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[響く、蝶の羽ばたき風の音。
常盤の声が直ぐ傍に。
逸らされた腕、眇めた金。
そして]
―――ッ!
[真っ直ぐ伸びた細い腕、
そのまま赤鬼貫いて、緋色の牡丹を闇夜に咲かす]
はっ、はははは……ッ
[笑う声に血が混じる。
逸れた腕を引き戻し、背に爪立てるも貫けず。
金の眼逸らさず常盤を見つめ]
ああ、捕まっちまったかぁ―――
[それはそれは愉しげに、
鬼はぐらりと身体を傾ぐ――――]
―しばしの後―紅い泉のほとりにて―
[刹那のような、永久のような――
身体寄せ合う逢瀬の後、遥月は立ち上がり、そっと司棋の身体を持ち上げた。]
………司棋様。
貴方様は、そろそろ狩りに行かねばならぬのではありませんか……?
[双の腕で抱き上げたまま、司棋へと首に腕を絡めよと囁いた。]
……お社に、行きましょう……。
わたくしにお手伝いできることは、如何様にも……
[司棋を抱えて、社へと――]
―――とす…
[しなやかな肉体の抵抗はあるも貫く音は微か]
[見上げる緋の鬼の笑い声には緋の気配が滲み]
[金色の眼差を受け互い違いの双眸は瞬きもせず]
嗚呼、摑まえたヨゥ。
[白い手にじわりぬるり緋の気配]
[背に爪立つも笑みは変わらずに]
[一層に艶を増して鬼を仰ぎ見る]
嗚呼、喰児―――
[交わる金色と碧の間をひらり薄紅の蝶が過ぎ]
[紅に濡れた震える手は赤鬼の頬をそぅと撫ぜ]
[唇の端紅が伝うも浮かぶ笑み妖艶にして遙遠]
―――楽しかったヨゥ。
――――はは。
愉しかったぜえ。
真理。
真紅。
最高――――……だ。
[鬼は笑って、最後の顔を焼き付けて。
其のまま*光を喪った*]
[―――ザアァァァァアアアァァアァ…]
[月夜に舞う薄紅と極彩色、すり抜け何処へ行くのか]
――あぁ、
[白く細い腕は赤鬼の胸元に吸い込まれるよう。
宵に咲く花に鬼の笑う声]
ああ、笑ろうたか。赤よ。
[藍の目細め口元上げて。
鬼の腕は常葉の女を抱くように
ぐらり傾く赤鬼の大きな体]
[その姿は捕まったのか、或いは捕まえたのか]
酒場の看板娘 ローズマリーは時間を進めたいらしい。
[情事の熱、未だに覚めやらず。気絶するように意識を手放し、眠っていたのもつかの間、遠くで祭り囃子が主の到来を知らせるか
がばり、飛び起きるも体の痛みに眉を顰め、身動きとれずにいると遥月に急に抱き上げられ。社へ行こうといざなわれれば]
…はい、では、最後の仕事、為しに参りましょう。
[求めるように首に手を回し、抗うことなく社へ向かう──]
喰児も最高さァ。
[笑み浮かべる唇に薔薇色の唇を寄せ]
[頬に、額に、目蓋に、体中に口接け]
[眼を、肉を、臓物を、静かに喰らう]
[其の身の何処に肉収まると謂うのか]
[呪い解かして即血肉と成り行くのか]
[常葉も、浴衣も、全身を紅く染めて]
[手にした心の臓を齧り咀嚼しながら]
[至福の笑み浮かべゆるり睫毛瞬かせ]
[ぴちゃり、くちゃり、喰らい尽くすか]
嗚呼、嗚呼―――
[緋の残る髑髏(されこうべ)膝に抱え]
[ぬるりつるりと慈しむ様に其れを撫ぜ]
[満ち足りて浮かぶ笑み妖艶にして遙遠]
ほゥら、捕まえたヨゥ。
[まるで赤子をあやす様に優しく囁き]
[頬寄せて薔薇色の唇を落とし口接け]
[コロコロコロリ軽やかな笑い声が響く]
[はらり、ひらり散るは桜か血の赤か
それとも極彩色か、空見上げ]
もういいかい、
――もう良いよ。
[闇に謳う鬼ごっこ、青鬼笑う]
―社にて―
[宴が在った場所であるというのが嘘であるかのように、社は宵闇の中、しんと静まり返っている。]
司棋様、司棋様。
社へ到着致しましたよ。
……とはいえ、どなたもいらっしゃりませんが……。
皆様、鬼ごっこに励んでいらっしゃるのかしら……?
