しそうじゃ。
春が嫌いでないのなら、今を存分に愉しむが良い。
戻れぬということも貴重と言えば貴重――。
[祭囃子は尚も続き去る青年に視線をやる。]
妾を綺麗と申せるも、今の形(なり)ゆえのことやもしれず。
[つられるように月を見上げ、一拍眺めて目を伏せて]
妾がココが気に入っておるから――何れまた会えよう。
[同じく去っていく男を目を細めて眺め、
気配がなくなればくすりと笑う。]
穢れる――か。
汝れがそう申すのであれば、其れは穢れるのであろう。
[カラリ][コロリ]
[少しばかり歩み出で]
騒がしい場所は好まぬ、か。
嗚呼、泉は好い――身を清められ、落ち着ける。
アタシ達は斬らないなんざァ、お優しい刀だ事。
兄さんも、またネェ。
[空いた白の手] [帯の団扇を抜き]
[はたり] [揺れる常盤色] [花簪]
兄さん達は厭うけれど、アタシはこう言うのも好きさァ。
姐さんは呪いが解けたらどんな形に成るンかえ?
[小首を傾げ見遣る白の少女] [はたり]
[宵風に乗る祭囃子] [碧の双眸を眇め]
[常盤色の少女の問いに振り返り、悪戯げにくすりと笑んで]
そうじゃな――
[ふらり][ふらり]
[酔ってもないのに千鳥足]
綺麗だと申すものがおった。醜いと申すものもおった。
ゆえに妾は、今の形も元の形も好いておると言えよう。
[答えにならぬ答えを返し、月を仰いで笑みは妖艶。]
そうじゃな。若し戻れたならば――汝れに其の形で語りかけよう。
きっと、そう遠くはないじゃろう。
[カラリ][コロリ]
[足音は軽やかに]
そろそろ失礼しよう――。
身を清める時間ゆえ。
綺麗も醜いも主観さァ。
其ン時は祀りで逢ったと教えてお呉れヨゥ。
紅い眼あれば聴かずも判るかえ?
[白の少女の後姿] [遠退く下駄の音]
[カリリッ] [苺飴] [食べ終え] [塵捨て]
…覗かれない様に気をつけてネェ。
[人混みへと失せた背中に呟いて]
[コロコロり] [笑い] [カラカラリ] [歩く]
是でこン子達を掬うンかえ?
[白い手] [するする] [追い掛ける]
[紅い尾] [揺ら揺ら] [水槽の金魚]
ほゥら、つかまえたヨゥ。
[パシャリ] [椀へ放り] [パシャリ]
[狭い椀] [泳ぎ回る] [出目金達]
母さん帰らぬとでも謡いながら殺そうかァ。
[冗談か] [本気か] [コロコロ笑い]
[パシャリ] [水槽へ] [逃げる金魚]
[カラコロコロリ下駄が鳴る
社の前から、人ごみ分けて露天へと。
肩には墨絵のウグイス。ホーホケキョ]
なんだ、娘。
せっかく捕まえたのに逃がしてしまうのか。
[金魚の水槽を見下ろして、
真理の後ろからひょいと顔を覗かせる]
[パシャリ] [椀の出目金達] [黒と紅]
[寄って] [離れて] [パシャリ] [擦違う]
沢山居たって窮屈さァ。
夫婦(めおと)くらいが丁度良いヨゥ。
[解けた最中] [二匹の出目金] [差し出し]
[袋で踊る] [夫婦の出目金] [受け取り]
おや、兄さんも呪いが解けぬのかえ?
[覗く男] [見上げる碧] [視線は下り]
[隻腕の男] [揺れる袂] [幾度か瞬いて]
呪いが解けても隻腕かえ?
[小首傾げ] [揺れる常葉色] [花簪]
[薫る白粉] [微かな桜] [問いに悪意無く]
雄か雌もわからぬのに夫婦とは金魚も良い迷惑だ。
かっかっか。
[下がる袋を覗いて、からりと笑う]
はて、呪いが解けぬとな。
己はちょくちょくこの姿ゆえ、
なんぞ難儀な事があってもちいとも気づかなんだ。
[片腕で顎を撫でると、首を捻り。
肩のウグイスを指で払う]
さぁてどうかな。腕も足もあればよいが
それ、呪いかどうかも見せてやろう。よっと――
[人もまばらなタイミングを見計らい、宙返り]
……おやまあ。己も解けぬようだ。
[浴衣の合わせを直せば、ウグイスは再び肩にとまる]
[遊螺り] [立ち上がり] [飛ぶ鶯] [跳ねる男]
[視線へ] [持ち上げ] [紅と黒] [夫婦金魚]
仲良き事は美しきかなってネェ。
仮令雄同士でも雌同士でも夫婦は夫婦さァ。
[墨の鶯] [男の肩へと戻り囀るのに]
[袋の金魚] [寄り添い離れ擦違うか]
兄さんは其の格好がお気に入りかえ?
中々に男前だけど、隻腕は不便そうだネェ。
林檎飴と苺飴を一緒に持てないと困っちまうヨゥ。
[コロコロ笑って] [袋持つ白い手]
[墨の鶯へ伸ばし] [触れてみようか]
[少し屈んで、手が届くように肩を下げる]
夫婦は夫婦か。随分と楽天的な娘なこった。
おっと、手が濡れているなら触れてくれるなよ。
ウグイスが解けて滲んでしまう。
飛べぬ鳥は可哀想だ、かたわの不便は充分承知。
[お気に入りかと問われ、]
村の子供をさらうに丁度良い。
[藍の瞳が弧を描く]
そもそも二ついっぺんに食べはしない。
お前さんは楽天的な上に欲張りか?
腕は仕方あるまいて、そのうち右腕残して指先残して綺麗さっぱり消えうせよう。
本懐、本懐。
[からからからり、笑う男]
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