[風に乗り届く祭囃子にすぃと視線を移し双眸を眇め]
おや、そろそろお目覚めかえ?
[緋に濡れ所々赤黒に染まる常葉を結い上げて]
[緋に染まる赤鬼の衣破き腕と胸元に巻きつけ]
[緋の鬼の髑髏手に持ち遊螺リ立ち上がり瞬く]
鬼ごっこも終ったし鬼退治に行こうかネェ。
[紅い番傘拾い上げくるうり回し開いて]
[血溜りに残る骨眺め踵を返し歩き始め]
[カラコロカラリ下駄の音引き連れ社へと]
[また腕の中で意識を飛ばしかけていたけども、着いたと聞こえ、ふとまた目を覚まし。遥月の呼びかけに、少し幼く笑いかけ]
…折角ですから…どうぞ司棋、と呼んでください。
僕も、遥月、とさっきから呼んでいるのですが?
[苦笑しながら、あたりを見回し]
本当に…。翠の…あの方も…そろそろいらっしゃるはず…
喰児様とまだ…?
[緋と紅に染まり紅い番傘差し片手に髑髏持ち]
[其れでも大輪の白牡丹は常葉に白く蛍火を灯す]
[社に着けば見える影の二つは見知った顔だろう]
遅れちまったかえ?
[司棋と遥月へと歩み寄り小首を傾げる]
[司棋の身体を、社の渡り廊下にそっと下ろす。
不意をつく司棋の言葉を耳にして、肩を竦めて微笑んだ。]
……困りましたねぇ……
わたくし、普段からこの態で御座います故、どなたかを呼び捨てで呼ぶことなど……
[じぃとこちらを見つめる司棋を見て、参ったと言わんばかりの表情を浮かべる。]
ふふっ……わかりました。
『司棋』……
これで、よろしゅう御座いますか?
[真理の気配を感じ、足覚束なくとも遥月の腕より下へ立ち。情事の残り香はこの暗闇で消すことできるか]
翠の…ご無沙汰を。
その白牡丹、散らさずに持っていて下さった様で。
ご無事で何より。
その…喰児様…は?
[不意に振り返ると薄墨桜は枯れているか]
嗚呼、有塵の兄さんも逝っちまったンかィ。
本懐遂げたンかネェ。
[髑髏を持ち上げ枯れた木を見せ傍らから覗いて囁き]
散り際は見られなかったがさぞ見事だったンだろうさァ。
[緋色の髪の髑髏を抱いて、常盤が目の前に現れた。]
常盤様…その御首は……
嗚呼、喰児様でいらっしゃいますか……。
しかして、「遅れた」とは……こはいかに?
もしや常盤様、わたくしを狩るおつもりで……?
[常盤の赤い傘が、くるり。
じぃとその目を見つめて、遥月は息を飲んだ。]
アタシァ無事だヨゥ。
嗚呼、折角貰った華さァ。
枯れるまでは大事にさせて貰うヨゥ。
司棋の兄さんも無事かえ?
[司棋の様子にニィと笑み浮かべるも]
[問いに瞬いて髑髏をひょいと見せる]
[微か緋の残る白い手を胸元に置いて]
喰児ァ此処に居るヨゥ。
有塵…?…あぁ、あの黒衣黒髪の…
結局、お話する機会もなく…。
あの方、桜の精だったのですね。
皆、逝かれてしまいました…か。
[寂しそうに、ぽつりと]
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